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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会 ≪2014年11月度≫

2014-11-26 16:00:40 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

印刷図書館クラブ」月例会報告(平成26年11月度会合より)



●印刷媒体の効用を見直す機運が……


 福島原発の事故を機に「製造物責任法」(PL法)の見直しが検討されているそうだ。事故対策のマニュアルを改訂し、しかも印刷物として残そうという話になっている。リスクに対処できる確かな裏付けが求められているのだ。日本では今、地震や津波に対する潜在的な怖れがある。防災マップがなければならないのだが、東京都などでは、小さく畳んで持ち運びできるような印刷物を用意しておこうという方向になっていると聞く。その背景には「印刷物の防災マップをつくって、きちっと体制づくりしてくれ」との声が強まっている事実がある。こうした災害への対策はそのつど部分改正されてきた。それが続くうちに、印刷物のマニュアルが置き去りにされてきた感がある。そもそも、この種の情報を電子媒体ですべて賄おうという考え方にムリがある。PL関連では、製品に貼り付けるシールや表示するパッケージなど、印刷物の利点を役立ててもらえる部分も多い。印刷媒体こそ、しっかりと機能できる領域だと思う。


●立ち位置はどこにあるのかを再考しよう

 このような話は、どんなかたちであろうと、印刷媒体の強みを発揮できる分野が存在することを示してくれる。電子媒体をベースに時代の波は進んでいるが、原点に戻って「印刷媒体は大事だ」と見直してくれている分野がある。印刷業界はこれまで「電子媒体にどう対応すべきか」ばかりを考えてきたが、本来的な重みをもっていることに気づかなければいけない。残しておくべきストック情報、一時的に使うフロー情報を峻別して、印刷媒体の強みを提唱していくことこそ、印刷業界が取り組むべき課題である。普段、何気なく使っている「用語」を正確に定義し直してから、これから歩む道を議論してほしい。新しい用語が次々と出てきて、発言する人もいなくなった。印刷業の存在感がだんだんなくなり“埋没感”も否めない。統一感もなく業界関係者を納得させられなくなっている。どの位置、どの角度から問題提起していくのか、どのポールポジションから再出発したらいいのかを、印刷人はもう一度、見つめ直してほしい。


●印刷業界は今こそ印刷を高く評価すべきだ

 東京オリンピックと大阪万博のとき印刷の技術が一気に発展し、業界はブレークスルーできた。次にオリンピックを迎えるときはどうだろう? その頃には「印刷」という言葉がなくなっている?かも知れないのに、印刷媒体、電子媒体がもつ機能、役割、用途についての明確な分析と定義づけが出て来ない。印刷のコア技術、DNAは何か。原点を考えると、出版関係では経典(聖書)や辞書、商印関係ではカレンダー、さらに業務用では名刺などが思いつく。それぞれカテゴリーは異なるが、これらを以て印刷媒体の基盤を再確認できないだろうか? 工夫することにより、新しく、かつ揺るぎないビジネスモデルをつくれないものか? 和紙に毛筆で書いた文書が世界で一番保存できる媒体といわれる。デジタル情報の場合は、媒体自体と表示装置の方がもたない。信号は変わらないのに、装置のコンバージョンに対応していけない。電子媒体は非常に危ないのだ。マニュアルや規定集の類は永く残しておく必要があるからには、千年は保てるという印刷媒体をもっと高く評価したいものだ。


●印刷の強みを生かすかぎり業界は存続する


 印刷のプロセスの将来は明るく、なくなることはない。しかし、コミュニケーションメディアとしての印刷物の役割は低下している。加工業であった過去から脱却し、需要を掘り起こせるような新たなビジネスモデルを「志」をもって発掘していかなければならない――何よりも意識変革を促すこんな内容の論文がWebサイトに載っている。発信元はアメリカの経営コンサルタントだ。印刷の威力を高める生産方式は多種多様にあり、用途も広範にわたっている。だから、印刷プロセスが生き残ることは間違いないと、この論文は冒頭で強調する。だが問題は、印刷物がもっていたコミュニケーションメディアとしての役割が明らかに低下していることにある。そこで考えなくてはいけないのは、印刷の「強み」である。印刷メディアとデジタルメディアを比較して議論するとき、見落としがちなのがこの観点だという。物流(配送・配布)に弱みはあるものの、読み手にやさしい使い勝手やアーカイブとしての保存機能などの強みがある。そう考えれば、印刷物が完全になくなる運命にあるという指摘は当たらない。費用が多少高くても、特定の用途で一定の効果が期待できるかぎり、印刷物は使い続けられるだろうと予言する。


●業態変革に取り組む「意識」「志」はあるか?

 印刷産業は長い間、加工業としてやってきたが、この固有のビジネスモデルそのものがトラウマとなって、印刷会社を苦しめてきたと分析する。加工業としてのビジネスモデルは、受注-製造-出荷-請求という単純な仕事で構成されていて、既存顧客の要求どおりに受注することが使命になっていた。このことがあまりにも強力な“足枷”になり、新たな需要を掘り起こそうという意識、あえて言えば「志」に欠けていたという。このモデルでは次第に社会から乖離していき、陳腐化を免れない。印刷会社自身の存在意義すら脅威に晒されてしまう。自社を印刷会社とみなすことなく、旧来のビジネスモデルを変えながら持続可能な未来を切り開く必要がある。脅威に気づいて、積極的に業態変革を進めている企業は、もはや自社を印刷会社とみてはいない。


●多種多様な業態がある印刷業界をつくろう

 では、印刷のビジネスモデルはどう構築していったらいいのか。印刷会社が経営戦略で成功するには、差別化をはかるしかない。競合他社と異なった事業、模倣されない仕事をすればするほど、持続的な競争優位性が構築できるのだ。その結果、加工業としての従来型の印刷会社は“消滅”するかも知れないが、多種多様な事業形態を備えた新しい印刷会社が生まれることを意味する。その早道は、自社のビジネスモデルを直視し、顧客にどのような価値を提供できているかを把握すること。自ら変化を起こして他の姿に変貌することである。そうすれば、印刷産業に生きる印刷人の数は減ることなく、将来も発展していける産業基盤が維持できる。この論文は「こんな素晴らしいことはないであろう」と結論づけ、そのうえで、仮に印刷業界が、加工業して印刷物を提供するだけの同じような業態の印刷会社だけで構成されたままなら、深刻な未来が待っているだろうと“警告”するのである。
=上記2項の参考資料;Wayne Peterson 「What is the Future of Print?」 (What They Think?)=


●オムニチャンネルの世界で主導権を握る努力を

 アメリカで屈指の大手印刷会社では、自社の使命を「マルチコンテンツのインテグレーター」と呼んでいるそうだ。コンテンツはきわめて重要で、顧客に代わってコンテンツを何らかのかたちに仕上げ、それを消費者に届けることが印刷会社の仕事だと考えている。実際、印刷会社はそのような役割を担うよう顧客から期待されており、印刷会社自身がその中核にあることを意識しなければならないと強調する。印刷会社はフルカラーのデジタルコンテンツを取り扱える専門家になるべきである。同じコンテンツを使って印刷メディアはもちろん、Webなど他のメディアへ展開できることを意味する。例えば、QRコードをパッケージに刷り込んで、製品のPRを動画でWebサイトに流すといった方法が考えられるという。印刷メディアに双方向性をもたせ、顧客を支援していくことが重要である。顧客が消費者について十分に理解し、両者が密接につながるようにお手伝いするのが印刷会社のビジネスだというのだ。印刷メディアの使われ方にもっとインパクトを与え、オムニチャンネルの世界で印刷メディアの威力を高めていく努力が、印刷会社が提供する個々の製品力を強くすると主張している。
=参考資料;Patrick Henry 「Redefining Printing」 (What They Think?)=


以上

月例木曜会<2014年10月>まとめ

2014-10-20 16:34:25 | 月例会
月例の木曜会が10月16日(木)に開かれましたので、内容をご報告いたします。


[印刷]の今とこれからを考える 

(印刷図書館クラブ 月例会報告(平成26年10月度会合より)


●バリアブルデータを使った印刷は昔から

「貴社のバリアブルデータはどれだけ強いの?」と題した論文が、アメリカの印刷業界団体PIAの月刊雑誌に掲載された。かつて、住所録を使って個人向けの手紙に宛名印刷していたように、可変印刷は1950年代にはすでにおこなわれていたと、この論文は前置きしている。手紙一通ごとの作成コストは高かったにもかかわらず、営業利益率は非常に良かったそうだ。それは決して、デジタル機器を使っておこなわれていたわけではない。ターゲットである個客に向けて、何種類かの印刷物をつくっていた。マーケティングサービスプロバイダーとしての仕事は、昔からやられてきたということになる。ソフトウエアもデジタルプリンタも存在せず、可変印刷が非常に困難な時代にあってさえ、印刷会社は顧客のために機能していたのである。


●次第に商品になってきたバリアブルデータ

 成功した印刷会社は、既存の仕事を受注するに当たり、付帯サービスによって受注の範囲を拡げ、より大きなパイの仕事をこなしてきたことがわかる。当初、バリアブルデータは簡単に処理できなかったことから、通常の業務ではなかった。それでも、印刷会社の努力でバリアブルデータは“商品”に育っていった。広告文のなかに顧客の名前を数回繰り返し書き込んだのだが、それでも、レスポンス率を大きく改善させる要素とはなり得なかった。個人名が記入された印刷物は非常にユニークとされたのに、何度も自分の名前を繰り返されると、顧客にとって不快な“雑音”が感じられ、新鮮な驚きを与え続けてくれるものではなくなった。しかし今、印刷会社は顧客ニーズを満たしているはず?である。たんなる紙への印刷という代替行為だけでなく、優れたソリューションを提供することが重要になったからだ。


●個々の消費者の心に訴える「メッセージ」を

 バリアブルデータには、①見えやすい明白なデータ、②背後に隠れた巧妙なデータ――の2種類がある。デジタルデータの究極の目的は「消費者の動向をよく知っていることを明らかにして、企業が必要としているものを理解すること」にある。企業は情報をクロスさせることで、消費者(顧客の顧客)を驚かせるほどの個人情報を把握することが可能になっている。企業は消費者が次に購入する商品を予測するために、購入パターンを調べたがっている。印刷会社はバリアブルデータを、企業と消費者の関連性を示す偉大な道具(ツール)とすることができる。一方、企業がもっている消費者の情報は非常に複雑で、消費者のことをどのくらい知っているかを、当の消費者には知られたくないのである。年齢、性別、民族性などの基本属性はもとより、過去の経験、参加してきたイベント情報、これまでの購買履歴などに焦点を当てながら、消費者の“心に訴える表現”をすぐにでも選びたいと思っている。


●印刷紙面には購買を引き出す強い意図を

 表現したメッセージがつねに個々の消費者に注目されるように工夫しなければならない。購買行動を引き出す呼び掛けがないのなら、バリアブルデータによる宣伝広告は効果を生み出せないだろう。バリアブルデータを利用して成功する“鍵”は、メッセージの効用で購買を確実に後押しすることにある。印刷会社は、印刷物の制作方法には関心をもっているが、広告代理店や顧客のデザイン部門へのメッセージの提供(価値提案)には、ともするとお座成りの傾向がある。紙面をパーソナル化(氏名と本文の一部のみ)し印字するだけでは、そして、バリアブル処理した紙面から強く意図したもの(表現)がなければ、印刷会社が顧客を支援する最大の機会は失われてしまうのである。顧客と相互に対話しながら、長期的な視野でマーケティング戦略を支援すること、ソフトとハードを適切に組み合わせて、消費者の生涯価値を高める付帯サービスを提供することに力を注がなければならない。
※参考資料:「How strong is your variable data?」 Lohn Leininger; The Magazine June 2014 ( PIA)


●中小印刷会社だからこそ有利な立場に……

 印刷会社は、発注者からなかなかマーケティングサービスの仕事を任せてもらえない。「印刷に徹しろ」といわれて、発送業務すら任せてくれない。マーケティングを手がけて付加価値を高められればよいのだが、幸いにして中小規模の印刷会社が圧倒的に多い。同じく圧倒的に多い中小の顧客企業を相手に多彩な仕事をおこなうことができる。コンピュータ・トゥ・プリントの機能を前面に、そうした客層に働きかけることをお勧めしたい。個々のミニデータをマクロの市場データとくっつけてサービスすることである。個人情報を管理し、コンピュータを駆使し、バリアブル出力し……と難しい面があるが、仮に1社ではできなくても、地元のサービス会社と連携したり、それぞれの分野で強みをもつ印刷会社同士で手を組んだりして、付加価値を確保できる新たなビジネスを創造すればよい。中小企業こそ一番取り組みやすい立場にある。


●キメの細かい仕事で市場との親和性を築け

《9月度例会記事参照》 印刷会社の次代を担う後継者の6割は“ハムレット型”だそうだ。ほとんどの印刷会社には理念がないという。新しい技術を導入すれば儲かるはずという考え方ではダメだ、ソフトやサービスが大切だと悩む。実際に、①仕事に対する見返りや役割に見合う配分が少ない、②惰性の力技でただ仕事をしているように思える、③営業力などのスキルが残っていない――と嘆く。さらに本音でいえば、自社の財務計算はしたくないともいう。それにもかかわらず、地方の印刷会社が何とかやって行けているのは、顧客とのインタラクティブな営業をそれなりにおこなってきたお陰である。地域レベルでみると、印刷には非常に“親和性”があることがわかる。これからは、コミュニケーションメディアの機能を活かした印刷ビジネスをどう形づくるか、が課題になるのだろう。そのためには、顧客ニーズに応える経営ノウハウが必要で、例えば、キメ細かい仕事を得意とする女性社員の存在が価値を増してくる。市場の拡がりはまだまだ大きい。しかし、挑戦しようという気持がなければ、新たなビジネスの土俵は築けない。


●上り坂のパッケージ産業に着目すべきとき

 パッケージに対しては包装、保護、物流といった従来の役割に加えて、最近は美装(デザイン)、情報流通、機能性に関するニーズが高まっている。用途開発を含めてアプローチすべき分野は限りなくあり、パッケージ分野はいまや総体的に上り坂の産業となっている。印刷業以外にもさまざまな業界が一斉に参入中だ。これまでパッケージ印刷はグラビア方式が大量生産を担ってきたが、多様性、機能性に富んだ高度な製品を多種類つくるために、インクジェットプリンタを使った「オンデマンド・パッケージング」が台頭してきた。それと同時に包装材料の研究も進み、いわゆる機能性包材が次々と開発されている。高齢者対策、個人志向対策としてのユニバーサル化、コンパクト化、内容物の小口化などもとうとうと進む。使用後のリサイクルを意識して、一気に畳めるようにした段ボール箱もごく身近にある。


●印刷業が中心となってコラボを呼び掛けよう


もはや、“箱”のイメージは払拭しなければならない。包材の表面に絵柄を印刷するのは当然、印刷業が担当すべき仕事だが、多品種・小ロット化に伴って高まるコストは、ITで縮小しなければならない。これからは物流、情報流通、機能性にまで視野を拡げて、業界としてどのような立ち位置をとったらよいかを真剣に考える必要がある。パッケージ分野は印刷業、デザイン業はもちろん、製紙、情報、流通などの各産業が連携して立ち向かうべき複合的なビジネス領域となった。消費者ニーズを捉えるマーケティング的要素も欠かせない。印刷業界は今こそ主体性を保てるプラットフォームを用意して、各産業にコラボレーションを呼び掛けていきたい。

以上








月例木曜会のご報告

2014-09-26 09:29:34 | 月例会

一雨ごとに秋が深まる今日このごろです。
紅葉にはまだ早いですが、街路樹も日に日に落葉し、近所の公園では、落ち葉を掃く音が聞こえます。
さて、毎月第三木曜日に開かれている「月例木曜会」が、今月18日に開かれました。
レジメ担当の方よりデータが届きましたので、アップさせていただきます。(事務局M)



≪印刷の今とこれからを考える≫ 

           
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成26年9月度会合より)


●印刷は嫌いじゃけど、敷かれたレールでは否
 印刷会社の経営を継承する立場にある若い人に聞くと、皆「印刷は嫌いではない」と答えてくれる。ただし、「親から引き継ぐレールではダメ」「自分なりの道をつくりたい」という。親の世代が築いてきた長年のプラットフォーム(ビジネスモデル)をリニューアルしたいと強く思っている。自分自身で何らかのイノベーションを起こしたい。しかし、そのための方法論がないというのが実情なのだろう。ある地方の印刷会社の例では、自分で考えた全く独自のマーケティング戦略を展開して、先代をはるかに上回る売上高を勝ち取ることに成功している。個々のリーダーが経営者として、自社の事業領域をどう構築するか、ポジショニングをどう定めるかによって、業績の良し悪しが決まる。まさに、次世代のトップがもつ経営資質にかかっていることを教えてくれる。印刷業は典型的な地場産業であり、近隣の地域市場、身近な顧客といったミクロ環境のなかでやっていける要素がある。マクロな視点で総論を語られても、現実的な取り組みは宙に浮くばかりだ。


●印刷業の地位向上のために、自ら動き出そう

 印刷業は長い間、受注産業として過ごしてきた。営業の基準を品質・価格・納期に置き、往々にして安くやれることを受注獲得の条件とさえしてきた。そのせいだろうか、「印刷会社はお客さんからこう遇されるのか」という情けない思いをたくさんしてきた。印刷営業マンの提案を聞き入れ、議論してくれるクライアントがいなかった。残念ながら、印刷会社はその程度にしか扱われてこなかった。先人たちには、クライアントと同格で話(交渉)をしてきてほしかったと思う。このような過去を経験しているにも関わらず、今、経済界や産業界で活躍している印刷人、マスコミに出て印刷産業の動向を語っている印刷人はいるだろうか? 地域社会に溶け込むことは非常に大切だ。しかし受動的であってはいけない。目に見えるような利便性、効用を打ち出していくことに弱かった印刷業だが、これまで欠けていた部分に、新たな“何か”を能動的にプラスしていかなければいけない。印刷産業全体の有り様、社会や産業に果たしている役割をもっと主張しPRする必要がある。社会的地位の向上のために、一工夫してほしい。


●最新科学とマーケティングをどう組み合わせる?
 かつて冠した「エリア」に始まり最近の「ニューロ」に至るまで、そのつど「○○マーケティング」が流行し、企業はそれらの考え方を日常の業務に採り入れようと努力した。印刷会社も翻弄されてきたに違いない。マーケティング戦略のプロセスは、市場のセグメンテーション―顧客のターゲティング―製品・サービスのポジショニングを主軸としているが、従来手法の消費者アンケートやインタビューでは、戦略構築の前提となる顧客ニーズをどうにも掴み切れなくなっている。そこで、脳の反応を科学的に調べて真のニーズを知ろうと「ニューロ・マーケティング」が開発されたのだが、それでも、正確な情報が得られるとは限らないだろう。調査に対する複雑な拒絶反応が脳自体に起こってくるからだ。印刷の本質は“工芸”にあるというのは、物理量と心理量のバランスで成り立っているからである。技術と芸術の掛け合わせといってもよい。最新の脳科学をマーケティングに活かそうというのは、それに近い手法だと思う。ただし、最先端の技術に頼る前に、人間(消費者)を幸せにするためにマーケティングをどう使うのか、両者をいかにマッチングさせるのかに配慮しなければいけない。


●真の「顧客起点」を実践することから始めたい
 マーケティングの世界では「顧客起点」の発想が重要だといわれるが、顧客をよく調べてニーズを把握し、それに見合った製品を開発して数多く売る――と考えている間は、実は「企業起点」のままだと思う。販売促進は顧客起点といいながら、その考え方と実行している内容は企業起点に止まる。欧米とくにアメリカでは、顧客のことを標的(ターゲット)と称し、標的とした顧客に一生涯ずっと自社製品を買わせる忠誠心(ロイヤルティー)を如何に植え付けるかが、当たり前のマーケティング手法となっている。これでは販売戦略に等しい。企業である以上、自社製品を買ってもらい売上高をあげなければならない。しかし、顧客起点に立つというなら、少なくとも自社(供給者)と顧客(需要者)の両サイドの利害が一致し、かつ平等である必要がある。いわばWin-Winの関係を築くことが大前提となる。


●日本にある古くからのDNAに見習うものが…
 現在は、本当に顧客を起点にして顧客自身の声に耳を傾けること、ニーズを的確に把握して商品化し、そのうえで持続可能なビジネスを成立させることが必須になってきている。日本には三方良しの「近江商人」、顧客と好ましい関係を築く「富山の薬売り」、顧客が役立つものを売る「松下商法」、人間尊重を経営の原点とした「出光思想」など、利他を第一とする素晴らしいDNAがある。それはまた、消費者自身が体験を通して価値を認め、ブランドと称し(賞し)、延いては供給者の企業ブランドを高めることになる。だからこそ、このような日本のビジネス文化は、新時代における経営価値観として必ず復活すると期待している。今こそ、そんな市場環境になってきているのではないだろうか?


 
●顧客企業と消費者を結ぶ“架け橋”になろう

 印刷業も販売促進(セールスプロモーション)に取り組んできたといいながら、実際はクリエイティブな印刷物を企画提案するという一方通行のインフォメーションに過ぎなかった。顧客企業によるPR活動、SP告知のなかで多額の広告宣伝費が使われ、印刷会社はそのための印刷物を受注して、確かに潤うことができた。しかし、それは印刷物を売り込むあまり、企業から消費者への片道の伝達をお手伝いしていたに過ぎない。商品が売れるようにコンテンツを編集しデザインしてきたが、顧客企業と消費者を結ぶ双方向のコミュニケーションを支援していたわけではなかったのである。印刷業はそもそも受注産業であって消費者と直接触れ合う機会もなく、マーケティング感覚に未熟だった。売らんがためのマーケティングに陥って、コミュニケーション本来の機能を見失ってはいないだろうか? もしそうだとしたら、消費者と顧客企業とをつなぐ「情報コミュニケーション事業」――①協働して消費市場のマーケティングをおこない、②協創して商材のマーチャンダイジングを手がけ、③印刷業としてのマーケティング支援サービスを提供する――を自ら難しくしていることになる。


●「マーケティング・サービス・プロバイダー」へ
今こそ、双方向のコミュニケーションを支えながら、消費者に目を向けている顧客企業にとっての価値(顧客価値)を創造し、ソリューション(問題解決策)を提供するように業態変革しなければならない。両者を結ぶコミュニケーションに関わる「サービス・プロバイダー」(総合メディア産業)となるべく、顧客との対話を深める必要がある。現状を乗り越えられれば、たんなる“刷り屋”ではなく、印刷物づくりの“ディレクター”からも脱して、印刷メディアと電子メディアを駆使しつつ、顧客企業のマーケティング活動を支援・代行するサービス・プロバイダーになることができる。本当のマーケティング力があれば、現在のような印刷業界の縮小均衡は起こっていないはずだ。印刷産業のかたちも再定義され、新しい総合メディア産業としてのサービスをマネジメントしていけるに違いない。顧客起点とは、顧客の言いなりに過剰なサービスを提供することではない。一方通行の販促主体の支援サービスを続ける前に、取り組むべきことがたくさんある。“客の客”の真のニーズを掴むとともに、顧客が欲するソリューションを提供し、かつ顧客をリードする関係を築くべきである。


以上





月例木曜会 2014年8月

2014-08-25 16:23:55 | 月例会

[印刷]の今とこれからを考える 

「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成26年8月度会合より)


●電子出版市場が急速に拡大の様相……

 電子出版市場が急速に成長し、いよいよ本格的な拡大期に入ってきたようだ。電子書籍、電子雑誌を合わせた電子出版全体の市場はすでに1,000億円を突破、ここ1、2年の間に一気に普及するとみられる。2018年度には現在の3倍を超える3,340億円(電子書籍2,790億円+電子雑誌550億円)規模に達するとさえ予測されている。専用端末だけでなく、タブレット、スマートフォンといったモバイル端末が広く浸透して、誰もが簡単に電子書籍に触れる機会をもてるようになったことが背景にある。出版社や電子書籍ストアが積極的な広告宣伝活動を展開したこともあって、読者層が一気に拡がっている。今後ますます利便性が良くなり、認知度も高まるにつれ、利用率は一段と向上するだろう。付加価値の伴ったデジタルコンテンツの販売が進み、と同時に、紙の書籍との並行販売も増えていくと考えられる。「紙の本が落ち込んでいる現状を電子出版がカバーして、出版市場を再び活気づけるチャンスにできる」と、有力な出版各社からは、紙と電子の共生をめざすさまざまなサービスが提供され出した……。


●文字処理に「EPUB」をどう使いこなすか?

 この夏に開催された恒例の「東京国際ブックフェア」でも、電子出版を手掛けてネット社会との共存をはかりたいと意気込む出版界からの問題提起、ビジネス提案が目についた。そうしたなかで印刷関係者として関心を寄せるべきは、デジタル化が進む「書籍」の世界に「EPUB」が使われる趨勢になってきたことだろう。印刷業がこれを他人事だと見過ごすわけにはいかない。「EPUB」とは、アメリカの電子書籍団体「国際電子出版フォーラム」(IDPF)が公開している電子書籍仕様のファイルフォーマット規格で、オープン性、単純性という特長から電子書籍用の標準規格と目されている。実際、これに対応するハードやアプリケーションソフトも数多く出ている。「EPUB」ではほとんどの文字を使えるようになっているが、漢字―コード化―「EPUB」という関係をどのように捉え、実際の文字処理の仕事にいかに活かしていくか――この問題を、印刷関係者は真剣に考えなければならない。


●デジタル文字も標準化しコード化してほしい

 モノとサービスが合体した「モノビス」の時代に入り、情報の流通業が付加価値を高める役割を担うようになった。印刷物を扱ってきた従来のアナログ流通業者に加えて、デジタルコンテンツを駆使するデジタル流通業者、さらには印刷+電子配信を仕事とするクロスメディア流通業者が誕生してきた。情報伝達の約7割は文字が担っており、印刷会社がクロスメディア市場を支配して然るべきなのに、残念ながらその地位にはない。印刷会社が主役になれないなかで、デジタル文字の標準化とコード化という問題が浮上している。仮に同じ文字コードを使ったとしても、形成される書体(フォント)はバラバラで統一されていない。せっかくコード化しても、この状態ではクロスメディアが成り立たない。日本語処理をうまくやるには、デジタルでもすべてをカバーするのが理想だが、実態はそうはなっていない。コード化される範囲が定まっていなければ、それがボトルネックとなって経済活動も非効率になってしまう。


●異体字のどの範囲をコード化したらいいか

 電子書籍における文字処理には、そもそも異体字、異形字(地名や人名など)を含む外字に関する十分な対処策がない。UnicodeやJIS規格に馴染んできた印刷の専門家からみれば、甚だあやふやな状況にある。「EPUB」のほとんどのテキストデータは、Unicodeの符号化方式を採用していて、日本語の文字集合であるJIS X 0213にも対応している。第三・第四水準の漢字をカバーしているので、「EPUB」はこれまで外字とされてきた多くの文字を正常に表現できる。すべての文字をコード化し、デジタルでも同じように表現されていれば問題ないのだが、Unicodeに収録されていない文字、収録されている文字でも特定の字形を表現することを求められるケースが少なくない。そんなときは、コンテンツ制作者の意図したとおりに“見た目”で表示しなければならず、大変な作業になる。問題は、どの範囲までコード化するかにある。漢字に深入りし過ぎると、それこそ古文書に出てくる、めったに使われないような文字も考えなければならない。文化・芸術といった価値創造の要素を考えると、ある程度の異フォントは認めざるを得ないが、やはり経済的に大きな損失であり、トータルのパフォーマンスを極端に落とすことになる。


●印刷業界が主導して収束のルールをつくれ

印刷、出版、新聞、放送各業界に、デジタルコンテンツ配信会社、DTP制作会社、デバイス制作会社、それにハードおよびソフト関連のメーカーを交えた同じ土俵で、共通の文字処理をおこなえる環境を構築する必要があるだろう。これまで漢字(フォント)をもっとも扱ってきた印刷業界こそ、その強みを発揮してリーダー役を果たすべきだと思う。一番、リードしやすい立場にいるのではないだろうか? 印刷業界がもっている文字を集めれば、実態を比較的容易に掴むことができ、イニシアティブをとりやすいだろう。ともすると印刷業界の動きは鈍いが、紙の本をつくってきた経験が、今こそ生きるはずだ。漢字にはそれ自体に“造字力”があって、字数は増える傾向にある。漢字には一つひとつ意味合いが備わっていて、文章にすると感性が創造される。このことを念頭に、コンピュータでは制御できない母集団のどの水準でコード化すべきなのか、収束のための一定のルールをつくるべきである。稀にしか使わない異体字は、範囲外の“Z軸”におくことも考える必要があるかも知れない。


●新しい印刷のビジネスモデルが見えてきた

 アメリカの印刷業界団体PIAは、最新レポートのなかで「印刷市場空間の拡張は、印刷会社に機会と挑戦の両方をもたらし、“新しい印刷”のビジネスモデルを創出した」と提言している。そのビジネスモデルとは、①情報伝達サービス提供業(コミュニケーション・サービス・プロバイダー、および②統合メディア業(インテグレーテッド・メディア)への移行である。印刷品目別に最近の動向をみると、従来型の情報伝達用印刷物がデジタルメディアからの激しい攻撃を受けて低迷しているのに対し、デジタル印刷物と印刷付帯サービスは、これらの伝統的な印刷物の伸びを上回る勢いで成長するとしている。また、販促用印刷物とロジスティックス用印刷物は、全印刷市場の総出荷高を持ち上げるかたちで好調に推移するだろうとする。前者は全般的に微増ないし現状維持で推移し、後者は印刷産業全体の売上げ増の主要な“貢献者”になるはずだという。このレポートからも、マーケティング的要素、物流的要素など何らかの付加価値を載せた印刷の提案をすることの重要性が読み取れるだろう。


●戦略的にビジネスチャンスを探し出そう

 レポートはさらに、不確実な市場環境を乗り切るためには、対立しがちな数々の“戦略”と“戦術”を上手に組み合わせながら、的確に対応すべきだと提唱している。それによると、設備投資、新事業への進出、実証されないベンチャー企業へのM&Aなどに関する意思決定は、極めて用心深くおこなう必要があるとしている。しかし対照的に、新しいニッチビジネス、商圏、サービス、製品、そして新規顧客を探す機会は、積極的に探すべきだと力説する。印刷業のようなゼロサム産業においては、売上げが伸びている販売促進あるいはロジスティックスの分野で付加価値サービスを提供して、市場占有率を高めることが重要だ。コスト削減に努めるのはもちろん、それと並行して印刷価格(料金)を引き上げる努力をしてほしい。そのためには、製品とサービスの差別化に基づく価格設定力の向上が欠かせないのだという。
(上記2項目の参考資料;FLASH REPORT Vol.4, June 2014, PIA)




月例木曜会 2014年6月

2014-06-16 15:50:03 | 月例会

[印刷]の今とこれからを考える 

      「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成26年6月度会合より)



●世界最古の金属活字印刷は韓国でおこなわれた

《平成26年5月度関連記事》 韓国・清州の興徳寺で銅活字を使って1377年に印刷・出版された世界最古の銅活字本『直指』(白雲和尚抄録仏祖直指心体要節)。釈迦と高僧の言葉をまとめて上下巻に編集した書物で、坐禅を組み人の心を正しくみていくと、心の本性(=釈迦の心)を悟れる(=直接示される)という趣旨が書かれている。下巻1冊がフランス国立博物館に保管されており、文末に「宣光七年丁巳七月 清州牧外興徳寺 鋳字印施」と記録されていることから、この地で金属活字印刷がおこなわれていたことが判明した。グーテンベルグの「42行聖書」(1455年)より3四半期も前、中国で金属活字印刷が始まったとき(1490年頃)より2世紀以上も前という画期的な印刷事業だった。「過ぎ去った千年の間に起きた、もっとも偉大な事件」と、韓国の人々と印刷関係者は大いなる誇りを抱いている。


●グーテンベルクより早い画期的な印刷事業だった

発祥の地に建設された『韓国清州古印刷博物館』作成の案内資料には「韓国は1200年代の初め、すでに考慮中央政府で金属活字を作って使用していたという記録が残っており、14世紀後半には、寺院でも金属活字を利用して本を製作するほどに、発展した印刷技術をもっていた」とあるほどだ。そこには、高麗時代の前期に仏教と儒教の二大文化が発展し、鋳字印刷も中央官庁から始まって、後期には『直指』のように地方の有力寺院でおこなわれるようになったという背景がある。「金属活字の発明は情報化への画期的な転機をつくり出し、人類文化の発展にもっとも大きな貢献をなした」「現存する世界最高の金属活字本」と高く評価されるこの『直指』は、人類文化史に及ぼした価値を認められて世界記録遺産に登録されている。
※本稿は、印刷博物館が韓国清州古印刷博物館との姉妹提携10周年を記念して開催した企画展『朝鮮金属活字文化の誕生展」を参考に作成しています。


●アメリカ印刷業界が「ゲンバ」志向を強める

 トヨタ生産方式を象徴する用語として「リーン生産方式」が知られるが、一切のムダを省くためには、生産現場に出向いて、文字どおり現場サイドでの改善策を徹底させることが不可欠とされている。アメリカの印刷業界団体PIAの資料によると、日本語をそのまま使った「カイゼン」と同じように、生産現場も「ゲンバ」と捉え、問題意識をもって取り組むことの重要性を提唱している。ゲンバを直訳すると「実際に作業している場所」となるが、むしろ「顧客のために価値を創る場所」を意味する。その価値を付加する活動であるためには、①顧客がためらわずに支払う”何か“があること、②品質を保証できる正確な仕事をすること、③製品を改良する意識をもっていること――が必須条件となる。これらのうち一つでも満たさない場合は、その生産活動はムダといわざるを得ない。ムダとは「資源を費やしながら価値を創出できない活動」であり、これらを発見し取り除くためには、カイゼンの目標を定める必要がある。


●実際のカイゼン効果で、重要性を再認識する

 カイゼンすべきムダには、①作り過ぎ②余剰在庫③待ち時間④運搬⑤動作⑥加工し過ぎ(過剰品質)⑦不良製品――があり、さらにいえば、⑧作業者がもっている創造的な能力と経験を活用し切れないムダもある。PIAの改善コンサルタントによる報告では、印刷工場における受注から生産、出荷に至る全工程で、付加価値を生んでいる作業はわずかに9%に過ぎないという。上記のムダを除去することに取り組んだところ、準備時間とコストが大幅に削減され、製品の品質も向上したという。ゲンバの状況がどうなっているかを知ることは、カイゼンの機会を理解するための第一歩であることがよくわかる。ゲンバを歩く目的は、顧客に提供する価値を生み出す場所の現状把握にあり、価値について“対話”できるようにするためである。リードタイムを削減するという視点で、入稿から出荷までの個々のゲンバを時間計測すると効果的だ。


●作業者に敬意をもって接し「なぜ?」を繰り返す

 PIAは、ゲンバを歩くうえで守るべきガイドラインとして、次の3点を掲げている。第一は「ゲンバに行き観察せよ」。何が起こっているかの事実を集め、作業者と工程の状況を理解することである。工程のスムーズな流れを止める突発事故やエラーの発生を発見するのはもちろん、作業者は「何をどうすればいいのか」の対応策を知っているかどうかを、明確に把握できている必要がある。作業者が上手に問題点を発見でき、かつ、それをいかなる方法で支援していけるか? 管理者の仕事は問題点を放置することなく、作業者に問題の発見と解決の方法を教えてやらなければならない。第二は「尋ねよ」。発生した事象の原因を探るための追加情報を得るには、作業者に聞く必要がある。職務の専門家である作業者からより多くの意見を聞けるよう“自由形式”の質問にすること。「なぜ?」という質問を繰り返すことによって、発生原因と解決策の根源に近づける。第三は「敬意をもって従業員に接する」こと。熱心に取り組んでいく姿勢を謙虚に示さなければならない。


●創造的な挑戦と仕事の改革を結びつけるように

 工程のカイゼンは、付加価値を生まない作業を取り除くことである。そのためには、ゲンバで仕事をしている作業者全員がもっている知力、問題解決力に協力を求めるべきだ。作業者の能力開発と育成のために、企業が設定すべき枠組みは「敬意の基準」である。作業者の創造性を活かす挑戦と仕事の改革とを結びつける教育投資は、敬意を示すもっとも効果的な方法であり、カイゼンを高いレベルに持ち上げる原動力となる。「ゲンバを歩く」目的が①顧客を創り込む方法を決める、②顧客に十分な価値を提供できる工程を組む、③5Sで作業状況を査定する、④8つのムダと問題点を探す――ことにあるという意味をもう一度理解し、皆同じ視点で事象を観察できるよう、関係者が共通の意識をもっておく必要がある。
<参考資料>「Walking The GEMBA」; John Compton, Professor Emeritus, Rochester Institute of Technology
(The Magazine Mar. 2014 PIA)


●紙媒体、電子媒体の役割を考えてみることから 

 タブレット端末を生まれたときから使いこなしている集団、興味をもち途中から使い始めた集団、全く使う気のない集団と、電子媒体を巡って社会的な階層ができてきた。情報に対する感覚は個人によって異なるはずだが、例えば印刷物の教科書では一冊に情報を盛り込んで、それを吸収するよう求めている。これに対して、電子媒体であるタブレット端末では後ろ側に電子辞書をつなげ、膨大なデータをもっている。しかし、辞書機能を使っていつでも情報を収集できると思うと、読み手は“埋没”してしまう。その点、印刷メディアの場合は、反射原稿による情報に前頭葉が刺激されて意識を高めることができる。紙媒体と電子媒体を比べて、読みやすさ、見やすさ、理解しやすさの有意差を判定するのは難しいが、多様な情報伝達手段が出現したなかで、情報を早く知る人と遅く知る人との間で差が生じている。早く気づいた人ほどアドバンテージを得られるため、電子媒体で安易に情報を入手する傾向が強くなっているのは事実だ。


●「印刷」がもつ役割を厳密に再定義しておきたい

これまで印刷媒体には競争相手がなく“真水”の世界にいられたが、今は多様な媒体がひしめく“大海”の世界。真水と海水が入り混じる河口の“汽水域”にいる間に、印刷媒体の役割をもう一度見直す必要がある。情報の扱い方、印刷媒体、印刷ビジネスを厳密に区別しながら、印刷媒体がもつ意味を再定義すべきである。それぞれの課題と方向性をきちんと確認することなく、無意識に一括りで概念付けしてしまうと、これからも話が噛み合わない恐れがある。

以上