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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会 2016年10月度報告

2016-10-25 14:42:35 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年10月度会合より)

●ダヴィンチはなぜヴェネツィアに引っ越したか?

ルネッサンスを牽引した一人、レオナルド・ダヴィンチは、1500年にミラノから出版の中心地だったヴェネツィアに移り住んでいる。出版界の革命児、革新者といわれているアルド・マヌーツィオ(1450~1515)に会いたかったからだろうか? 芸術だけなく科学、医学分野でも異才を発揮した自身の理論を、印刷物として広く社会に知らしめたかったから?? マヌーツィオは16世紀のヴェネツィアで活躍した印刷・出版人で、「出版界のミケランジェロ」あるいは「出版界のラファエロ」と称された。1489年頃に、ローマ郊外からヴェネツィアに移っているが、ドイツからイタリアに印刷技術を伝えたとされるドイツ人の修道士たちとの親交から、印刷や出版に興味をもつに至ったとしても不思議ではない。彼の現れる以前、本は祈祷のためであったり、学習用の堅苦しいもの、真面目腐ったものであったりと、今日のような読書の楽しみとは無縁の存在だった。そんな時代に、マヌーツィオが親しみやすい本の出版を初めて手掛けて、読書を娯楽の一つに数えられるようにした功績は大きい。ほんの憶測に過ぎないが、ダヴィンチは本当にマヌーツィオを訪ねたかも知れないのだ。


●ルネッサンスを支えた印刷・出版の始祖は……

マヌーツィオが最初に出版したのはギリシャ語の文法書であったが、やがて自分の印刷所をつくり、マヌーツィオ文庫など数多くの名著を送り出すようになる。3,000部も売れた詩集でベストセラーの元祖にもなっている。数々の功績を拾い上げると,①机や書見台でしか開けないような重い本を文庫本にした(文庫本の生みの親)、②美しいローマン書体を新規に考案し、またイタリック体にも貢献、③句読点を開発して“ピリオとコンマの父”ともいわれた、④ノンブルをつけることを最初に考えた、⑤1ページを2段組にしてページ数を減らす工夫を最初にした――など。とくに私たちが記憶にとどめておきたいのは、①出版のかたちを一新した、②印刷と出版両方に着目し新境地を開いた、③開発した活字がフランスで新しいフォントになった――点である。亡くなってからちょうど500年、現在でも彼の出版・印刷活動がルネッサンス時代の学芸に大きな影響を与え,とくに印刷面から文芸復興を後押ししたことで注目されている。出版と印刷が別々に発展した日本で、果たして彼と同じような功績を残した出版人はいるだろうか。


●デジタルサイネージ市場が印刷業界を待っている

 顧客接点マーケティングの一環として、最近、印刷業界がにわかに関心を寄せ出したものに「デジタルサイネージ」がある。2020年には、その市場が2,700億円を突破するとの予測も出されており、デジタルコンテンツを扱える強みを発揮できる印刷会社にとって、またとないビジネスチャンスが到来している。全国の同業者同士でネットワーク組織をつくり、販促企画からコンテンツ制作、配信、メディアそのものの管理・運用まで支援していこうという動きも出ているくらいだ。地域に根ざしたサイネージ事業を全国規模で展開し、クライアント企業の販促活動をトータルに貢献していくビジネスだという。配信サービスまで手がけることにより、次々と最新のコンテンツを表示できるようになる。その分、販促効果が高まるだけに、クライアントから寄せられる期待も大きいそうである。


●パーソナルな顧客情報と組み合わせることで……

大手の印刷各社からも、このデジタルサイネージを活用したマーケティング戦略が競って提案されている。POSデータ(購買履歴)の分析システムやスマートフォンの専用アプリと、デジタルサイネージを組み合わせることで、よりパーソナルなニーズに沿った“お勧め商品”の販促情報を、店頭でリアルタイムに表示することが可能だとしている。Eコマースと電子看板が上手にコラボレーションすることになる。印刷業界がこのようなデジタルサイネージに力を入れ出した背景には、元々、販促用印刷物のためにデジタルデータの管理、加工をおこなってきた印刷会社ならではの実績がある。広告情報を心理的に抵抗感なく扱える土台がある。他産業と比較してはるかに有利な立場を生かしながら、今後、どのようなビジネスモデルを構築していこうとしているのか、大いに注目されるところである。


●アメリカの印刷産業はなお順調に推移している

 経済の上昇期には、発注を待たなければならない印刷産業の景気回復は遅れ、下降期には真っ先に発注を抑えられる印刷産業は早めに低迷してしまう。それでも上昇し切った成熟期には、どの企業も市場シェアを維持したいがために広告メディアを多用することから、一定の期間、印刷産業が恩恵に預かれるときがある。経済が下降に向かい始めたときでも、印刷産業は成熟期を引き延ばすことができる。「Sweet Spot」と呼ばれるこの現象をどう捉えて、今後の印刷市場を予測すべきか――アメリカの印刷産業団体PIAが恒例の特別サポートを公表している。北米の印刷市場でも例外ではなく、この2年間は、価格設定、利益とも上昇傾向にあった。経済回復期の7年目に当たる今年は、まさにベストな「Sweet Spot」にいるとしている。デジタルメディアへの置き換えでビジネスチャンスを探ると同時に、高付加価値型の付帯サービスを加味した独自のビジネスモデルに改良した時期でもあり、「印刷産業は順調だ」とさえ分析している。


●持続的な低成長を維持できる間に次の準備を

 経済回復期の“寿命”が近づいているなかで、PIAは今年の印刷市場の動向について①低成長の持続、けれどもムラのある成長(確率50%)、②穏やかな平均的な景気後退(同30%)、③成長の加速(同20%)――と見通している。さらに2018年までの予測では、もっとも可能性の高い経済シナリオとして、出荷額で年率約2%増の継続的な拡大(低成長持続型)を挙げている。もっとも楽天的なシナリオは0.5%増の成長加速型、極端な対立的見解は2~4%減(利益なし)の景気後退シナリオを列挙しているが、遅くとも3年以内には、穏やかな平均的な景気後退が25%の確率で「本当になる」とみている。印刷企業はどう対応すべきか? PIAは以下のように提言する。「すでに堅実な事業戦略計画をもち、印刷市況を先行学習しているなら、自社のマネジメントを大きく変更する必要は全くない」「計画立案上、もっとも重要なリスクは次の景気後退だが、その後退が続いている間に、(来るべき)健全な印刷市場で持続的な競争優位を構築できるよう、柔軟な姿勢で準備(体制づくり)しておくことが、実行すべきマネジメントの戦略課題である」。
※参考資料=「FLASH REPORT」Aug. 2016; Center for Print Economics and Management, PIA


●人材を招き入れるために教育界と連携を深めて

プレプレスの主要技術としてDTPが普及し出した1990年代中頃から、大学をはじめとする日本の教育機関から「印刷」という学科名が消えてしまっている。新しいビジネスモデルを模索しているこの時期に、優れた人材の育成、供給がないことは印刷産業にとって大きな問題である。それにも関わらず、印刷産業からは教育制度の改革についての動きがみられない。学生が集まらないせいなのか、どこの教育機関も印刷科、印刷工学科、写真印刷科といった名称を一斉に避けるようになった。それでも教育内容をみると、印刷工芸あるいはグラフィックアーツ、画像工学的な色彩が残っているようである。印刷産業から方策を提案するとしたら、①画像系の教育のあり方について印刷産業の業界団体と教育界が対話を深めていく、②教育機関では対応し切れない授業に、印刷業界から講師を派遣する――などが考えられる。そのなかで、画像技術とDTPシステムの全体像を教えられる教育プログラムの確立が可能になると思われる。両者がもっと連携を強め、社会のニーズに役立つ印刷メディアの魅力を学生たちに伝えていく必要がある。マーケティング機能と結びつけるという意味で「メディア工学科」と呼称したらどうだろうか?

以上




印刷図書館倶楽部 ≪月例会報告/2016年9月度≫

2016-09-23 11:19:21 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年9月度会合より)

●店頭でのマーケティング活動に参画していこう

消費財関連のマーケティング分野において、生活用品を商品として消費者に販売する「店頭」は、もっとも効果的かつ強力な顧客接点とされている。セールスプロモーションの手段として、昔からPOP広告が多用されていて、印刷業界にとっても馴染み深い場所でもある。商品の特長や利点をいかに訴求するか、いかに購買につなげるか――店頭での働きかけ(インストアマーケティング)は、小売業の盛衰に関わるほど重要な要件となっている。スーパーストアやショッピングセンターなどにいくと、いま流行りのデジタルサイネージ、プロジェクションマッピングによくお目にかかる。凹凸のある商品に絵柄を投影するような本格的な映像システムでなくても、例えば、白いスクリーン上にプロジェクターで映像を映し出して、宣伝にこれ努める店舗も少なくない。印刷会社として、このようなマーケティング動向に強い関心を寄せて、積極的に参画していくことの意義は決して小さくない。


●コンテンツの取り扱いに支援サービスの余地あり

大手の印刷会社が商品棚に直接、はめ込むことのできる特殊な形状のスクリーンを開発したことが関心を集めている。棚にある個々の商品の宣伝文句、とくに訴求したい内容、時々刻々と変化する価格を、まさに売りたい商品のすぐ傍で次々に表示して、消費者の目を引こうという作戦である。これらの情報は、棚の奥にプロジェクターを組み込んでおいて、そこから投影する仕組みとなっている。商品棚に設置されている電子媒体としては、すでに価格を表示する液晶パネル(電子棚札)が浸透してきたが、何分、画面が小さく価格だけしか表すことができない。この新製品は、こうした欠点を根本から払拭する画期的な試みといえる。宣伝文句や価格をコンテンツ情報としていかに効果的に制作し管理するか。印刷会社が新しい支援サービスとして取り組める余地、可能性が大いにある。その意味からも、インストアマーケティングにみられる最近の動きは注目に値するだろう。


●経営分析をしなければ、有効な改善策は見出せない

優れた企業経営をおこなうには計測値、とくに主要な経営指標(KPMs)に基づいて自社の経営実態を自己診断し、さらに収益性の違いなどを他社と差異分析したうえで、有効な改善策(アクションプラン)を講じる必要がある――こんな観点から、すぐ実行できるようわかりやすく説いた道筋を、例によりアメリカの印刷産業団体PIAが提示している。それによると、印刷会社(ただし、製造業としてのプリンター)にとって重要と思われる8つの経営指標を選んで、①自社はどのように実施すべきかの問題点を見出し→②なぜ自社の収益性レベルはこの程度なのか→③改善するために自社は何をするべきか、と3つのステップを踏んで取り組んでいくべきだとする。②を確認する際には、印刷業界内のプロフィットリーダーとされる企業群、業態や企業規模の類似した同業者からなる企業群と比較する必要があり、また、③を模索するときには、工場現場の現状にまで分析項目を掘り下げて、特定の改善内容を探らなければならないとしている。


●自社の経営効率のレベルはどの程度かを知ろう 

プロフィットリーダーおよび類似同業者と比較したとき、自社の売上総利益率、売上利益率が悪いとしたら、工場従業員一人当たり総利益額、社員一人当たりの利益額、工場従業員一人当たり売上額、社員一人当たり売上額、さらには工場従業員一人当たり付加価値額、社員一人当たり付加価値額のいずれが低いのか、その差はどのくらいなのか……。そうした差異分析を徹底的に進めていくことで、自社の経営効率のレベルがどの程度なのか、どこに問題があるのかを理解できる。なぜ、自社はプロフィットリーダーではないのか? KPMsに焦点を当てて、収益性を高めるための切り口を探ることができたとしても、それでは、次にどのような手を打ったらよいのだろうか。


●分析を掘り下げると戦略的な手立てが見えてくる

問題点をどうすれば解決できるのかを正確に判断するために必要なのが、より詳細な差異指標(VMs)である。企業規模、生産プロセス、製品分野が似通った企業(とくにプロフィットリーダー群)と比較することによって、具体的な改善課題=戦略的な手立てを発掘することが可能になる。自社の売上高付加価値率が低いうえに、外注加工費、材料費、製造原価、販売管理費、人件費の何かの比率が高いとなれば、これらの分析結果から、どんな対応策を打ったらよいのかは自ずと判ってくる。PIAのこのレポートでは、コスト低減、省資源化、値上げなどを実現するために、実際のアクションプランとして「ロスをなくし、売上げと利益を増やす行動」、例えば「ヤレ紙の低減」「管理部門/製造部門の人員削減」「印刷価格の再設定」などを推奨する。そして、これらのアックションプランが確実に実行されるなら、印刷会社の収益性は売上高比率で1~3%、あるいはそれ以上改善されるはずだと強調している。
※参考資料=PIA「FLASH REPORT」Apr./May 2016; Dr. Ronnie H. Davis, Senior Vice President


●情報の取捨選択の勇気をもって顧客に提案を

製品のマニュアル書が厚くなると、それをつくっている企業の営業マンでさえ読みたくなくなる。そんな障害を乗り越えてもらおうと、逆転の発想による解決策を提案して、マニュアル書の受注に成功した印刷会社がある。あらゆる内容を一冊に盛り込むではなく、製品もしくは担当部署に本当に必要な内容だけを切り取り、しかも複雑な加工を止めて、得意とするごく基本的な工程に絞って、シンプルに仕上げたマニュアルづくりを提案したことが奏功したのだ。対象によって収録する内容を少しずつ変えたものを何種類も請け負うことで、全体の受注金額を確保している。発注する側の企業も使いやすくなって営業成果が高まり、そこにWin-Winの関係が成り立った。紙面に載せる優先すべき情報をきっちり選べるかがポイントなるが、このような印刷物のつくり方、受発注のあり方は、教育界を始めとしてさまざまな分野で広がってきている。


●「印刷×付帯サービス」の発想が支えてくれる

限られた紙面のなかに何を入れるか。ネットに対抗してあらゆる情報を何でもかんでも入れようとするのでは、どだい無理が生じる。顧客が本当に必要としていること、困っていることは何かをよく考えれば、どのような情報が求められているかが判ってくる。それを印刷物としてかたちにできる力が印刷会社にはあるはずである。そのような得意技に、印刷会社はこれまで気づかなかったのではないか。そこに付帯サービスの本質を見出せば、市場を拡げる力にもなる。コンテンツ加工の技術、マスカスタマイズ化のノウハウ、情報編集力、提案型営業力などが欠かせないが、「印刷+サービス」ではなく「印刷×サービス」という相乗効果を狙う考え方が重要となる。そうすれば、メディア製作を基盤に付帯サービスを展開していく道が開ける。本来得意とするモノづくりの効果が発揮されるに違いない。 


●草の根の精神で地域活性化の大役を果たそう

駅前の商店街が衰退している。その理由としては、車社会になって郊外にショッピングセンターが生まれたことや、多様化した生活様式の身近にコンビニエンスストアが根付いたことなどが挙げられる。生活者のストーリーを成り立たせることができなくなったことが最大の要因とされる。それでも、人の交流が盛んになれば経済が落ち込むことはない。さまざまな付加価値でストーリーを育ててあげられるなら、ビジネスは立派に成り立つ。それこそ印刷業が得意とする仕事ではないか。これまで長年、地方の印刷会社が営んできたように、印刷業は地域活性化のために、草の根の精神で一生懸命に支援すべきなのである。街づくりにもっと参加しよう。

以上

印刷図書館倶楽部 ≪月例会≫2016年7月度

2016-07-26 10:34:32 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年7月度会合より)


●文化財をデジタル化してビジネスに結びつける

 デジタル技術によって絵画や古文書などの文化財をビジネスに結びつけようという動きが高まっているそうだ。印刷用のコンテンツを使えるうえに、ビジネスとしても印刷産業に近いこともあって、にわかに注目されている。印刷関連の各企業が「ビジネスチャンスあり」とみて、積極的に乗り出す姿勢をみせる。そうした動きを紹介する記事が、産業分野の専門紙に大々的に報じられていた。紹介された事例の一つは――中世から近世にかけてつくられた古い時代の地球儀や天球儀を、高解像度のデジタルカメラで四方八方から撮影し、拡大したり回転したりできる3次元のデジタルデータに合成して、それを高精細のディスプレイ画面に表示する。このようなシステムを博物館や美術館で使ってもらえれば、文化財で集客につなげることができるのはもちろん、文化財そのものの修復/保護に対する理解を深められる。絶版となった書物をさまざまな印刷技術を駆使して復刻してきた印刷業界。独自のノウハウをもつ強みを活かして取り組みたい分野は事欠かないに違いない。


●コンテンツを扱える印刷業界の出番がやってきた

少しばかりアタマを巡らせば、①貴重な古文書、古地図などをデジタル印刷システムで複製し、地域の図書館や資料館で誰にでも見てもらえるようにする、②世界の美術絵画をデジタルカメラで撮影し、インクジェットプリンタで出力(ついでにエンボス加工も)して美術館などに展示してもらう、あるいは、③仏像や彫刻作品を3Dプリンタで複製してレプリカを作成し、損傷や盗難を防ぐことに役立ててもらう――などなど。文化財に限らなくていいのなら、例えば新開発した製品、デザインした建築物、衣類のファッションなどの、立派なプレゼンテーション用資料が作成できる。マーケティング効果を狙う企業からの需要も多いことだろう。積極的に探れば、こうしたビジネス分野は無数にあるだろう。コンテンツを扱える印刷業界の出番が到来している。印刷産業が「大量生産/大量配布こそ」という固定観念から脱して、「新しい時代の新しいニーズに沿った新たなビジネスを見出す」一つのきっかけとなれば幸いだ。


●プリプレス工程は本当に“ボトルネック”なのか?

「プリプレス部門はまるでブラックホールだ」と、冗談めかしによくいわれることがある。その意味は――仕事がどんどん入ってくる割に決して出ていかない、吸い取るはかりだ、ということ。だから、プリプレスは印刷工程上の最大のボトルネックだとする指摘が聞かれるのだが、これは“当て擦り”に等しい。下記の論文は、プリプレス部門で仕事が行き詰まるのは工程上の欠陥があるためではなく、前工程の営業部門や顧客サービス担当からの「不正確あるいは誤った情報」にこそ根本原因がある。作業が行き詰まる重要なボトルネックは、往々にして顧客との接点となっている工程、つまり見積り、顧客サービスに起因し、その影響を直接受けるプリプレスで実際に発生しがちなのだ――と言及。そのうえで、課題として滅多に取り上げられることのない、仕上げ工程における外注とボトルネックについて考えてみる必要があると主張している。


●仕上げ工程ではボトルネックは即外注で対応

 北米の印刷会社を対象とした実態調査(2014年)によると、各種仕上げ工程のうち①無線綴じ(24.6%)②小冊子製作(22.8%)③バインダー製本(17.0%)④上製本(16.6%)⑤中綴じ(14.1%)⑥はがき挿入(11.0%)⑦メール宛名印字(9.5%)――の順でボトルネック現象が発生しているという。デジタルデータを扱うプリプレス工程と違って、いずれもオフラインでの加工プロセスなのだが、注視すべきは、見間違いでないかと驚かれるほど、ほとんど同じような順で外注に出されている点である。①無線綴じ(32.5%)②小冊子製作(30.4%)③上製本(27.9%) ④バインダー製本(21.0%)⑤はがき挿入(19.8%)⑥メール宛名印字(18.9%)…⑧中綴じ(18.3%)――の順となっているのだ。仕上げ工程におけるボトルネックは納期にも関わる重要な事柄と捉えて、即外注で対応するという動機を印刷会社に与えていることが判る。


●4分の1の印刷会社が内製化を考えているが……

 外注に出すのは負荷の分散という観点から間違いではないとしても、発注に伴う問題 (外注先の設備確保、機械取りのタイミング、内製との進捗調整など)をこなさなければならない。外注/内製を見通した全体的な収益性をも考慮する必要がある。外注依存による弊害(コスト高リスク、自社ノウハウの放棄など)もあり得る。同調査で「ボトルネックを克服し売上げを伸ばし収益性を改善するための具体的対策」を尋ねた質問に対し、25.4%の企業が「新しい仕上げ設備の購入を検討中」との回答を寄せており、悩みが深いことを伺わせる。全体の4分の1の企業が、設備負担が増すにも関わらず、内製化によってボトルネック解消の実効性を高めたいと考えている現状について、「外注による明らかな欠陥を考えさせられる、興味深いこと」とみている。
※参考資料=「Outsourcing and Bottlenecks」; Howie Fenton, Vice President, Consulting Services, IMG


●全体最適化のためには、工程間の流れをスムーズに

 自社内に、顧客の要求に応えられる生産体制やノウハウが全くないなら、必然的に外注に頼るしかないが、能力不足(まさにボトルネックと自認する所以)の場合には、明確な内外作基準を設けて対処する必要がある。一般的には、生産量、納期、技術的困難などが挙げられる。2000年代に入って登場した新しいビジネス理論(TOC)は、制約条件となっているボトルネックを解消すれば、全体的な成果が自ずと引き上げられると強調する。生産能力を高めるには、ボトルネックを徹底的に改善するのが有効とされ、外注も現実的な対応策の一つとなっている。上記の論文はこのような切り口で問題提起したものと思われるが、非常に興味深いのはわざわざ「オフライン」と付記していることで、デジタル印刷方式を頭に置いてまとめたとも読み取れる。全ての印刷品目に当てはまるわけではないが、デジタル印刷システムにはインライン加工で製本まで一貫処理できるものがある。印刷方式を問わず、また内外作に関わらず、印刷工程から後工程への流れをスムーズにして、全体最適化をはかることが何より重要だと主張しているのかも知れない。外注か内製化かと考える際に、欠いてはならない視点といってよい。


●古文書のユネスコ世界記憶遺産登録に関心を寄せよう

 京都の東寺に伝えられた中世の寺院文書「百合文書」(京都府立総合資料館所蔵)が、昨年秋にユネスコ世界記憶遺産に登録された。世界の人びとの記憶に留め置くべき重要なドキュメントとして認められたもので、フランスの人権宣言、世界最古のコーラン、ゲーテの直筆文学作品、日本の慶長遣欧使節関係資料などと並び称されることとなった。この東寺百合文書とは、8世紀から18世紀までの約1千年にわたる膨大な量(およそ2万5千通)の古文群で、加賀藩寄贈の百個の桐箱に保管されてきた。東寺が鎮護国家を目的に建立された関係から、当時の政治組織、荘園管理、寺院経営、訴訟法令、朝廷/幕府の命令、出納など、幅広い分野にわたる決まり事が記述されていて、日々の事務処理、会議運営のための資料として利用されていた。荘園制度がなくなった江戸時代には、学問奨励、歴史書・地誌の編纂のための参考資料として役立てられた。
この文書は偶然に“保存されていた”のではなく、僧侶の手で意識的に“保管してきた”のである。今では、日本の仏教史、寺院史の研究に資するために、全点をデジタルアーカイブ化してWeb上に公開、多くの人びとがアクセスできるようしている。ユネスコ記憶遺産事業が目的とする、ドキュメント遺産の保護の精神や趣旨に沿う取り組みといえる。原形保存を原則としており、当時の和紙、墨書について研究するうえでも貴重な資料となっている。紙メディアの意義と有効性を高く評価されたことに、印刷関係者はもっと関心を寄せてほしいと思う。

以上



月例会 2016年6月度(2016.6.27開催)

2016-06-29 11:05:19 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年6月度会合より)


●紙メディアの有効性はニューロマーケティングから

「ニューロマーケティング」という新しい学問領域から、紙メディアがもっている本来の特長と有効性を再評価してみようという試みがある。紙の上に印刷された「反射文字」が脳の前頭前野を活発化させることによって、記憶力の向上、知識の蓄積に有利に働くのではないか。これに対して液晶画面で「透過文字」を読む電子メディアの場合は、文字を追うというより全体を画像と捉えるので、前頭葉を刺激することに繋がらないのではないか。両者を比べれば、紙メディアの方がリテラシーを高めてくれるはず。そうであるなら、販売促進用のメディアとして印刷物(通販のダイレクトメールなど)を使った方が、マーケティング効果がより高まるのではないか。情報を確実に伝えなければならない自治体や金融機関からの通知状など、紙メディアの効能が高齢化社会のニーズから再認識されている。その一方、学校の教育現場で使われ出した電子教科書は、実証してみるとどうも適していないのではないかと疑問視する声さえ聞かれる。印刷産業から提
案すべき解決策は少なくない。


●文字情報への関心は紙メディアの利点を生かして

 年齢層の違いによって文字情報への注意・関心の反応=知覚が異なることが、ニューロマーケティング研究によって明らかになったとするニュースが流れた。それによると、縦書きの文字情報を記載したグラフィックデザインを見たとき、年配層(視力の衰えを自覚するとされる45歳以上)が「文字情報に高い関心をもつ」傾向があるのに対し、若年・中年層は「文字情報を注視せず、高い関心に結びつけない」傾向があるという。被験者の脳機能を解析すると、年配層は文字情報を読んでいるときに前頭葉の活動が活性化して、それだけ関心が向けられていることがわかる。視線は文字情報を注視していて、しっかりと読み込んでいるそうだ。若年・中年層では前頭前野の活動があまり見られず、しかも文字情報も注視することなく“読み飛ばして”いる状態だという。これらの実験結果から、少なくとも年配層に関しては、縦書きの文字情報は読みやすいと受け取られ「書かれた内容を理解しようという強い関心を引き出す」効果があるとしている。文字の読みやすさを、可読性、理解度、疲労度といった尺度で科学的に実証し、文字情報を載せるメディアの特性と関連づけながら社会に提示していく責任が印刷産業にはある。


●印刷製品には品質上のバラツキが存在する……

一定のバラツキがあることを前提に印刷物の品質管理に取り組むことの重要性を説く技術レポートが、アメリカの印刷産業団体PIAから発表された。「雪の結晶、一卵性の双生児、そして刷り本」と題するこのレポートは、印刷会社が保持すべき工程能力をどう捉えたらいいのかのヒントを与えてくれている。いかなる生産活動においても、その中心的な課題は顧客が求める必要条件を満たすことにある。この必要条件に高度に適合するためには、製品特性を決定づける仕様を基準に品質改善に努めなければならない。雪の結晶も一卵性双生児も厳密に点検、計測すれば、全く同じものはない。このような自然界の法則どおり「製品にはつねにバラツキが存在する」からには、統計的なバラツキの概念と仕様との関係を理解する必要があるという。


●バラツキの存在を認めて、許容範囲に制御する

 こうした概念は、印刷工程にも援用可能だ。印刷機から排出される何千もの刷り本は、見かけ上は全く同じに見えるが、印刷機だけでなく用紙、インキ、刷版など変動要素が多いこともあって、刷り本の品質には必ず相違がある。バラツキの度合いも同一ではない。それにもかかわらず、印刷会社はバラツキを取り除く不可能ともいえる課題に直面している。「こんな理不尽な状態を受け入れることができますか?」と、このレポートは問う。そして印刷会社がもつべき一つの答えは「バラツキの多くは取るに足らないものだ」という信念をもつことにあると、自らの意識変革を促している。「違いは無視し得るほど十分に小さい」と信じることが重要だとする。ただし、「不規則性の“真ん中”に規則性を見出す」必要がある。同じ試料、同じ計測項目でデータ数を十分に大きくとるシステマチックな観測方法と統計処理により、バラツキのパターンを把握し、それに基づいて品質管理を徹底させなければならない。工程能力を高めるには、まずは実際に発生しているバラツキの量、幅を測定することから始めるべきである。


●何を計測し何を許容するかの論理的な基準こそ

 第1段階では、計測によって実際に発生しているバラツキの性質を発見すること。重要な品質特性(ベタ濃度、ドットゲインなど)を抽出するとともに、計測法を決めて十分に多数の印刷物について計測し、発生しているバラツキの量を決定することである。第2段階としては、バラツキの許容範囲(目標値からの仕様上下限の幅)を決めること。印刷物に対する顧客の要求品質を仕様のかたちで表示して、その特性値を計測することになる。第3段階は、バラツキの出ている実際の印刷物と許容範囲内の基準サンプルと比較すること。これによって①バラツキは問題にならないほど小さく、ほとんどの製品は許容範囲に収まっているので、そのまま顧客に納品する、②バラツキが大きすぎ、かなりの不適合製品が含まれているので、刷り直しなど何らかの対応が必要――のいずれかを判断する。顧客満足に応えるには原点での品質設計が欠かせないが、印刷工程上の品質改善活動においては、何 (バラツキを引き起こす要因) を計測し何を許容するかという比較研究により「バラツキの幅を決める」ことが重要なのだと結論づけている。
 ※参考資料=Technology Report PIA; John Compton, Prof. Emeritus(Rochester Institute of Technology)


●ポールポジションを探せる高度なデザイン感覚を

デザインとは本来「設計」の意味であり、一元的に「図案」を指すものではない。ビジネスモデルのデザインといえば、顧客価値やマーケティング戦略、生産体制の仕組みづくりが先にあり、提供する製品の仕様はその後の問題となる。印刷メディアの機能提案=設計が先にあって、その後に印刷物のかたちが付いてくる。産業構造の再構築を意味する産業のリデザインが求められるなかで、各企業のポジショニングが必然的に、あるいは自動的に決まるわけではない。現代社会は、変動、不確実、複雑、曖昧という4つの要素に見舞われている激動の時代にある。企業はどこでどう対応していったらいいのか。自分の周りの細部を見る“虫の目”より、ビジネス環境全体を見渡す“鳥の目”の方がいかに重要か――自社なりのポールポジションを探して、そこで根を張ることを可能にする高度なデザイン感覚が欠かせない。


●後継者となったからには「時間」を味方にしよう

印刷業界に限らず、2世、3世の人に「オーナーとは何か」と尋ねると、さまざまな特権、資格、能力、役割を有する立場といった答えが返ってくる。企業を継承した瞬間からオーナーになったはずなのに、設備や社員、資金といった経営資源を引き継ぐだけに終わり、それ以上、前へ進めない後継者も少なくない。「自分の意思ではない」「止むを得ないこと」と思っている人さえいると聞く。ある識者は「オーナーとは時間のフリーパスをもっている人」と喝破している。そこには「好きなことに我儘に制限なく取り組める人」という意味合いが込められている。その代わり、全てにオールマイティーでなければならず、我慢強くなければならない。自分が一番やりたい得意なことを一つだけ示し、不得手なことは気に入った有力な部下に任せ切るといった度量をもっていなければならない。オーナーとなったからには、強い意識で先代からこのような「時間」だけを引き継いでほしい。経営資源をどう使いこなすかは、与えられた時間のなかで自分で考えるべき問題なのである。変動する時代にあってダイナミック(動態的)な経営をおこなっていくためにも、時間をきちんと管理できる「企業家」となってほしい。

月例会報告 2016年5月度

2016-05-31 14:50:27 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年5月度会合より)


●特殊印刷業は紙メディアの“牙城”を守れるか

パッケージ類と並んで、電子メディアとは一番縁の遠いところにある特殊印刷物は、紙メディアの“牙城”を守れる力強い印刷分野として注目されている。その担い手である特殊印刷業界が、これからどのようなポジショングをとっていくのか、誰しも関心を抱くところである。そんな折、アメリカの業界団体が格好の実態調査をおこなってくれているので、参考までに紹介すると……。それによると、もっとも一般的な取引業界は食品サービス業で、以下、企業のブランディング部門、非営利団体/協会/組織と続いている。小売店はかつての最大の得意先であったが、厳しい競争のなかで4位に後退してしまった。この食品サービスとインテリア・デザイン関連は、もっとも成長性の高い市場とされ、これに対し、製造業や行政機関からは特殊印刷の必要性が小さいとみられているのが実情だ。


●顧客市場と対象品目をどう選ぶかが重要に

印刷品目という角度からみてみると、製品展示会のディスプレイ、旗(幟)、デカルコマニア(転写印刷物)/ラベル/ステッカー、室内壁面のグラフィックス、窓のディスプレイの順でトップ5を形成している。もっとも成長著しいのは壁紙などの化粧紙印刷で、インテリア・デザインあるいは建築デザイン分野が伸びていることと軌を一にしている。一方、大きく減少したのはビルの外壁などに掲げる広告板、最少の品目は記念楯/メダル・記章/トロフィーとなっている。ちなみに、ほとんどの企業でデジタル印刷方式が採用されていて、伝統的なスクリーン印刷は半分以下にまで減少している(オフセット印刷は4分の1にもならない)。また、かなり多くの企業が付帯サービスとして、ラミネート加工、鳩目穴加工、空間デザインなどの「仕上げ加工/ポスト・プロダクション・サービス」を顧客に提供している。


●的確な顧客サービスの提供が今後を左右する

 これらの調査結果は、垂直な取引関係のなかで、特殊印刷業がどの領域を対象にビジネスをしていったらいいのかの示唆を与えてくれている。特殊印刷業界全体の売上高は年々、好調に推移し、前向きの生産、営業、雇用によって顧客からの信頼性も増しているが、それでも、上記の市場分野、手掛ける製品の選択如何で、個々の企業の明暗が分かれるようだ。この報告書は「年間売上げで最低クラスの企業が、翌年には最上位となることがしばしばある」としている。特殊印刷業界においても「デジタル・アナログのハイブリッド技術の確立とサービスの提供」が不可欠なことに繋がる。価格引き下げの圧力があるなかで競争優位性を確保するためには、顧客サービスの改善、営業スタッフの強化、生産ラインの増強などを通して、適切なマーケティング戦略を展開すること、ワンストップショップになることが、何より重要だと結論づけている。
※参考資料=SGIA Report; Specialty Graphic Imaging & Association; Dan Marx (Vice President)


●「マーケティング・オートメーション」の効用は?

最近、ビジネスの新しい世界を拓く強力な“エンジン”になり得ると、にわかに脚光を浴びているのが「マーケティング・オートメーション」という概念である。例によりアメリカの印刷業界団体PIAから、顧客を惹きつけるためのツールとして、この「マーケティング・オートメーション」の効用を説く論文が発表されているので、意味するところを紹介しておきたい。多くの異なるメディアから情報を受け取るマルチ・チャンネルの時代が到来し、メッセージを届ける方法や伝達効率に優れた効果をもたらしている。可変データに基づくパーソナライズ化が可能になるなど、顧客との交渉、製品・サービスの販売で究極的な相互作用を発揮できる。顧客管理用のデータベースはソリューションの中核とみなされ、そこから出力された個別の情報はマーケティング・キャンペーンの基盤として使われる。新たに得た顧客情報はCRM(顧客維持管理)のためにデータベースに追加され、次のキャンペーンに活かされる。そうはいいながらも、「マーケティング・オートメーションは、こんな方法で(止まっていて)よいのだろうか? マーケティング・キャンペーン(そのもの)を立ち上げ、そのライフサイクル全体を管理することを支援すべきではないか」というのが、この論文の言い分なのである。


●印刷メディアとシームレスにつなぐ統合化技術で

 「マーケティング・オートメーション」を通して顧客にソリューションを提供するとき、印刷メディアがその中核技術として使われることはあまり想定されていない。しかし印刷会社には、印刷メディアを製作するためのワークフローと顧客のパーソナルデータとがお互いに補足し合えるよう、両者をシームレスに結びつけることのできる技術がある。その技術的なハードルこそ、他産業からの参入障壁となる。印刷会社が「マーケティング・オートメーション・ソリューション」用に完全に統合化された印刷システムをもつことの重要性がわかる。そうすることで、印刷会社と顧客との間の“クローズド・ループ”のコラボレーションが確立でき、デジタル印刷による効果的なワントゥワン・マーケティングが可能になる。キャンペーン効果を最大限にするためのプログラムの作成コストも、ワークフロー工程間の処理時間の標準化で削減できる。雑多な多くの繰り返し作業が自動化され、スピードアップを実現してくれるのだ。


●顧客ニーズに対応できる中核機能となるだろう

「マーケティング・オートメーション・システム」は印刷産業にビジネスの合理化の機会を与えることだろう。印刷会社が手掛けるべきキャンペーンを自動化することで、増収をもたらすだろう。マーケティングの創造力、キャンペーンの効率的な設計、購買行動への呼び掛けは、マーケティング・オートメーションがもつ可能性への理解を深め、顧客にソリューションを提供するうえで不可欠な要素となる。「このシステムは情報伝達の手段を変え、顧客ニーズに的確に対応する(印刷会社がもつべき)ワークフローの中核機能となるだろう」と、論文は結論づける。
※参考資料=The Magazine Feb. 2015, PIA; Dr. Mark Bohan (Vie President)


●印刷関係から「QRコード」の活用を考えてみたら

顧客情報のデータベース化、メディア(印刷物やEメール)の作成、顧客への販売促進をクローズ・ループで結ぶ、マーケティング・オートメーションのワークフローを構築する場合、PURL(個人用アクセス手段)が浸透し始めたアメリカでは、顧客に買い物など生活上の出来事、ニーズやウオンツを自らネット上に書き込んでもらえるよう、個人々々の書き込みページを用意(自動的に設定)して、それをワークフローの起点とすることが可能だ。日本では、このPURLが普及していないため、顧客情報が把握しにくい。そこで印刷関係からワークフローを動かす何かがないかを考えたとき、思い浮かぶのが印刷物にQRコードを掲載することである。取り扱うのがビッグデータでない以上、QRコードを活用することから始めると効果的だろう。クローズド・ループを比較的容易に回すことができる。


●印刷産業が音頭を取るためにも積極的な対応を

 日本では「マーケティング・オートメーション」という“単語”だけが一人歩きしていて、ビジネスとして使いこなせる考え方、具体的な方法を示す“用語”にはまだ育っていないようだ。QRコードは、情報を集め紙メディアと電子メディアをつなぐツールとなる。積極的に提案することで、ネットの世界で印刷産業がリーダーシップを発揮していける強みにできる。音頭を取れる仕掛けとなり得る。溢れかえっている電子情報も、さすがに“天井”にきたという見方さえある。印刷メディアの効用を主張して再び打って出るためにも、QRコードを切り口に「マーケティング・オートメーション」の意義を正確に捉えていきたい。

以上