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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会報告 ≪2016年4月度≫

2016-04-27 13:30:44 | 月例会
≪印刷の今とこれからを考える≫ 

「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年4月度会合より)

●フレキソ印刷の将来を切り開く“切り口”を

 紙器・段ボール、包装紙、紙袋などによく使われる「フレキソ印刷」――象徴的な凸版印刷方式に属していながら、一気に適用領域を拡げるといった様相にはなっていない。弾力性のある版材や流動性に富む液状のインキを使用しているせいか、要求品質の水準が高い日本の印刷ニーズのなかで、もう一つの感が否めない。規模は小さいながらフレキソインキの出荷量は毎年、大きく伸びているのだから、ステップアップする“切り口”が欲しいところだ。その一つとして、網点の形成、インキの転移、色の再現性といった印刷ならではの固有技術に科学的な“メス”を入れ、納得いく数値的な解析をおこなって、それを顧客と印刷業界との共通言語にしていく必要があるだろう。隆盛を迎えたオフセット印刷の経緯をみれば、すぐ分かることだ。そんな視点からの問題提起が印刷業界の専門雑誌に掲載され、注目されている。


●特性を掴み切った科学的な解説が見当たらない

フレキソ印刷の強みは、さまざまな素材に印刷可能なことにあるが、印刷機や製版材料の性能向上、印刷プロセス自体の進歩・発展で、グラビア印刷やオフセット印刷に近い印刷品質を実現できるまでになった。比較的低コストで印刷できること、環境にもやさしいことなどメリットは少なくない。問題は、フレキソ印刷に本格的に取り組んでみたいと思っても、どんな特性をもっているのかを物理的・科学的に解説した教科書がそもそもないことである。解析の切り口はどこにあるのだろうか? フレキソ印刷に用いる刷版は、画像のデジタルデータ化、出力手段のCTP化によって、網点再現のレベルがオフセット印刷並みとなり、高線数化、高画質化がはかられた。また版の表面に微細な凹凸の形状をつけることで、インキの横移動を防ぎ、ベタ部と階調部とのインキ転移を同条件にする工夫もなされている。


●網点を制御できれば、普及に大きな弾みが……

 このように、科学的に画像品質と再現性を安定にする技術開発が続いている。あとは、ドットゲインの制御をどうするかが残る。フレキソ印刷の場合、版上でインキがつぶされて網点が大きくなるという物理的ドットゲインが起こりやすい。アルコール系溶剤を使って直刷りしているためで、版上でインキがどう挙動しているかを捉え切っていない。被印刷素材の種類が多様なこともあって、とくに管理が難しい。刷版上の網点%を把握できたとしても、素材上の%がどうなっているかを意味しない。濃度計測で得た値=網点階調の面積率がもつ物性について、科学的な裏付けがほしいところである。版上と素材上に形成される網点の大きさの関係が理論的に解明されれば、一貫した生産技術が確立されてフレキソ印刷の領域拡大につながるはずだ。 


●印刷文化を顧みなければ印刷産業の発展はない

 関連業界を含めた、いわゆる印刷人はこの20年間で実に30万人も減少した。ピーク時の50万人と比べると見る影もない。そのためか、せっかくの印刷文化が継承できていない。何よりもったいないのは、世代間がリンクされていないことだ。いざというとき(まさに“今”)にルネッサンスができない。電子メディアが行き渡って紙メディアは確かに圧迫されているが、それ以前に紙メディアは、今という時代には情報伝達の有効手段としてモノ足りないとみなされてしまっている。紙メディアの文化的な意義が印刷業界内、そして社会に向けてきちんと伝え続けられていれば、電子メディア以上の価値が認められていたに違いない。非常にもどかしい。個人として活版印刷を楽しむ趣味のサークルが盛んになっているが、そのような工芸(=文化)が土台となって高度な技術(=文明)を駆使する産業は発展する。前者の伝承なくして後者はあり得ない。それにも関わらず、後者ばかりに関心がいく。やはり「文化」と「文明」を並び立てながら前進させたいものである。印刷文化学という学問領域がないのは、まことに残念だ。


●印刷メディアの役割、価値を社会に伝え続けたい

 印刷の良さをもっと社会に向けて伝えていく機会がなさ過ぎる。印刷産業全体で行動していくべきで、そうすれば印刷に対して“日が当たる”はずである。そのなかに、伝統的な活字の話題が含まれていてもよいだろう。印刷の文化に対する興味が印刷産業のなかにないような気がする。話題づくりも下手だ。30万人の印刷人が突然消えるほど産業構造が激変したので、見直す情熱がなくなってしまったのかも知れない。独自性を見せる余力もなくなったのかも知れない。しかし、継続は力なりである。つなげていかなければ意味がない。ビジネスに取り組む印刷人であるからには、紙メディアがもつマーケティング上の機能や価値を伝えていくことが有効だろう。印刷メディアは社会を結ぶ効果的な媒介物であり、そうした役割を広く、永く伝えていくのは文字どおり印刷産業の責任である。生産技術はその後に伴う従属的な手段であって、見た目の製品品質よりサービス品質が重視される時代に、主客を逆にしてはならない。


●マーケティングの視点で印刷ビジネスを組み直そう

 印刷産業は長い成熟期を経て今や転換期にある。日本の産業構造、市場環境がすっかり変わってしまったのに、当の印刷産業だけが「変わりたくない」と思っているようだ。これまでの事業形態をそれなりに維持できてきた成功体験もあって、それに“安住”している嫌いがある。繰り返し指摘されていることだが、マーケティングの視点から自らのビジネスを組み直してほしい。印刷固有の基本機能ではなく、ソフト・サービス面での副次的機能から考え直してほしい。これまでの印刷業は、品質・コスト・納期というハード面で自分たちの仕事を評価してきたが、今では印刷する前の段取りが全体の80%を占めるくらい重要になり、現にその工程の方が付加価値が高い。前工程といっても決してプリプレスのことではない。マーケティング視点でのメディア設計が必要である。メディア製作の前に情報加工サービスをミックスさせると、お金が取れるようになる。そのとき顧客との間で交わされる双方向のコミュニケーションこそ、顧客が印刷メディアに求めるニーズの把握と課題解決策の提供を可能にする。


●何が真の印刷付帯サービスかを見つめ直したい


 印刷メディアを使ったマーケティングといっても、究極の成果は「
文字」がもつ力が担う。その文字は印刷技術がないとつくれない。写真画像はアマチュアの人が撮れたとしても、そこに本格的なテキスト情報を載せられるのは、やはり印刷の専門家である。印刷技術はハードの要素だと直感的に考えがちだが、顧客に印刷メディアならではの価値を提供するという意味からすれば、逆に印刷産業だけが実現し得る立派な付帯サービスとなる。そうした成り立ちを自分自身で分析し評価していないのだとしたら、マーケティング視点での設計・管理が欠けていたということになる。ソフトな顧客価値創造のサービスを堂々と請求書に載せ、利益を上げるべきだと思う。産業の知識化が叫ばれている以上、知識の産業化があって然るべきである。知識サービス業がこれ
からの主要な産業となることだろう。


●特殊印刷物をなぜ未だに「特殊」と呼ぶのだろうか?

 印刷市場を特化している特殊印刷物が、コモディティー化するようになればいいと思う。少し逆説的ないい方だが、決して特殊ではない、普遍的な役割をもっていることを一般の人びとにもってもらいたいと願うからである。素材を重視する各種の特殊印刷物は、紙メディアならではの特性を発揮している。印刷産業が伝えたいと希求している紙メディアの重要性を、特殊印刷物はその昔から体現している。それなのに、印刷産業のなかで「特殊」と称するのだろうか? 製造業としてやってきたなかで必然的に名付けたのだろうが、印刷生産方法で区分するのはもう止めた方がよい。特殊が特殊でなくなれば、印刷メディア全体に好影響をもたらすだろう。

(以上)



[印刷]の今とこれからを考える ≪月例会報告2016年3月度≫

2016-03-28 13:15:19 | 月例会
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年3月度会合より)


●出版物の減少は果たして図書館のせいなの?

 出版業界が「新刊本の売上げが減っているのは、図書館による大量の貸出しが一因だ」と、一定期間の貸出し制限を申し入れた件は、「出版文化の根底に触れる問題だ」との“反発”が巻き起こって、未だに尾を引いているようだ。反発の理由をみてみると、①誰もが自由に書物から情報を得られるようにするのが図書館本来の役割、②部数の出ない専門書などでも購入しているのは図書館であり、出版業界全体を支えてくれている――に集約される。図書館が購入する本の冊数は、予算の削減もあって減少傾向にある。長期の景気低迷、消費性向の変化、さらにはオンライン通販や電子書籍の普及が重なって、図書館の利用者数、貸出本の冊数自体も減っている。しかし、それ以上に出版業界からの発行部数が落ちているのが現状である。 図書館を利用しない圧倒的多数の人たち(そのなかには書物愛好家もいて、必要とする本は自分で書店で購入している)が、出版物に対して高い評価をしていないことに原因があるのではないか?


●出版業界と図書館はこれからも手を携えて……

 図書館がもつもう一つの大きな役目は、書物に接する機会を設けることで本好きな人を増やすことにある。読書習慣を付けてもらえれば、そういう人たちは自然と書店に行って本を買うようになる。延いては出版部数が増え、出版社の売上げも高まる――このような視点を、出版業界はもつべきなのではないか? もし貸出し制限を強いるなら、それだけで本好きの人を育てる機会を奪うことになる。将来的に出版市場を縮小させかねない。出版文化を末長く保ちたいなら、出版業界は図書館を責めるのではなく、協力し合って真に本好きな読者市場を育てる努力をしていかなければならない。対立したまま読者を奪い合っている場合ではない。共存できる出版ビジネスの確立が急務だ。その前提として、出版社はベストセラー信仰から目覚めて、少部数であってもいいから多様な読者にとって価値のある本を発行し続けていく必要があるだろう。キメの細かいマーケティング志向が根底になければならないのはいうまでもない。


●印刷会社の「競争優位性」は思っている以上に強い

企業の「競争優位性」は、しっかりした事業領域の確立、製品やサービスの差別化、市場における独自のポジショニング、あるいは経営資源の効果的な展開、組織能力の向上などで発揮される。経営戦略、なかでも競争戦略の中心的な要素とされているが、製造業においては、抜きん出た技術、品質、生産ノウハウが優位性の根拠になることが多い。印刷会社は、果たして何をもって競争優位性としているのだろう? そのヒントとなる「印刷会社に対する顧客の認識」と題する論文が、アメリカの印刷産業団体PIAから発表された。その論文によると「印刷メディアと印刷会社(=プリンター)は、ビジネス・コミュニケーションのきわめて重要な要素として存続し続ける」といたうえで、印刷発注者である顧客企業でビジネスあるいはマーケティングを担当する経営幹部が「印刷会社のサービス提供能力は(自社の)社内印刷部門のそれをはるかに上回る。カラー印刷の製品品質、デジタル画像処理などの技術的能力が印刷会社の競争優位性を維持している」と評価する調査結果を紹介している。


●印刷会社の能力はあらゆる要素で社内印刷を凌ぐ

 調査した対象企業のほとんど全てが、この1年間に業務用もしくはマーケティング・コミュニケーションのために印刷メディアを活用したが、その86%は印刷会社に発注し、社内印刷の全面的利用は14%に過ぎなかったという。そして、社内印刷部門をもっている企業であっても、業務用の印刷メディアに関しては相変わらず外部の印刷会社に大きく依存しているのが実情だとしている。その理由は、主なものから順に製品品質、量的対応力、コスト問題、カラー品質の安定性/再現性と、ほとんど差がなく続く。印刷会社が社内印刷部門に比べて複数の優れた能力を合わせもっていると、顧客が認識 (規模の大きい企業ほど重視) していることを物語っている。実際にこれらの項目に関する問題の発生は、印刷会社の方が少ないという。さらに顧客は予算内納品、納期管理、コーディネーション(作業に必要な調整)といった印刷メディア製作のプロセスに関する対応でも、印刷会社の方が優れていると判断している事実がわかった。


●競争優位性を武器に、どのようなビジネスモデルを築くか?

最重要な競争優位性とみなされている技術力に関しては、「(ネット発注が可能な)クラウド印刷対応力」「先進的なカラー印刷技術」「先進的なデジタル画像処理技術」、そして「デジタル資産管理」が上位に並んでいる。製作プロジェクトへの献身的なサポート(取り組み姿勢)を見せてほしいと望んでいることも注視しなければならない。この論文は「印刷メディアはいまだに盤石のポジショニングを築き、社内印刷に対して明確な競争優位性をもっている」と繰り返し言及するとともに、「印刷会社にとって技術的能力はかなり重要な競争力の要素だ」と指摘してくれている。日本の印刷会社は、こうした調査分析をいかに受け止めて、自社の事業戦略=「競争しない競争戦略」に反映させていったらいいのか。紙メディア製作の強みを活かしながら、顧客ニーズに応えるマーケティング機能を組み込むことが肝要だとされるなかで、どのように自社のビジネスモデルを設計していくべきか――まずは土台づくりの再考を迫られる。
※参考資料=「FLASH REPORT」Jan. 2016, PIA; Dr. Ronnie H. Davis(Senior Vice President)


●デジタル資産管理で「コミュニケーションサービス」を

 デジタル化とネットワーク化が進展するにつれ、製品の品質は均一化する一方、サービスの内容は多様化の度を強めている。印刷メディアについても、サプライチェーンでの品質-コスト-納期の管理だけでなく、オンデマンド処理やクロスメディア対応も含めたバリューチェーン全体での管理へと、サービスの領域が広がってきている。価値を創造してくれるサービスや管理が、顧客が求める機能、提供してほしいソリューションとなっているのだ。デジタル資産管理により最適なサービス品質を供給することが、主要な課題となってきたことがわかる。顧客からみた有用な(意味づけの伴う)情報の加工/流通サービスにまで、管理の幅を広げる必要がある。印刷業における「情報コミュニケーションサービス」を再定義したところに、自身の存在意義を見出せるのではないだろうか? このコミュニケーションは、印刷会社と顧客との双方向の対話処理がなされて初めて成立する。アナログの特性とデジタルの特性を相互補完させ、新たな価値を提供できて初めて、印刷会社は「コミュニケーションサービスプロバイダー」になれるのだ。


●顧客と連係して価値を協創する「コソーシング」体制を

その価値は、顧客との協働・協創を通して、顧客へのマーケティングと社内のビジネスプロセスを一体化させることで生まれるものでなければいけない。顧客のシステムと印刷会社のシステムが連係し合い、顧客にとってあたかも自社の印刷業務部門であるかのように、印刷サービスを受けられる「コソーシング」の体制を築く必要がある。アウトソーシングで委託された情報加工処理、編集デザインで良しとしている場合ではない。高度なデジタル資産管理によって、顧客に知識と知恵をもたらす情報リテラシー、メディアリテラシーの先導者にならなければいけない。「顧客を起点に顧客の声を聞き、それに応える製品・サービスを創造して提供する」を実践している身近な例として、オフセット印刷とデジタル印刷の両方式を、さまざまな技術的手法によってハイブリッド運用している印刷会社が日本にある。小口分割印刷という新たなサービスを生み出し、1枚のムダもない適正在庫、極少部数の追刷り、掲載製品の仕様変更、特定ページの抜き刷りなどに自在に対応し、顧客から非常に喜ばれている。このような考え方、取り組み方こそ「印刷メディアの価値向上につながる」といってよい。

(以上)

月例会報告2016年2月度 (2016年2月18日開催)

2016-02-24 16:22:27 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年2月度会合より)

●経済の成熟期における印刷産業の景気は?

 経済動向との関係で印刷産業の今後を展望してみようというユニークな視点の論文が、アメリカの印刷産業団体PIAから発表された。最近の米国経済は6年を超える長い間、好況裡に推移してきた。2015年次における経済成長率は約2.2%になると予測され、これは、2009年中頃に景気後退期が終わって以降の平均値にほぼ等しい数値である。それだけ長期間、好調を維持してきたことになる。世界経済が減速する気配を見せ、米国においても「景気回復から7年後には成熟期を迎える」という過去があるなかで、例え成熟期に入って弱含みになったとしても、成熟により獲得した体力(寿命)で「積極的な弾力性」(粘り腰)を見せられるはずだとしている。これまでに得た歴史的な経験を根拠に、そう分析する。印刷産業もその恩恵に預かって「20年間も待ち続けた最良の成長」を享受している。「印刷市場は驚くほどうまく機能している」そうである。


●Sweet Spotのメリットを享受できているか?

米国のGDPが2.0%増(2015年1~9月)に止まっていたとき、印刷産業の出荷高は3.5%の伸びを示すことができた。また、同国の製造業18業種のなかで、印刷業は出荷高、新規受注額、生産高、雇用者数の各指標で堂々1位を占めた。なぜ印刷産業は好調を持続できているのかについて、PIAは「経済の成熟期は印刷産業にとって“Sweet Spot”に当たるから」と分析する。製造業でありながら消費動向に左右されがちな生活産業の性格をもつ印刷産業の出荷高は、つねに経済動向に遅れるかたちで好不調を繰り返してきた。後退し始めるときは比較的遅く悪くなり、景気が回復するときは最後に良くなる。つまり、景気が落ち込まんとする時期(成熟期の最終段階)に、印刷産業の成長率がGDPを上回る期間がある。これをSweet Spotと称した。


●産業用印刷物はもちろんのこと、書籍まで!

 実際に、産業用資材であるパッケージ、ロジスティックス用印刷物、ラベル/包装紙は、GDPに追従して成長性を支える典型的な印刷品目となっている。また、販促用、マーケティング用の媒体となる商業印刷物も、その効果を発揮して成長性を保持している。製品ライフルサイクルの成熟期には、市場シェアの確保と利益の最大化、ブランド差別化のために広告宣伝に力が注がれるが、そのとき積極的に使われるのが印刷媒体である。そう考えると、経済成熟期の後半に印刷産業が潤うのも理解できる。さらに「印刷された書籍が元気を取り戻して、相対的にうまくやっている」という事実も、景気の良さから懐と心に余裕ができた消費者が、本を読んでみたいという気持ちを抱いてくれたことと無縁ではないだろう。 


●低成長になっても印刷産業はGDPを上回れる?

それでは、印刷産業はこれから先どうなるのであろうか? PIAでは、2~3年後の経済動向として①ムラのある低成長の持続(確率50%)、②平均的な穏やかな景気後退(25%)、③成長が加速する(25%)――という3つのシナリオについて考察し、「低速だが着実な成長」という可能性を、経営予測計画の基本にすべきだとしている。そして、もしも経済が低成長に終わったとしても(これがもっとも実現性が高い)、印刷産業の出荷高はGDPの成長率を上回る2%の成長を確保できると読む。しかし、悲観的軌道として景気後退が著しく深く進行するなら、それに引っ張られて恐らく年率でマイナス4~6%に下落してしまうだろう。そして、楽観的軌道だが、経済が何らかの方法で3~4%の範囲で成長し続けられるなら、印刷産業の出荷高は依然として年率3%、もしくはそれ以上の拡大を維持できるはずだと予測する。果たして……。
※参考資料=「The Magazine PIA」Jan. 2016; Dr. Ronnie H. Davis(Senior Vice President, PIA)


●印刷会社は「競争しない競争戦略」に取り組め


 アメリカの著名な経営学者であるマイケル・ポーターは、自著のなかで「競合企業と同じ市場を相手に同じような製品を販売しているかぎり、コストダウンや生産性向上によって対抗度を高めるしかない。やっと勝ち得た利益も、売り手の交渉力をもつ資機材の供給業者、買い手の交渉力をもつ顧客サイドに(取引価格を通じて)奪い取られてしまっている」と警告している。事業領域の特化、製品機能の高度化、顧客価値の追求など経営戦略の重要性を鋭く説いた指摘なのだが、印刷人として素通りさせてならないのは、その典型として印刷会社を事例に挙げている点である。こんな話を持ち出すまでもなく、印刷会社は今ほど「競争しない競争戦略」に取り組む必要がある。「ニッチビジネス」を掴んでいくしか生き残る道はないのだ。


●顧客価値を徹底的に提供する印刷ビジネスへ

「クラウド・コンピューティング」なるIT用語を、よく耳にする時代になった。しかし、「クラウド」の意味を深く理解している人はなかなかいないだろう。その意味には「雲」と「群衆」の二つがあって、前者は本来のコンピューティングに伴う意味、そして後者にはビジネス参画の拡がりを表す意味があるという。少額の資本をできるだけ多数の人たちから集めて開業資金にするとともに、事業にも参加し続けてもらう。もちろん、獲得した利益は配当のかたちで返してあげるのが大原則だ。今の若い人は誰でも、このような新しい“金儲け”の仕組みを知っている。実際に後者のかたちで事業を展開している若手の経営者から「印刷業こそリピーター(固定客)を相手に仕事をしたらよい。ムリに新規開拓する必要はない」といわれたことがある。その真理は――特定の得意先に有益な顧客価値を提供できるよう徹底的にサービスせよ、ということになる。ここで、ポーターの提言がつながってくる。


●「ニッチ」を掘り下げるためのビジネス設計を

印刷業はようやく、従来の受注産業から自ら仕掛ける産業へと変わろうとしているが、どうやってマーケットをつくっていくか、いかに顧客のお役に立つべきかといった具体策となると、なかなか進展しないのが実情である。課題は、紙メディアがもつ特有の機能とグラフィック・コミュニケーションを基本とする独自のサービス機能を、いかに結びつけるかにある。これらはいずれも他の産業にはない強みであり、いわば「ニッチ」である。しかし、両者を的確に結びつける方策=ビジネス設計が見当たらないところが悩ましい。プリプレスは情報加工と印刷工程をつなぐ重要な結節点ではあるが、顧客から「まだDTPをやっているの?」といわれている間は、ダメなのだ。DTPを売り物に、それ以降の製作を受注しているだけでは、まさに利益(付加価値)を奪い取られるだけである。競争は水平に位置する同業者とするのではなく、垂直関係にある取引先としなければならない。ポーターはまさにこのことに言及している。


●印刷メディアを基盤とする“ルネッサンス”を

大手広告代理店は旧来の事業内容に新しい形態のサービスを加えて、実に広範なビジネスを手掛けている。印刷産業はいつまでも“受注産業然”としていないで、産業全体でこうした方向をめざすべきである。一社々々はもちろん、それぞれの得意技を活かした領域に特化してニッチ市場で生き残りをはからなければならないのだが、バリューチェーンのなかで上流工程を狙った方が付加価値を獲得しやすく、得策だ。印刷生産技術だけを頼りに製品をつくろうとすればするほど、逆に立場を弱くしかねない。電子メディアという代替品が出てきても、印刷メディアの特質とノウハウを自ら開示して、顧客の協力を得ながら、その顧客を支援しながら一緒にやればいい。電子メディア×印刷メディアのハイブリット型の「情報」を、マーケティング視点で提供していきたい。「紙」を土台とする印刷メディアが不動のビジネス基盤であることは否定しようがない。せっかくの素材を手元に確保しながら、印刷の“ルネッサンス”を巻き起こすことを期待したい。そのとき異業種の参入を許して席捲されていないことを……。

月例会報告 2016年1月度

2016-01-27 10:29:01 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年1月度会合より)



●文化財の保護はデジタル印刷システムで

 デジタル写真技術とデジタル印刷システムを活用した文化財保護活動が盛んになり、幾つかのプロジェクトが全国各地で展開されている。デジタルカメラで絵柄を忠実に撮影し、デジタル印刷で微妙な色彩を表現する――そうした技術的な強みを駆使することで、古い文化財を現代に甦らせようというのだ。デジタル印刷の多くはインクジェット方式を用いるが、そうしたなかでトナー方式によって伝統的な文書を複製・復元する試みが、システム機器を開発・販売する専門メーカーの手でおこなわれている。文字を中心とする古文書の場合、トナーの方がシャープに再現できるという利点があるという。そのプロジェクトの目的は、古い文献を誰もが簡単に手にとって見られるようにすることにある。文化の伝承に貢献するのはもちろん、開示されていない貴重な古文書を公開可能にする社会的な意義もある。専門メーカーが一定の予算を確保して無料で実施することは、企業による文化保護活動の一つのあり方として注目されている。


●作成当時の状況や時代背景を考慮しながら

 このメーカーによると、①現在の姿をそのまま忠実に再現する現状再製、②作品がつくられた当時の状態を推測しながら再現する復元再製――の二通りがある。とくに後者の場合、歴史的背景や関連書物から得られる情報などを根拠に、依頼者(所有者)との協働で画法、顔料、素材、装丁方法などを選んでいくところに特徴がある。長い歴史のなかで失ってしまった文字、図柄、製本などを納得いくかたちで復元しよういうのである。原本を傷めることなく電子化するためにデジタルカメラを使用するが、雲母(きらら)刷りや金箔、金絵具による描画など、鮮やかな光沢感、繊細で優美な質感を忠実に表現すべく、ライティングには細心の注意を払う。また、素材である和紙の最適な選択にも気を遣い、巻物の巻き皺まで忠実に復元するそうだ。撮影して得られた電子データは、できるだけ原本に近づけるよう画像処理し、カラーマッチング技術、多彩なトナーの使用で忠実な色再現を期しているのはいうまでもない。


●学術研究、教育、産業育成にも効果あり……

 博物館や資料館、図書館などに所蔵されている古文書を、実際に手に取ることはなかなかできない。電子化による複製は、そうした貴重な本を身近に目にすることのできる機会を与えてくれる。伝統文化に対する人びとの関心を高めるだけでなく、所有者からの積極的な情報発信、有識者への研究資料の提供、若い世代向けの教育効果といったさまざまなメリットがある。文化伝承の“バリアフリー化”ともいえる優れた保護活動となっている。電子化できない部分は手描きによる表現でカバーするようにすれば、自然に伝統技術の継承にもつながる。逆にデジタル機能を高めて古い文書の現代文化、多言語化をはかれば、時代を超え国境を越えて一気に広がる。和紙や絹織物を使った巻物類をつくれば、抄紙産業、織物産業の発展にも寄与することができる。地震、火山噴火、大火といった災害の研究に際しても、古文書の有効利用で過去の情報がより簡単に得られることだろう。文化を継承、伝承していくことで、新しいビジネスチャンスが生まれてくるに違いない。


●印刷産業の業態変革は理解されているか?

大手印刷会社が事業構造の転換を急いでいると、産業分野の専門紙に報じられた。転換先とされたのは、デジタルメディアへの展開や事務処理業務の受託などだが、よく考えてみれば、大手に限らず印刷会社が業態変革、事業領域の変更を模索しているのは今に始まったことではない。大手印刷会社がどう生きていこうとしているのか興味をもたれ、それを産業界に伝えようとしたのだろうが、情報としては決して目新しいものとはいえない。それより気になったのは、印刷産業のビジネス基盤はこうだという固定観念(先入観) ?をもって記事が書かれたことではないだろうか。印刷産業からのPRが足りない部分も確かにあるが、新聞記者の“勉強不足”もあるのでは? 事務処理業務の受託はすでに当たり前の話になっている。「処理」に力点を置いていくと、印刷産業が課題としている受注産業からの脱却は叶わない。ここはやはり「プロセス」を提供するなかで、付加価値を取得する方向をめざす必要がある。企業の中核事業となるコアコンピタンスに集中して、それ以外はアウトソーシングしていくという考え方は、どの産業においても共通している。だが、そうすることによって新しいビジネス価値を創出できなくては意味がない。付加価値獲得競争が激しくなるなかで、印刷産業としても、印刷出力を“代行”するだけは通用しない。顧客のビジネスを支援できるコミュニケーションメディアを提供しなければならない。そんなことを感じた新聞記事だった。


●印刷会社は「コミュニケーション」に強くなろう

このところ急速に発展しているIT産業は、どのような事業ビジョンと経営方針をもってビジネスをおこなっているのか――印刷会社はもっともっと関心を寄せなければいけない。そういう印刷会社自身が独自の特長とは何かを強く意識して、事業に取り組む必要がある。本来の強み=文字に関する強みを活かして、ICT(情報コミュニケーション技術)企業をめざすべきだろう。印刷会社はITを外側から遠目で語る前に、中に飛び込んで強みを発揮できる分野を模索し、そこで新たな業態を構築しなければならない。ごく身近な例として、出版社から依頼されて書物の製作を引き受けるという関係から脱して、自ら出版企画を立て逆に出版業界に売るようにしたい。大地に足を着けて長年実績を重ねきた「出版印刷」というビジネス基盤があるはず。情報を扱える(処理/加工できる)という強みをもっているはず。それを武器に、出版社がやっている仕事を印刷会社が率先して手掛けるべきなのである。「コミュニケーション」をかたちにできる余地は、この出版印刷の例に限らずたくさんあるに違いない。


●文化性、人間性の観点を組み込んだ技術発展を

デジタル化が進展するなかで、そこには、ITの実情をみるまでもなく「文化性」が見受けられない。抜け落ちているような気がする。クラウドコンピューティングやビッグデータ分析の効用を否定するわけではないが、ハードの進歩に私たちは引きずられ過ぎているのではないか。ビジネスや生活の向上に役立つさまざまなソフトが開発されてはいるが、それでも個々の人間サイドからの視点が欠けている。コミュニケーション分析との付き合わせもみられない。科学技術と感性とは、相互に行き来しながら進歩していくものだと思いたい。データの変更を求められる一品生産型のプリメディア/プリプレス工程と、その後の複製生産型の印刷工程の関係を考えると、印刷メディアの製作には「設計」が重要であることがわかる。データの意味解釈、適切な処理と選択を可能にしてくれる人工頭脳(AI)を使って、両者をどう一貫化するのかという問題がいずれ出てくるだろう。そのとき、人間のもつ技能と感性をいかに組み込んでいくのかも課題となるだろう。文化性、人間性の観点はどうしても欠かせないのである。


●今まで縛られてきた“柵”から抜け出してほしい

《12月度記事参照》 今では、ITの活用で読者ニーズに即した情報を素早く提供できるビジネス環境が確立されているのに、出版社も印刷会社も、大量につくらないと儲からないという思いに未だ翻弄されている。読者が無意識に抱いている潜在ニーズをいかに顕在化するか――ニーズを気づかせる仕掛けによって購読を勝ち取るというマーケティング力に欠けている。読者に一番近い立場の書店もエリアマーケティング的な努力をしていない。そうした“柵”から抜け出し、じっくり考えることができるなら、新しい需要、新たな市場を見つけられるはずである。印刷メディアがもつ本来の利用価値を核とするマーケティングが可能になるだろう。

月例会報告 2015年12月度

2015-12-21 16:09:25 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年12月度会合より)



●出版社はマーケティング力が不足している

 有力な出版社や著者が「新刊本については少なくとも1年間は貸出しを猶予してほしい」と、公立図書館に要請した動きが物議を醸している。せっかく出版した本が売れなくなり、増刷もできないというのがその理由だが、公共サービスを本位とする図書館側は、商業出版との狭間でどう対処したらいいのか当惑しているようだ。そんな図書館側の事情はさておき、そもそも出版社が顧客側の動きを制約しようというのは、少しムリがあるのではないか。出版社は概して、確実に売れそうな本しかつくらない。読者が無意識に抱いている潜在ニーズをいかに顕在化するか――ニーズを気づかせる仕掛けによって購読を勝ち取るというマーケティング力が不足している。読者に一番近い書店もエリアマーケティング的な努力をしていないのが実情だ。問題の根底には、そんな実態が見え隠れする。


●ITを活用して読者ニーズに沿った出版企画を

 メディアが多様化してさまざまなチャンネルが構築されている現在、どんな内容でも出版物にさえすれば読んでくれるというのは、すでに昔の話になった。今は、ITの活用で読者ニーズに即した情報を素早く提供できるようになっている。しかし、そのITを駆使した出版のビジネスモデルがまだまだ確立されていない気がする。本は高価だ、本棚を置く場所がないというアナログならではの悩みが付きまとうなかで、ITによって知的レベルを高めた誰もが、必要とする書物を即座に読めるようにする効果は計り知れない。例えば、生活シーンを演出する場面に役立つ本を添えて欲しいと願う読者は多い。オーダーメイドの本をつくれる仕掛けを幾通りもつくり、読者に投げ掛けることこそ、出版社がおこなうべきこれからのビジネスモデルではないか?  返本を少なくできれば、それだけで出版社が生き残れる余地が生まれる。


●印刷会社もデータ主体のマーケティングを

翻って、印刷会社の営業活動も受注価格中心の“切った張った”のレベルに止まっている。パソコンが一般化しインターネットも普及し過ぎた。そうしたなかで、紙メディアの特質をビジネスの強みとしてどう活かすかという発想が足りない。電子黒板やタブレット端末を用いた学校教育が浸透してきた。また、デジタルプリンタを端末として活用した教育(通教、社会人講座、学習塾など)も盛んになった。誰でも簡単に勉強できる時代になったのである。印刷会社は乗り遅れてはいけない。今こそアタマを入れ代えて、デジタルマーケティングに取り組まなければならない。道具(印刷機)に頼った経験則によるマーティングから、データを駆使するマーケティングへと変換する必要がある。大量生産志向から抜け出し、データによって顧客のニーズを掴み、それに見合う最適なメディアをその時その場で提供すること。それには、顧客と対等のパートナーシップを築いて自らビジネス提案することが重要になる。


●好調なアメリカ印刷産業で二極分化の動きが

 このところアメリカの印刷産業が好調のようだ。出荷額が16か月連続して前年比を上回り、インフレ調整後の実質値でもGDPの伸び率以上と、弾性値「1」を超える勢いをみせている。20年間も待ち続けた最良の成長である。このような企業環境を受けてか、5年以上も前から提唱されてきた「マーケティングサービスプロバイダー」(MSP)への業態変革の動きが鈍化し、本来の「プリントサービスプロバイダー」(PSP)に原点回帰する傾向が強まっているという。この1年の間でもMSPへの変革の意気込みが低下しているのだ。しかも、全体の3分の1に当たる印刷会社がMSPへ転換する意欲すら放棄している。転換自体をあきらめた会社が増えたということらしい。その一方では、変革を終えたとする会社も着実に増えており、両者の隔たりが大きくなっている。PSPを志向せざるを得ない理由としては、売上高を確保したいという緊急課題がトップに立ち、そのうえで①適切な能力がない、②明確なビジョンと戦略がない、③技術的な課題がある――が続く。さらに開発時間、資金的制約、資質不足が挙げられていて、基本的な企業力がないことも大きな理由のようだ。


●本業回帰で付加価値を確保し続けられるか?

 こうした課題を本業への注力でカバーしているといえば簡単だが、そう単純ではない。今後どんな市場分野の成長が予測されるかと聞くと、1位はデジタル印刷、2位はラージプリントとなっている。従来型のオフセット印刷は3位に止まっていることに留意する必要がある。さらに続くメーリングサービス、フルフィルメントサービスも含めて、新たに付加価値を獲得しようという分野は、いずれもバリアブルデータを扱うものばかりである。そうなると、革新的なビジネス戦略、運営方法の構築、営業パーソンや制作スタッフのスキル向上が必要になる。MSPへの転換のハードルが高くなると同時に、PSPの領域そのものも限定されることになる。景気が回復すると従来型市場が活況を呈するので、MSPへの転換を躊躇する印刷会社が“つい”本業に頼りがちなのは理解できるが、より高度な付加価値サービスを長期にわたって提供していくべきだという提言のなかで、どのように対応していこうとしているのだろうか?

※参考資料=「Info Trends」Associate Director Howie Fenton;What They Think


●ITを使いこなせない印刷業は“不思議な商売”

「印刷業は不思議な商売だ」といわれたことがある。IT(情報技術)からICT(情報コミュニケーション技術)、さらにはIoT(Internet or Think)とビジネスの基調が次々と変わっていて、10年後には現存する仕事の3分の1はなくなるだろうとみられている。確実に生き残るのは、人と人とを繋げるコミュニケーションだとさえいわれる。そうしたなかで印刷産業はどうしていくべきか。印刷の機能を①生産設備を柱とするバックヤード、②ITやマーケティングを駆使するフロントヤード――の二つに分けて考えた場合、発展したあげく限界にまで到達した前者に対し、後者は全くといっていいほど手をつけられていない。それなのに、前者ばかりに資本を注ぎ込んで、後者については殆んど考えていない実態を「不思議だ」と受け取られたのだ。前者に力を注いできた従来型の印刷業はすでに成熟段階に入り、価格、品質、納期を自由に決められなくなっている。だからといって前者の業態をそのままに、川上工程の後者に比重を移したとしても無理が生じるだろう。根本的に異なる機能をもった両者を一緒に考える必要はない。


●「コミュニケーション」を印刷業の主機能に

フロントヤードの仕事は、理論的に設計変更が可能という特質をもっている。印刷業の場合は、プリプレス/プリメディアの工程で自分の意思でコンテンツを処理できる仕組みを築いて、価格、品質、納期を主体的に決められる体制をとることが重要なのである。ITを駆使すれば、受注から印刷にかけるまでの時間を自由自在に操作できる。たんに短縮できるだけでなく、印刷機の稼働率もコントロールしやすくなる。本当の意味の経営効率はこうして確保される。印刷製品を納めるだけでは判らなかった効用も、ICTの導入により測定可能となる。印刷メディアならではの特性を活かすために、フロントヤードをどう組み立てるか、そのうえでマーケティング視点でバックヤードとどう連携させるか、が重要になるだろう。これからは「コミュニケーション」を印刷業の主機能とすべきである。印刷業の将来はフロントヤードで打開できるのだ。そのための人材、とくに生まれながらにデジタルに親しんでいる“ネイティブ・デジタル”の発掘と確保に全力を注ぐ必要がある。社内で育成できなければ、外部からのヘッドハンティングで抱え込むことも厭うてはならない。彼らは取り扱うデジタルデータをきちんと管理し、顧客ニーズに沿ったメディアとして効果的にかたちづくってくれるだろう。