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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会報告(平成27年11月度会合より)

2015-11-24 11:39:46 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年11月度会合より)


●人件費の「差」が収益性の「差」をもたらす

 <前号参照> アメリカの印刷業界団体PIAが実施した経営指標調査によると、収益性で上位25%に入る印刷会社(プロフィットリーダー)と、そこに含まれない残り75%の印刷会社(プロフィットチャレンジャー)との間に存在する売上利益率の格差は、過去十年以上にわたって平均して10ポイント(2015年次で9.7ポイント)もある。これは、年商1,000万ドルの企業で100万ドルにも達する非常に大きな利益差ということを意味する。一般的に売上高の40%以上は人件費が占めていることから、人件費の「差」が収益性を圧迫する重要な要因になると指摘している。2015年の時点で全企業平均の人件費比率が40.2%なのに対し、プロフィットリーダーに限ると35.1%に止まっている。その差は5.2%にも及ぶ。利益格差を招く要因の50%以上(2015年次では53%)は人件費の違いによるものだと判る。


●人件費の違いの6割は工場の人数に起因する

アメリカの印刷会社で働く社員の3分の2は通常、工場従業員とされる。そこで、工場現場に従事する社員の人件費に絞って売上高比をみてみると、プロフィットリーダーは22.4%、プロフィットチャレンジャーの場合は25.5%となっている。その差は3.1%になる。これに対し、営業部門に従事する社員の人件費で比べてみると、前者は6.6%、後者は8.3%、その差は1.7%しかない。ちなみに管理部門の人件費の差は0.4%に過ぎない。こうした数値から判るのは、両者の人件費格差の6割(同59%)は、製造現場に起因するという事実である。プロフィットリーダーは、労働力の代わりに資本、つまり生産設備を有効活用している。工場従事者一人当たりの純資産の金額に、両者の間で17%もの違いがみられる。


●資本集約型の企業になれば、収益性が高まる


全社員一人当たり売上高の両者の差は金額にして年額1万4,000ドルにも達するという。同じように一人当たり利益率からみても、少ない社員で多くの利益を得ていることがわかる。100万ドルの売上高をあげるのに要する社員数も5.9人対6.7人となっていて、ここでも著しい差がみられる。それだけ、プロフィットリーダーは競争上、優位に立っていることになる。「プリンター」としての印刷会社を対象とした調査だとはいえ、労働力を機械設備に置き換えることで資本集約型(高い労働装備率)の企業となることが、いかに重要であるかを示唆している。設備の稼働率に留意して投資効率を高め、高い生産性を保っている。より少ない社員で多額な売上高をあげ、しかも、より多くの利益を獲得している姿が浮かぶ。                    
※以上、参考資料=「FLASH REPORT」2015.9;PIA


●どっこい、生きているんです!「ガリ版印刷」

昭和20年代から30年代にかけて、印刷の歴史に確かな足跡を残した謄写版(孔版)印刷――PTO印刷やコピー機の登場とともに、その役目を終えたとされるが、芸術表現の優れた印刷技法として今でも残っている。山形、長野、岐阜には資料館、滋賀には伝承館があり、数多くの好事家や研究者が全国に存在する。そんな人たちが謄写版の裏表を随想した月刊雑誌が編纂され、印刷人の間で話題を呼んでいる。この雑誌には、「世から消えたと思っていたら、どっこい生きているんです」を前文にした特集「ガリ版旅行記―謄写版は不滅です!?」が50ページにもわたって掲載されている。そこでは、ガリ版文化史研究者、謄写版画家、ノンフィクション作家、ルポライター、NPO代表、ガリ版メーカーといったさまざまな肩書をもつ関係者が、ガリ版の意義や魅力について回顧談を交えながら縦横に筆を振るう。そのなかに、山形県下の印刷会社の経営者が資料館の館長でもある立場から書き下ろした文章がある。


●日本人の文化活動を支えた「ガリ版よ、永遠に」


その中から、興味深い箇所を拾い読みしてみると……謄写版技術を芸術的領域にまで高めたことで“孔聖”“神様”と讃えられた草間京平については、「一見すると、ガリ版とはわからないクオリテイの高さ。ガリ版刷りとしては最大級の世界地図も、手書きとは思えないほど精緻で、見るとびっくりする。謄写版を発明した堀井新治郎が設立した堀井謄写堂が昭和24年に出した『堀井謄写版印刷講義会 講義要項』も、草間が手掛けたもので、284度刷りをしたものを製本しているのだから、圧巻」と記している。また、印刷機に関しては「うちで一番古い印刷機は、明治30年に北上屋商店で作られた毛筆謄写版印刷機『眞筆版』。ガリ版用印刷機では滋賀県にあるものがいちばん古くて、これは二番目」と書いている。このように、ガリ版を実際に経験した人にとって非常に懐かしい逸話が、本誌の特集ページに散りばめられている。まさに「ガリ版はただの印刷機にあらず」「ガリ版よ、永遠に」なのである。
※以上、参考文献=「望星」2015.9;東海教育研究所、発売・東海大学出版部


●デジタル音痴、ITリテラシーの欠如……


 あるビジネス雑誌に「デジタル音痴社長が会社をつぶす」というショッキングな見出しが躍っていた。クラウドコンピューティングやビッグデータなど専門用語が次々と飛び交う時代に、ITリテラシーが欠如していたら企業経営に決定的な障害になるという趣旨で記事が編集されていた。「リテラシー」とは直訳すれば読み書き能力、つまり識字能力のことで、発展途上国の教育レベルを上げるためには、まず識字率を高めなければ、という意味で国際的に使われ出した単語である。これが転じてコンピュータリテラシー、情報リテラシーとなり、今や「IT」が冠詞として付け加えられるまでになった。とはいえ、本当の意味でITに精通している企業経営者は少ないのではないか。企業のなかにも、ITを導入したときのイニシャルコスト、ランニングコストがどのくらいかかるかを正確に把握できる社員はほとんどいない。リストラや効率化で浮いたコストの金額は気にかけるものの、ITの効果とコストについては、前向きに取り組もうとする気持とは裏腹に思いが至らないのだろう。


●ITに関する理解を深めないと、活かせない

 IT音痴には3つのレベルがあって、①全く知らない真性音痴、②専門業者の言うがままの操り人形、③変な方向に導いてしまう自称IT通――に分かれるらしい。ITリテラシーができていないと、当然、ITを使いこなせないし、ビジネス上の成果も得られない。クラウドを使って情報を集める-分析する-応用する、の軌道に乗せられない。サーバーがどこにあり、ビッグデータがどのようにセグメント化され、どの中から必要なデータを的確に収集するかの手だてがわからない。エンジンの動かし方、アプリケーションのつなげ方、データ加工の方法が理解できなければ、ITに多額の資金を注ぎ込んだけれど……という事態に陥りかねない。システムを導入したのはいいが、それに見合うメリットを享受できない。これが現実なのではないか。


●サーバーの所有意識から脱するのが事始め

 印刷会社としてはもっと身近なスモールデータを、という提言がある。このとき邪魔になるのが、印刷機を“家宝”扱いして以来、抱えてきた“所有意識”である。身近にサーバーがないと安心できない、リアルでないと信用できない、という傾向がある。核とすべきサーバーを端末的に置いて、アクセスしにくいゲートをつくったりする。情報加工の工程ごとにサーバーを継ぎ接ぎ状態で構築したあげく、いたずらに労力を消費したりする。日本の経営者は投資分を早く回収したがるが、ITには基本的に“納期”はない。ITの成果を本当に得たいのなら、デバイス主義を止めてプラットフォーム感覚で取り組む必要がある。安物買いの銭失いにならないよう、気持のうえで余裕をもち、長期的かつ戦略的な視野でITを使いこなしてほしい。

以上

月例会報告 2015年10月度会合

2015-10-21 16:08:07 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年10月度会合より)



●アメリカの印刷産業は再び上昇に転じている

 アメリカの印刷業界団体PIAから出されている定期レポートの最新号で「印刷会社の収益性は向上している」とする2015年の調査概要が発表された。PIAが“プリンター”としての印刷会社を対象に調査した「2015年の経営指標」によると、印刷業の収益性は2011年以降、穏当な改善をみせ、対象企業全社の平均の売上利益率は2015年に3.0%にまで回復した。リーマンショック後の大幅な景気低迷で2010年にはマイナス1.4%に落ち込んだが、その後は、11年1.4%、12年1.8%、13年2.7%、14年2.6%と、上昇傾向を辿ってきた。2004年以降の売上利益率の平均値は2.1%となっており、これと比べても今年の収益性は1%近く上回る好調さである。この間、3%を超えた収益率は07年3.4%、翌08年3.1%の2回しかない。今年はこれらに次ぐ第3位の好成績ということになる。


●業界を引っ張るのは文字どおりプロフィットリーダー

 収益性で上位25%以内に入るプロフィットリーダーに絞ると、2015年の売上利益率は10.3%に達する。04年からの12年間の平均値は9.5%で、もっとも悪かった10年時点でさえ7.0%を確保していた。今年の数字は06年、14年と並んでもっとも高い水準である。これに対し、下位75%に相当するチャレンジャー企業の2015年次の売上利益率はわずか0.6%に止まる。過去12年間で6回もマイナス (最悪の10年次でマイナス4.2%) を記録していて、平均すればマイナス0.5%で推移してきた。こうした過去と比較すれば、低いとはいえ今年の数字は最高値となる。プロフィットリーダーもチャレンジャーも、2010年には売上高、利益率とも大きな影響を受けたが、その後「劇的に回復し成熟した景況が印刷業に最善をもたらし、景気後退に伴う谷底が最悪だったことを実証した」と、このレポートは記している。 


●景気の悪いときこそリーダー企業の戦略が生きる

問題は、プロフィットリーダーとチャレンジャーの間にみられる収益性の格差にある。12年間における両者の格差は平均10%であり、とてつもなく大きな差となっている。留意すべきは、リーマンショックの影響下でお互いの差が拡がり、2010年に11.2%まで拡大していたことである。興味深いことに、経済が拡大期にあった07年にはこの差は最小であった。「景況がよい時期には、上げ潮がすべての船(企業)を持ち上げるので差が小さくなる。逆に差が拡がる時期は、(厳しい経営環境のもとで)プロフィットリーダーが戦略と戦術の優位性を発揮して、ビジネスに挑戦しているときであるのかも知れない」と分析する。対象企業全社をみた場合、企業規模が大きくなるほど収益性がよくなる傾向があるのに対し、プロフィットリーダーでは、収益性と企業規模の間に強い相関性がみられない。しかし、よくみると規模の比較的小さな企業と大きな企業の収益性がよく、中規模企業で悪いという違いがある。


●プリンターである以上は高い生産性をめざして

こうした傾向は何年も前から存在して、PIAではその現象を「スタック・イン・ザ・ミドル」(虻蜂取らず)だとしている。つまり、コストリーダーシップ戦略か差別化戦略かの方向が定まらず、中途半端な対応で動けなくなっているというのである。それでもプロフィットリーダーは、全企業平均よりコンスタントに高い生産性を保っている。従業員 (もしくは工場従業員) 1人当たりの売上高、同付加価値額とも、10%から18%も高い数値を示している。年商が同じようなレベルの企業同士で比較してみると、プロフィットリーダーはより少ない従業員で売上高、付加価値額をあげている。その分、資本集約的なのだ。労働力を資本に置き替えることで労働装備率を高め、さらに、設備の稼働率に配慮して設備投資効率を高めていることがわかる。
  ※以上、参考資料=「FLASH REPORT」2015.9;PIA


●印刷機は高性能化けれど、同質化は変わっていない

 市場が飽和状態にあるときは、ビジネスを差別化すればよいとされる。差別化には技術的、品質的、サービス的など幾つもの切り口があるが、前二者はコストや時間がかかるうえに当たり外れもある。その点、サービス的な差別化はコストをかけずにすぐ取り組めるというメリットがある。やり方次第で無限に市場開拓できる。印刷業界はかつての1色機の時代から、今や8色機を駆使するまでになった。品質競争はしていたのだが、実は、全社同質化の実態は全く変わっていない。市場シェアを価格で取り合う土俵にデジタル印刷が市場参入してきた結果、同質化の弱点が一気に表面に出てきた感がある。高性能化、高速化により、印刷機としての生産力は高まったものの、市場が拡大していかないなかで、逆に稼働率が落ちるという問題が生じている。印刷機の稼働率を上げないと固定費をカバーできず、利益も稼げない。それにも関わらず、6~7割の時間帯で止まっているという声すら聞かれる。


●サービス面での差別化が抜け出せる道……

 昨今注目を集めている「印刷通販」は、一種の刺激剤となっている。印刷料金を抑えられたとしても受注すれば、その分、印刷機の稼働時間を自然に埋められる。最初は1割程度の範囲だったとしても、営業努力をせずにすぐに4割、5割と拡げることができる。しかし、長い眼でみると「営業力がなくなってしまう」という危惧がある。極度に依存してはいけないという警告だ。企業である以上、絶対に利益を上げる必要があり、高価な印刷機を何としても稼働させなければならない。しかし、どうやって埋め合わせるか。そこには知恵が求められる。設備投資の目的、程度と市場ニーズ、需要規模との間にギャップがあり、印刷業界が苦境に陥る要因となっている。同質化した状態から抜け出せるのはサービス的差別化しかない。社会が流動化し市場が多様化している以上、印刷業界も情報加工やメディアを強みとするコーディネータ的なビジネスに取り組むべきである。自らスキ間産業を生み出す気概がほしい。


●ITやマーケティングを駆使したフロントヤードを

 印刷の機能は2つに分けられるのではないか? 一つは生産設備を柱とするバックヤード、もう一つはITやマーケティングを駆使したフロントヤードである。とくに後者の場合、稼働率に囚われずに時間を有効活用できるし、変動費的な感覚で取り組めるというメリットがある。ITを駆使できれば、受注から印刷までの時間を圧倒的に短縮でき、生産効率も向上できる。設備の稼働率をコントロールしやすい。経営の機動力も高まり、「とにかく印刷機を回そう」という呪縛から脱出できる。バック、フロントの両ヤードの連携も円滑になるだろう。それにはフロントヤードの「5S」が重要になる。取り扱う情報、手掛けるメディアの“整理・整頓”である。これがうまくできれば、マーケティング戦略やコストダウンが可能になる。知恵の出せるフロントヤードを確立し、顧客を巻き込んだビジネスのプラットフォームを握らなければいけない。印刷産業全体で二つのヤードを築き、各社で棲み分けする必要がある。


●「メディア」の世界で、どのような役割を担っていくか?

 印刷会社の機能、印刷産業の構造を変えるべきときである。印刷業界が中小企業の集まりというなら、顧客業界も同じように中小企業が圧倒的に多い。ビッグデータ云々という話ではない。もっと身近なスモールデータの活用とそれに基づく情報の加工を重視した方がよい。印刷機に頼って大量生産をおこなってきた旧来型のビジネスモデルでは通用しない。ITと融合させて業態を変革させる必要がある。モノとしての印刷製品ではコスト負担が大きすぎる。広義の「メディア」の世界で、情報伝達の効能を提供しながら生きる道を探したい。「メディア」は存在し続ける。このとき、自社特有の役割をどう担っていくか、である。

(終)

月例報告会 (平成27年9月度会合まとめ)

2015-09-25 14:18:22 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年9月度会合より)

●印刷メディアへの広告量はインターネットにも抜かれた

 各種メディアへの広告出稿量をみると、インターネットに向かってどんどんシフトしていることがわかる。印刷メディアはグーテンベルクが近代的な活字印刷方式を発明して以来、600年間“王様”の地位を保ってきたが、100年前にラジオ、テレビといった放送メディアが入り、さらに20年前にはインターネットが加わってきた。メディア全体は引き続き拡大しているのにもかかわらず、内訳が急激に変化して、印刷メディアはとうとうインターネットにも抜かれてしまった。これはアメリカに次いで日本でも起こった現象で、最下位への転落である。しかし、次は再び印刷メディアに回帰するに違いないとする心強い見方がある。何を意味しているのか。「恐竜が滅びた理由」を当てはめることができるからだというのである。


●価値ある情報を提供できるメディアが生き残れる

 巨大な隕石が落下して恐竜が滅びた後も、小動物や微生物は生き残った。これと同様に、圧倒的に規模の大きいインターネットで情報市場が“食いつぶされた”としても、生き残れるメディア、存在し続けるメディアがあるという。それこそ印刷メディアだという。WebやSNSには役立ちそうもないゴミ情報?が溢れかえっている。情報流通が過多の状態のなかで、読み手の価値(顧客価値)に耐え得る高次元の情報を提供できるのは印刷メディアしかないというのが、生き残っていけるとする理由である。われわれの身辺には数多くの雑文が降りかかってくるが、短歌や俳句のように本物の価値をもった文章も少なからずある。印刷メディアは、こうした本物指向をめざせるメディアであり、そこに存在意義を見出す余地があるとしている。


●視点を「コンテンツ情報」から「コンテクスト情報」へ

 企業を対象としたB to Bのマーケティング分野でも、コンテンツの役割がますます高まっている。その根底にあるのが顧客価値ということになるが、その「顧客」は「個客」に変化している。そこで大切になるのがコンテクスト情報という概念である。コンテンツが記号としての言葉を直接表現したものなのに対し、コンテクストはその背景や意味を文脈としてまとめたものといえる。人びとの心に響かせ、納得してもらえる正確なコミュニケーションは、いまやコンテクスト情報なくして成り立たない時代になっている。電子メールが前者に当たるなら、印刷メディアはまさに後者に相当する。コンテクスト情報は、今後ますます重要度を増していくと考えられる。コンテンツを高度に加工して「個客」に役立つコンテクスト情報に高めることのできる印刷会社の出番なのである。


●役立つ情報をつくれる強みをもっと発揮すべきだ

 記号としての「データ」は役立つ「情報」へ、さらに使える「知識」へ、そして身につく「知恵」へと昇華していく。その過程には、溢れるデータを高度に集約していくという作業がある。例えば、市場に出回る商品の仕様データを販売促進や生活向上に結びつける情報に仕上げる機能を、印刷会社はもっている。印刷技術は素人でも取り組めるようにコモディティー化(日用品化)してしまったが、こうした情報加工をサービスに組み込んで前面に押し出していけば、競争の厳しい情報市場を突破していける。新しい市場ニーズに相応しい情報サービス産業になるべきである。これまで印刷メディア用に使われてきたコンテンツは、すでにインターネットで使われるようになっている。通販情報がカタログ紙上よりインターネット上により多く掲載されている事実をみれば、このことがよくわかる。インターネットを敵ととらえず、むしろ味方と考える必要がある。2階建ての構造にして、印刷メディアは上に登ればよいのである。


●印刷会社こそ高度なサービスを提供できる

 印刷メディアとインターネットとのチャンネル組み合わせに、印刷会社のビジネスチャンスがある。ネットを駆使した双方向のコミュニケーションをデザインすることは、印刷会社の得意分野のはず。印刷設備を有効活用するためにも、サービスをコモディティー化してはいけない。サービスに慣れ過ぎると、必然的に陳腐化してしまう。より高度な複合的な、有益なサービス内容にしなければならない。印刷会社が従来おこなってきた企画・デザインはサービスとはいえない。コンテンツを情報に高めていく高次元のサービスに取り組む必要がある。顧客が負担に感じる時間、距離、場所、エネルギーを軽減してあげることがサービスの基本となるが、消費者や企業が何より求めているのは手間の省略だ。代行業とか支援業があらゆる分野で成り立っている理由もそこにある。印刷業界で指導されていた“お手伝い業”への転換を再び考えてみたい。


●マーケティング3.0の考え方に学ぶ価値がある

マーケティングの世界では、製品主体の「1.0」から消費者志向の「2.0」、人間重視の「3.0」へと、発想のバージョンアップが進んでいる。顧客を基点に、しかも顧客自身もマーケティング活動に参加してもらって、企業の立場では目に見えなかった顧客価値を共に創造していこうというのが「3.0」の考え方である。これまで、印刷メディアは大量に生産して大量に配布するというやり方が常識だった。しかし今後は、個客あるいは特定の顧客グループに対し、区分けしたサービスをワントゥワンで提供しなければならない。顧客は一人ひとり価値観が異なっている。個人ごとのニーズを把握しないで、一律的なダイレクトメールを送り付けても通用しない。そこで、個客向けにコンテンツ加工をしようと試みるのだが、それにはコストがかかり過ぎる。関心を高めてくれる印刷メディアが求められているにも関わらず、「印刷は可能だが、コンテンツは加工できない」という事態に陥る。ここはやはり、顧客企業に消費者との対話を深めてもらい、真のニーズ情報を寄せてもらうしかない。印刷会社はそれを後押ししていくことである。


●正当な対価を得られるようなソフト産業になろう

 印刷会社にとって重要なのはソフト分野への取り組みである。ソフト化してメディアを扱える「頭脳産業」になれといいたい。脱ハードではあるが、印刷設備との連携は欠かせない。しかし、全ての印刷会社が強みと思っていた生産設備に拠りかかり過ぎると、逆に弱みを抱えることになりかねない。加工したコンテンツを有効な情報に仕上げ、顧客に提供するための仕組みづくりと仕掛け方を知る必要がある。投入した努力に対する対価の意味を理解していないと、満足のいく正当な利益は得られない。印刷料金は本来、顧客が認めてくれた価値である。提供するサービスが無料の付随的なものである間は、真の価値を得たことにはならない。ソフト産業では、ホスピタリティーとサービスとの混同は許されない。


●自社のビジネスモデルを明確にして差別化を

 印刷技術は確かに印刷産業をつくり引っ張ってきたが、その間に早々と印刷と出版が分かれた。ビジネスの複合化、業際化のなかで両者を複合的に捉えたらという見方もあるが、この辺をどう考えるか。情報サービス産業、ソフト産業をめざそうという動きは時代の趨勢といえるが、だからといって、全ての印刷会社がそのようなビジネスモデルを構築することは不可能だ。オフ輪印刷、シール印刷、印刷通販など、生産主体の印刷会社の存在は揺るぎない。そこで出てくるのが「ポジショング」というキーワードだろう。例えば、縦軸の指標として情報処理とメディア製作、横軸として生産志向とマーケティング指向を置き、交差した象限のどこに自社を位置づけるか。このほか地域、品目、工程、顧客市場などさまざまな指標が考えられるが、いずれにしても、自社の位置を明確にして特化、差別化をはかる必要がある。いろいろなビジネスモデルの印刷会社を包含する印刷産業が「プラットフォーム産業」となり、そのなかで相互にネットワークを組んで、全体で印刷ビジネスを展開していく姿が望ましい。

月例会報告 2015年7月度

2015-07-21 16:17:53 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年7月度会合より)





●一世を風靡したワインの広告ポスターをいま一度

 大手洋酒メーカーが大正末期に制作したワインの広告ポスター――セミヌードの女性をモデルにした、当時としては度肝を抜く斬新な図柄も相まって、社会的に大きな反響を巻き起こしたことはよく知られる。そのポスターは、ドイツで開かれた世界ポスター展で1位になったことから、我が国の広告ポスター史に燦然と輝く1ページを飾っている。しかも幸いなことに、刷り本が印刷図書館に現存されていて、多くの印刷人が目にしたことのある貴重な印刷史料ともなっている。印刷人としては、別の視点からこのポスターに関心を寄せるべき理由がある。それは、大正時代に一世を風靡したカラー刷りポスターを可能にした最新の印刷技術が、果たしてどのような状況であったかということである。

●人工着色の妙技は印刷技術史の価値ある“遺産”

 最終的に菊全判10色に及んだHB写真製版プロセスについての詳細な技術的説明はさておき、当時、モノクロ写真に人工着色を施して、それを印刷原稿として採用していたことは注目に値する。このポスターも撮影されたネガからモノクロ画像を印画紙に焼き付け、その写真の上にデザイナーが彩色してセピア調に仕上げている。1枚の写真印画紙(反射原稿)からパンクロ乾板と色フィルターを用いて色分解し、連続階調の分解ネガにつくり分けたという。さらに大型の製版カメラで拡大サイズの連続調ポジ(湿版)がレタッチ作業用に作成される。ここでも、現代人の想像の域を超えた“人の手”が加わる。ポジ濃度、網点の大きさと再現色の関係を、印刷原稿の色を見ながら頭の中で描いて、湿版ポジの連続階調を増減するというものであった。

●レタッチ結果も、職人の手法で納得いく水準にした

 そこで用いられた手法は、以下のようだった。濃度を高めるときは黒鉛の粉や鉛筆など、下げるときは消しゴムや軽石の粉、鉄筆を使い、しかも指先で粉類を擦り込んで画調を整えていたという。そうすることが技能として確立されていたそうだ。その後は、ガラススクリーンを重ねて網点入りのネガに反転することになるが、この網ネガも再度、レタッチ工程に回され、不要な箇所はオペークで塗りつぶしたり、逆にベタ色にしたい箇所は平針で膜面を剥がしたり、網点を小さくしたい箇所は黒鉛の粉をまぶしたりして、納得のいくまで修整していた。そして、砂目立てしたジンク版に密着して刷版を作成し、最後にオフセット印刷する。このポスターの場合、初刷りした5万枚が店頭でアッという間になくなり、さらに5万枚の増し刷りを2回おこなうほどの人気を集めた。

●日本人の器用さと感性が独自の印刷文化をつくった

 このような日本独自の人工着色法は、カラーの写真原稿が普及するまで、大型の映画ポスターなどで大いに使われた。また湿版レタッチ法は、昭和35年頃まで我が国の写真製版法の主流であり続けたのである。ここで紹介したワインの広告ポスターはHB写真製版法の初期の作品例ではあるが、今、プロセスの内容を理解できる人はどのくらいいるだろうか? 特色を含め10色くらい使うのは当たり前の頃、トンボやスクリーン角度を調整するのは本当に大変だっただろう。まさに名人芸に等しい。明治・大正時代の技術者がいかに優秀だったかを改めて思い知らされる。初刷り分はセピア調、増し刷り分はダークブルーグリーン調にと、微妙に色調を変化させている。こうなると、レタッチは単なる修整ではなく、色そのものをつくり出していたに等しい。そんな技法を誰が引き継ぎ、誰が根付かせてきたのか。石版の時代から、手で描画し色を再現してきた日本人の器用さと工芸的感性、使命感には驚くほかない。

●本の流通は真の読者サービスに沿っているか

 出版や書店が減少傾向にあるのと対照的に、電子書籍やネット通販が台頭している。「出版社も作家も幸せになる」と、ベンチャービジネスが盛んに市場進出をはかっている。そうした新規ビジネスのセールスポイントは「24時間365日、いつでもどこからでも借り出し/注文できる」というものだ。ウエブ上の“図書館”に書籍情報を発表しておけば、本当に読みたい人に有料でダウンロードしてもらうなり、現物の購入を注文してもらうなりできるという。新聞や書店で印刷本をPRするより、はるかに宣伝効果が高いという。減ってきているとはいえ近隣には書店があり、そこから本を買うことはできるが、同じような本しか並んでいない。遠くの専門図書館まで出向いて探し回る余裕もない。結局、ネット上に提供されている高度な利用法に頼ることになる。しかしながら、真の読者サービスという観点からの、時代のニーズに見合ったビジネスモデルは未だ確立されていない。書籍に巻かれたオビの推奨文に高い関心を示すような人たちも含め、多様なニーズに幅広く応えられるような複合的な出版文化は、デジタルの分野ではまだまだ育っていないのが現状である。

●サプライチェーンの中心で読者価値の高い本を

 ネット上にはさまざま出版情報が紹介されているとはいえ、それらは“プレゼンしたい本”に止まっている。著作権フリーの本から広がっているが、最終的には作家も儲かるシステムにしていかないと、優れた原稿(コンテンツ)は増えていかないだろう。本が書かれた趣旨や背景、目次などをネット上で“立ち読み”できるサービスがもっと確立されたなら、そのなかで優れたコンテンツが育てられていくに違いない。取次を経由しないような特殊な本を対象に加えながら、ネット経由の図書販売は着々と社会に浸透していくだろう。一方の印刷本は、原稿を写し変えるといった、メディア間のたんなる流用ではなく、逆に(オーディオブックのように)読者価値を高めた内容とすることで、出版物として復活できる余地がある。これまでは、本の流通は取次が中心となっていた。しかし、コンテンツという基点に立てば、印刷会社が出版サプライチェーンの土台を築けることも不可能ではないのだ。

●ワンストップ受注のプラットフォームビジネスを

 印刷物を発注する顧客サイドからみれば、年間を通した全社レベルの印刷費はほぼ一定で、いわば固定費的な性格をもっている。それは発注窓口がバラバラだからで、個々には仕様や部数の変更、見積もり交渉などによって、ずっと一定ということはあり得ない。いわば変動費的な扱いをする。こうした事実を印刷会社が“逆手”にとることを許されるなら、全ての印刷品目をワンストップサービスで受注することの意味が見えてくる。一括アウトソーシングの期待に応えてあげることもできる。そのうえで、将来的に電子メディアの制作、ネットワーク配信も加えた総合的なメディアプロデューサーになる必要がある。そこには当然、印刷物の製作引き受けも含まれる。印刷会社が本来得意とするコンテンツ加工を活かした「プラットフォームビジネス」を手掛けていかなければならない。

●発注窓口を見つめ直し、効果的に顧客開拓しよう

 主要駅や大型商業施設など、多数のオフィス、店舗が集まる大規模集積地域が全国に点在するようになった。これまでの商店街やショッピングセンターに代わる強烈な存在感を見せつけている。印刷会社は従来、顧客になってくれそうな身近な企業を相手に、飛び込み、ダイレクトメール、紹介などで営業してきた。だが、こうした商業集積の姿を目の当たりにして、もう一度、発注窓口を見つめ直し、効果的に顧客開拓していく必要がありそうだ。それでも、これまで通り日常的な印刷物の「プリントマネジメント」に止まっていてはいけない。脱コモディティ化によって顧客価値の創造をめざし、コンテンツを基盤としたサプライチェーンを構築するとともに、付加価値を獲得すべくバリューチェーンの中核を担っていかなければいけない。


月例会報告 2015年6月度

2015-06-22 16:12:54 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年6月度会合より)


●印刷業界は製品の“使用後”のことを考えているか?

 ハウスホールド(生活・健康)用品の製造と販売を手掛ける大手企業が、インクジェット方式で印刷された古紙の脱墨をおこなうビジネス分野に関心を示しているそうだ。インクが紙に浸み込んだりトナーが定着したりするデジタル印刷方式による古紙の再生紙化は、オフセット印刷物以上にコストがかかり、製紙メーカーもやりたがらないという。デジタル印刷方式が普及すればするほど、再生紙化は大きな社会問題になってくると考えられるが、この大手企業は素材の提供面から協力できるとしている。独自のナノ技術によって、インキを微細なカプセルに包み込むことで、脱墨も簡単になるというのだ。そうなれば古紙として回収しやすくなる。1枚単位の印刷が可能なデジタル印刷はマーケティングとの相性もよく、それに使用後のリサイクル効果が加われば、市場も一気に開けてくると読む。市場構造の変化を鋭く見通しての事業進出といえそうだ。印刷関係者が気づいてもいない事柄を業界外の企業から聞くこと自体、驚きだが、本来、印刷業界から提唱すべき可能性を根こそぎ?もっていかれることの危惧も抱かせる。


●印刷見積りに、はたして論理的な正当性はあるか?

 安値で印刷することの実態をどう考えるか? 過当競争の最中、印刷機の稼働率を上げる効果はあるのかも知れないが、その反面、印刷会社としての付加価値を失うことにつながっている。印刷機は高速化し確かに生産性は向上した。それでも、肝心の見積りは旧態依然のままに“ボロ負け”している。依然として印刷工程で儲けようという思いが強い。見積書をみると、合計では各社だいたい同じようなレベルに落ち着いてくる。しかし、中味を見ると科目ごとにバラバラで、論理的な正当性、整合性がない。儲かる部分をもっているにも関わらず、どんぶり勘定で総額を出してしまう。合理的な根拠がないから、つい安値に走ってしまう。紙など原材料の価格は知れ渡っているのに、単価を上乗せして総額のつじつま合わせをすることもある。顧客には、その辺の“嘘”を見抜かれ、さらに引き下げを要求されるという悪循環を招く。面付けの利点も見抜かれてしまえば、逆効果となる。紙への印刷そのものは付加価値をもたらしてくれない。これまで無償で提供していたサービスも、顧客サイドが自身のビジネスに有効だと判断してくれれば、金額を厭わず支払ってくれる。付加価値の取れる特長的な付帯サービスで、利益を上げる営業体質に転換しなければならない。


●出版業界は真の読者ニーズに応えてくれているか?

 世の中に流れる情報が多くなり過ぎて、利用者や消費者にとってどれが本物か、判らなくなってきた。本を例にあげると、交流のある知人の趣味などから検索したであろう、自分にとって全く縁のないタイトルの本を紹介されたりするご時世となった。本当の意味で、読み手のベネフィット(便益)を考えてくれているわけではない。本が売れないはずである。考えさせてくれる本も少なくなった。書店には売れ筋の本が平積みで置かれている。それはそれで、話題の本が何であるかを一目でわかるように紹介してくれる「提案コーナー」ととらえればよいのだが、書棚に整然と並んでいる本の背表紙のタイトルを見比べながら、必要とする本を選ぶという知的本能を、来店客から奪うことにもなっている。矛盾しているようだが、売れそうな本を安易につくればつくるほど、読者層は限られ出版市場は小さくなる。長期的視野で読者ニーズを分析して、幅広い客層に応えることのできる出版ビジネスであってほしい。


●電子媒体が増え続けるなかで、印刷会社は何をする?

 タブレット端末を使った電子書籍を多くの人が読むようになり、高齢女性が電車のなかでマンガ本のページをめくっている姿を目の当りにしたことがある。読んでいるのは文庫本や新聞ではなく、ゲームに興じているのでもなかった。マンガに象徴されるサブカルチャーが手っ取り早く電子媒体で読めるほど、身近な存在になったということだ。その反動か、ここ10年間で紙の出版物は減少し、とくに若者向けの雑誌は大幅に減ってしまった。紙に類似した表示装置ができたら、すべて電子媒体にとられてしまいかねない。そうしたなかで、高齢者向けの本は増え続けている。ユニバーサルフォントの少し大きめの文字で印刷した、読みやすい本をつくってみたらどうだろうか? 著作権フリーの作品から手掛けてみる価値はある。これは一つの例に過ぎないが、印刷媒体が対抗するにも、このような可能性を印刷業界からどんどん提案すべきだ。


●印刷業界は「文字」の効用を活かし切っているか?

 そうはいいながら、読みやすい本をつくっても、読まない人は読まない。これは読み手の問題であって、例え小さな文字で印刷されていても、本当に読みたい本なら苦労してでも読むはずである。こうした事実は、提案の仕方をもっと工夫すべきであることを示唆している。印刷業界が頼りとする文字は、今でも情報伝達手段の主流であり、人びとの頭のなかに記憶として定着しやすい。つまり、文字を残すことが印刷媒体の復活につながるのである。定着する仕組みをいかに提案するか。テレビの世界でも最近、文字の効用を重視し、放映中の画面表示に力を注いでいる。さまざまな媒体のなかで、印刷業界が得意とする文字が生き残っていける領域がある。媒体が多様になり急速に拡大しているだけに、文字が占める相対的な比率は縮小してはいるが、だからといって文字の活用機会と使用量が減っているわけではない。クロスメディアを見通しながら、画像と文字との相乗効果をどうやって発揮させていくか。文字を得意とする印刷媒体のポールポジションを失ってはならない。


●印刷の本質的な価値を見出す努力をしているか?

 印刷がもっているべき本質的な価値が、どこかに飛んでしまっている。工業社会から情報社会へ進展する過程で、産業そのものも情報化した。印刷産業も例外ではなく、情報産業、メディア業に転換したときに、印刷の本質が見えなくなったのだ。情報化に煽られ、電子技術にばかり目がいっている。大量印刷することが本質ではない。印刷機械を回すこと以外に取り組むべき課題は多いはずだ。すべて“商い”が基準になっていて、顧客価値の創造が全くできていない。読者や消費者に至るサプライチェーンのなかで、どの部分をデジタルに任せるか、何をアナログでこなすか。同じように社内のバリューチェーンのかたちをどうするか。出版社ほか関連業界との間でビジネスネットワークを構築し、そのなかでいかにリーダーシップを発揮して付加価値を確保するか。例えば、スマートフォンにマンガをダウンロードして楽しむ時代になっているが、そこに印刷会社はどのように参画していくか。メディアの用途、利用方法にまで踏み込んで印刷のあり様を考える必要がある。この際いったん「版」から離れ、文字や画像を活かした情報伝達、読者や消費者との双方向の対話を重視することである。そうした原点に立ち返ったとき、印刷の本質、つまりこれから生きる道が見つけられるに違いない。


●教育方法の改革に、印刷業は意を尽くしているか?

 教科書をタブレット端末などの電子媒体に代えたために、子供たちの学力が落ちているという話を聞く。どんな分野でも、アナログからデジタルへの移行となると戸惑うだろうし、時間もかかるのかも知れないが、“道具”では簡単に教育効果を高められないことを示すニュースではある。教科書の内容を何でもかんでも新しい媒体に移せばよいという問題ではない。誰もが使いこなせているわけではなく、ムリが生じている。教育の方法とメディアの利用技術との整合性がとれていないような気がする。児童や学生一人ひとりの学習能力、理解度に見合った教科内容のカスタマイズ化は、デジタル技術を使えば簡単にできる。印刷会社にとって、情報加工は得意なところだ。教科書の製作と並行してじっくり取り組んでいける分野だろう。