印刷図書館倶楽部ひろば

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「page2013を透かして見ると」

2013-02-15 14:49:11 | 印刷業界ニュース




「page2013を透かして見ると」 久保野 和之


 今年も池袋サンシャインで、ベージ2013年が開かれた。印刷業界では機材展が多いので、珍しいイベントともいえるソリューションが中心の内容になっている。立地条件の良さか、連年どおり会場には人が溢れている。

 考えてみればベージの始まりは、まさしく印刷技術の驚異的は変換期に遭遇していたような気がする。デジタル社会到来の先導者として、アナログ時代の様式を一変させた役割は、今考えてみれば技術革新の粋を極めたともいえる。

 今年の傾向は電子書籍の動向に注目が集まっている。確かに便利で、簡単にアクセスができ、しかもリーズナブルといいことずくめの電子書籍は、印刷に携わったものとしての寂しさは禁じえない。

 ペーパーレスの代表みたいにタブレット型が登場してから、確かに出版物は減少してきている。しかも、アメリカの代表的な出版物であるニューズウイークが2012年度末で紙出版物の廃止して、今後は電子出版へ全面的にシフトすると発表した。ただし日本語版は、そのまま継続するという。

 しかしそれもパラダイムが変われば、おのずと社会構造は変化するのは仕方のないのかもしれない。例えば、学校教科書はタブレット型へ移行したほうが合理的であり、使い勝手がいいし、これから未来を背負って立つ子供たちは、情報量の量と質の両面でのメリットが生かせる機能が決め手になると思う。
 
 デジタル社会では、今までの概念が一掃され新しい価値観が創出されつつある。その代表的なキーワードは「ロングテール」がある。ロングテールの生み親はクリス・アンダーソンが、2004年に自分が編集長をしていた「ワイアード」で発表したものだが、またたくまに燎原の野火のごとく世界を席巻した。大量生産にて消費社会の寵児であった、大会社の仕組みは、いかなる時も市場を占有する恐竜のごとく君臨した。しかし、デジタル社会の仕組みは、恐竜の巨大化とともに、食べる草ともいえる市場の激化による共倒れの危機に瀕している。皮肉なことに日本が誇った家電・半導体市場が、まさにこのことが言えるし、自然の理にかなった持続的な社会構造は、バランス良く均衡が保てるこそ循環形社会が成り立つ、その意味でもクリス・アンダーソンの提言は突き出ていた。

 ロングテールとは恐竜の尻尾の話である。それはデジタルだからこそ可能な話である。たった一人でも、時間と、場所や資金、そして人材の有効利用が可能になる。そんな時代が生まれとロングテール予言をした。

 そのクリス・アンダーソンが、次に試みたのが、2009年7月7日に、自ら書き起こした「FREE:フリー」を、表題どおり無料でネットによるダウンロードを3ヵ月間実施した。その後ダウンロードを止めてから、ツイッター等で評判になり、世界25ヵ国で、紙出版物として刊行された。

 日本でもNHK出版が2009年11月25日に刊行されベストセラーになった。読後感から言えば、結局は本物の良さは、どこまでいっても人に読まれるというのは、コンテンツの質の高さで決まる。それは最初にネットというショーウインドかも知れないが、良さかわかれば身近に置きたいという本能に目覚める。そこから考えられるのは感銘を与える、究極の本作りが残されているような気がする。出版社も印刷会社も、意外なもので原点回帰が決め手になるかもしれません。 (2013年2月9日)