[印刷]の今とこれからを考える
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年9月度会合より)
●印刷メディアへの広告量はインターネットにも抜かれた
各種メディアへの広告出稿量をみると、インターネットに向かってどんどんシフトしていることがわかる。印刷メディアはグーテンベルクが近代的な活字印刷方式を発明して以来、600年間“王様”の地位を保ってきたが、100年前にラジオ、テレビといった放送メディアが入り、さらに20年前にはインターネットが加わってきた。メディア全体は引き続き拡大しているのにもかかわらず、内訳が急激に変化して、印刷メディアはとうとうインターネットにも抜かれてしまった。これはアメリカに次いで日本でも起こった現象で、最下位への転落である。しかし、次は再び印刷メディアに回帰するに違いないとする心強い見方がある。何を意味しているのか。「恐竜が滅びた理由」を当てはめることができるからだというのである。
●価値ある情報を提供できるメディアが生き残れる
巨大な隕石が落下して恐竜が滅びた後も、小動物や微生物は生き残った。これと同様に、圧倒的に規模の大きいインターネットで情報市場が“食いつぶされた”としても、生き残れるメディア、存在し続けるメディアがあるという。それこそ印刷メディアだという。WebやSNSには役立ちそうもないゴミ情報?が溢れかえっている。情報流通が過多の状態のなかで、読み手の価値(顧客価値)に耐え得る高次元の情報を提供できるのは印刷メディアしかないというのが、生き残っていけるとする理由である。われわれの身辺には数多くの雑文が降りかかってくるが、短歌や俳句のように本物の価値をもった文章も少なからずある。印刷メディアは、こうした本物指向をめざせるメディアであり、そこに存在意義を見出す余地があるとしている。
●視点を「コンテンツ情報」から「コンテクスト情報」へ
企業を対象としたB to Bのマーケティング分野でも、コンテンツの役割がますます高まっている。その根底にあるのが顧客価値ということになるが、その「顧客」は「個客」に変化している。そこで大切になるのがコンテクスト情報という概念である。コンテンツが記号としての言葉を直接表現したものなのに対し、コンテクストはその背景や意味を文脈としてまとめたものといえる。人びとの心に響かせ、納得してもらえる正確なコミュニケーションは、いまやコンテクスト情報なくして成り立たない時代になっている。電子メールが前者に当たるなら、印刷メディアはまさに後者に相当する。コンテクスト情報は、今後ますます重要度を増していくと考えられる。コンテンツを高度に加工して「個客」に役立つコンテクスト情報に高めることのできる印刷会社の出番なのである。
●役立つ情報をつくれる強みをもっと発揮すべきだ
記号としての「データ」は役立つ「情報」へ、さらに使える「知識」へ、そして身につく「知恵」へと昇華していく。その過程には、溢れるデータを高度に集約していくという作業がある。例えば、市場に出回る商品の仕様データを販売促進や生活向上に結びつける情報に仕上げる機能を、印刷会社はもっている。印刷技術は素人でも取り組めるようにコモディティー化(日用品化)してしまったが、こうした情報加工をサービスに組み込んで前面に押し出していけば、競争の厳しい情報市場を突破していける。新しい市場ニーズに相応しい情報サービス産業になるべきである。これまで印刷メディア用に使われてきたコンテンツは、すでにインターネットで使われるようになっている。通販情報がカタログ紙上よりインターネット上により多く掲載されている事実をみれば、このことがよくわかる。インターネットを敵ととらえず、むしろ味方と考える必要がある。2階建ての構造にして、印刷メディアは上に登ればよいのである。
●印刷会社こそ高度なサービスを提供できる
印刷メディアとインターネットとのチャンネル組み合わせに、印刷会社のビジネスチャンスがある。ネットを駆使した双方向のコミュニケーションをデザインすることは、印刷会社の得意分野のはず。印刷設備を有効活用するためにも、サービスをコモディティー化してはいけない。サービスに慣れ過ぎると、必然的に陳腐化してしまう。より高度な複合的な、有益なサービス内容にしなければならない。印刷会社が従来おこなってきた企画・デザインはサービスとはいえない。コンテンツを情報に高めていく高次元のサービスに取り組む必要がある。顧客が負担に感じる時間、距離、場所、エネルギーを軽減してあげることがサービスの基本となるが、消費者や企業が何より求めているのは手間の省略だ。代行業とか支援業があらゆる分野で成り立っている理由もそこにある。印刷業界で指導されていた“お手伝い業”への転換を再び考えてみたい。
●マーケティング3.0の考え方に学ぶ価値がある
マーケティングの世界では、製品主体の「1.0」から消費者志向の「2.0」、人間重視の「3.0」へと、発想のバージョンアップが進んでいる。顧客を基点に、しかも顧客自身もマーケティング活動に参加してもらって、企業の立場では目に見えなかった顧客価値を共に創造していこうというのが「3.0」の考え方である。これまで、印刷メディアは大量に生産して大量に配布するというやり方が常識だった。しかし今後は、個客あるいは特定の顧客グループに対し、区分けしたサービスをワントゥワンで提供しなければならない。顧客は一人ひとり価値観が異なっている。個人ごとのニーズを把握しないで、一律的なダイレクトメールを送り付けても通用しない。そこで、個客向けにコンテンツ加工をしようと試みるのだが、それにはコストがかかり過ぎる。関心を高めてくれる印刷メディアが求められているにも関わらず、「印刷は可能だが、コンテンツは加工できない」という事態に陥る。ここはやはり、顧客企業に消費者との対話を深めてもらい、真のニーズ情報を寄せてもらうしかない。印刷会社はそれを後押ししていくことである。
●正当な対価を得られるようなソフト産業になろう
印刷会社にとって重要なのはソフト分野への取り組みである。ソフト化してメディアを扱える「頭脳産業」になれといいたい。脱ハードではあるが、印刷設備との連携は欠かせない。しかし、全ての印刷会社が強みと思っていた生産設備に拠りかかり過ぎると、逆に弱みを抱えることになりかねない。加工したコンテンツを有効な情報に仕上げ、顧客に提供するための仕組みづくりと仕掛け方を知る必要がある。投入した努力に対する対価の意味を理解していないと、満足のいく正当な利益は得られない。印刷料金は本来、顧客が認めてくれた価値である。提供するサービスが無料の付随的なものである間は、真の価値を得たことにはならない。ソフト産業では、ホスピタリティーとサービスとの混同は許されない。
●自社のビジネスモデルを明確にして差別化を
印刷技術は確かに印刷産業をつくり引っ張ってきたが、その間に早々と印刷と出版が分かれた。ビジネスの複合化、業際化のなかで両者を複合的に捉えたらという見方もあるが、この辺をどう考えるか。情報サービス産業、ソフト産業をめざそうという動きは時代の趨勢といえるが、だからといって、全ての印刷会社がそのようなビジネスモデルを構築することは不可能だ。オフ輪印刷、シール印刷、印刷通販など、生産主体の印刷会社の存在は揺るぎない。そこで出てくるのが「ポジショング」というキーワードだろう。例えば、縦軸の指標として情報処理とメディア製作、横軸として生産志向とマーケティング指向を置き、交差した象限のどこに自社を位置づけるか。このほか地域、品目、工程、顧客市場などさまざまな指標が考えられるが、いずれにしても、自社の位置を明確にして特化、差別化をはかる必要がある。いろいろなビジネスモデルの印刷会社を包含する印刷産業が「プラットフォーム産業」となり、そのなかで相互にネットワークを組んで、全体で印刷ビジネスを展開していく姿が望ましい。
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年9月度会合より)
●印刷メディアへの広告量はインターネットにも抜かれた
各種メディアへの広告出稿量をみると、インターネットに向かってどんどんシフトしていることがわかる。印刷メディアはグーテンベルクが近代的な活字印刷方式を発明して以来、600年間“王様”の地位を保ってきたが、100年前にラジオ、テレビといった放送メディアが入り、さらに20年前にはインターネットが加わってきた。メディア全体は引き続き拡大しているのにもかかわらず、内訳が急激に変化して、印刷メディアはとうとうインターネットにも抜かれてしまった。これはアメリカに次いで日本でも起こった現象で、最下位への転落である。しかし、次は再び印刷メディアに回帰するに違いないとする心強い見方がある。何を意味しているのか。「恐竜が滅びた理由」を当てはめることができるからだというのである。
●価値ある情報を提供できるメディアが生き残れる
巨大な隕石が落下して恐竜が滅びた後も、小動物や微生物は生き残った。これと同様に、圧倒的に規模の大きいインターネットで情報市場が“食いつぶされた”としても、生き残れるメディア、存在し続けるメディアがあるという。それこそ印刷メディアだという。WebやSNSには役立ちそうもないゴミ情報?が溢れかえっている。情報流通が過多の状態のなかで、読み手の価値(顧客価値)に耐え得る高次元の情報を提供できるのは印刷メディアしかないというのが、生き残っていけるとする理由である。われわれの身辺には数多くの雑文が降りかかってくるが、短歌や俳句のように本物の価値をもった文章も少なからずある。印刷メディアは、こうした本物指向をめざせるメディアであり、そこに存在意義を見出す余地があるとしている。
●視点を「コンテンツ情報」から「コンテクスト情報」へ
企業を対象としたB to Bのマーケティング分野でも、コンテンツの役割がますます高まっている。その根底にあるのが顧客価値ということになるが、その「顧客」は「個客」に変化している。そこで大切になるのがコンテクスト情報という概念である。コンテンツが記号としての言葉を直接表現したものなのに対し、コンテクストはその背景や意味を文脈としてまとめたものといえる。人びとの心に響かせ、納得してもらえる正確なコミュニケーションは、いまやコンテクスト情報なくして成り立たない時代になっている。電子メールが前者に当たるなら、印刷メディアはまさに後者に相当する。コンテクスト情報は、今後ますます重要度を増していくと考えられる。コンテンツを高度に加工して「個客」に役立つコンテクスト情報に高めることのできる印刷会社の出番なのである。
●役立つ情報をつくれる強みをもっと発揮すべきだ
記号としての「データ」は役立つ「情報」へ、さらに使える「知識」へ、そして身につく「知恵」へと昇華していく。その過程には、溢れるデータを高度に集約していくという作業がある。例えば、市場に出回る商品の仕様データを販売促進や生活向上に結びつける情報に仕上げる機能を、印刷会社はもっている。印刷技術は素人でも取り組めるようにコモディティー化(日用品化)してしまったが、こうした情報加工をサービスに組み込んで前面に押し出していけば、競争の厳しい情報市場を突破していける。新しい市場ニーズに相応しい情報サービス産業になるべきである。これまで印刷メディア用に使われてきたコンテンツは、すでにインターネットで使われるようになっている。通販情報がカタログ紙上よりインターネット上により多く掲載されている事実をみれば、このことがよくわかる。インターネットを敵ととらえず、むしろ味方と考える必要がある。2階建ての構造にして、印刷メディアは上に登ればよいのである。
●印刷会社こそ高度なサービスを提供できる
印刷メディアとインターネットとのチャンネル組み合わせに、印刷会社のビジネスチャンスがある。ネットを駆使した双方向のコミュニケーションをデザインすることは、印刷会社の得意分野のはず。印刷設備を有効活用するためにも、サービスをコモディティー化してはいけない。サービスに慣れ過ぎると、必然的に陳腐化してしまう。より高度な複合的な、有益なサービス内容にしなければならない。印刷会社が従来おこなってきた企画・デザインはサービスとはいえない。コンテンツを情報に高めていく高次元のサービスに取り組む必要がある。顧客が負担に感じる時間、距離、場所、エネルギーを軽減してあげることがサービスの基本となるが、消費者や企業が何より求めているのは手間の省略だ。代行業とか支援業があらゆる分野で成り立っている理由もそこにある。印刷業界で指導されていた“お手伝い業”への転換を再び考えてみたい。
●マーケティング3.0の考え方に学ぶ価値がある
マーケティングの世界では、製品主体の「1.0」から消費者志向の「2.0」、人間重視の「3.0」へと、発想のバージョンアップが進んでいる。顧客を基点に、しかも顧客自身もマーケティング活動に参加してもらって、企業の立場では目に見えなかった顧客価値を共に創造していこうというのが「3.0」の考え方である。これまで、印刷メディアは大量に生産して大量に配布するというやり方が常識だった。しかし今後は、個客あるいは特定の顧客グループに対し、区分けしたサービスをワントゥワンで提供しなければならない。顧客は一人ひとり価値観が異なっている。個人ごとのニーズを把握しないで、一律的なダイレクトメールを送り付けても通用しない。そこで、個客向けにコンテンツ加工をしようと試みるのだが、それにはコストがかかり過ぎる。関心を高めてくれる印刷メディアが求められているにも関わらず、「印刷は可能だが、コンテンツは加工できない」という事態に陥る。ここはやはり、顧客企業に消費者との対話を深めてもらい、真のニーズ情報を寄せてもらうしかない。印刷会社はそれを後押ししていくことである。
●正当な対価を得られるようなソフト産業になろう
印刷会社にとって重要なのはソフト分野への取り組みである。ソフト化してメディアを扱える「頭脳産業」になれといいたい。脱ハードではあるが、印刷設備との連携は欠かせない。しかし、全ての印刷会社が強みと思っていた生産設備に拠りかかり過ぎると、逆に弱みを抱えることになりかねない。加工したコンテンツを有効な情報に仕上げ、顧客に提供するための仕組みづくりと仕掛け方を知る必要がある。投入した努力に対する対価の意味を理解していないと、満足のいく正当な利益は得られない。印刷料金は本来、顧客が認めてくれた価値である。提供するサービスが無料の付随的なものである間は、真の価値を得たことにはならない。ソフト産業では、ホスピタリティーとサービスとの混同は許されない。
●自社のビジネスモデルを明確にして差別化を
印刷技術は確かに印刷産業をつくり引っ張ってきたが、その間に早々と印刷と出版が分かれた。ビジネスの複合化、業際化のなかで両者を複合的に捉えたらという見方もあるが、この辺をどう考えるか。情報サービス産業、ソフト産業をめざそうという動きは時代の趨勢といえるが、だからといって、全ての印刷会社がそのようなビジネスモデルを構築することは不可能だ。オフ輪印刷、シール印刷、印刷通販など、生産主体の印刷会社の存在は揺るぎない。そこで出てくるのが「ポジショング」というキーワードだろう。例えば、縦軸の指標として情報処理とメディア製作、横軸として生産志向とマーケティング指向を置き、交差した象限のどこに自社を位置づけるか。このほか地域、品目、工程、顧客市場などさまざまな指標が考えられるが、いずれにしても、自社の位置を明確にして特化、差別化をはかる必要がある。いろいろなビジネスモデルの印刷会社を包含する印刷産業が「プラットフォーム産業」となり、そのなかで相互にネットワークを組んで、全体で印刷ビジネスを展開していく姿が望ましい。
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