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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会報告 2016年1月度

2016-01-27 10:29:01 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年1月度会合より)



●文化財の保護はデジタル印刷システムで

 デジタル写真技術とデジタル印刷システムを活用した文化財保護活動が盛んになり、幾つかのプロジェクトが全国各地で展開されている。デジタルカメラで絵柄を忠実に撮影し、デジタル印刷で微妙な色彩を表現する――そうした技術的な強みを駆使することで、古い文化財を現代に甦らせようというのだ。デジタル印刷の多くはインクジェット方式を用いるが、そうしたなかでトナー方式によって伝統的な文書を複製・復元する試みが、システム機器を開発・販売する専門メーカーの手でおこなわれている。文字を中心とする古文書の場合、トナーの方がシャープに再現できるという利点があるという。そのプロジェクトの目的は、古い文献を誰もが簡単に手にとって見られるようにすることにある。文化の伝承に貢献するのはもちろん、開示されていない貴重な古文書を公開可能にする社会的な意義もある。専門メーカーが一定の予算を確保して無料で実施することは、企業による文化保護活動の一つのあり方として注目されている。


●作成当時の状況や時代背景を考慮しながら

 このメーカーによると、①現在の姿をそのまま忠実に再現する現状再製、②作品がつくられた当時の状態を推測しながら再現する復元再製――の二通りがある。とくに後者の場合、歴史的背景や関連書物から得られる情報などを根拠に、依頼者(所有者)との協働で画法、顔料、素材、装丁方法などを選んでいくところに特徴がある。長い歴史のなかで失ってしまった文字、図柄、製本などを納得いくかたちで復元しよういうのである。原本を傷めることなく電子化するためにデジタルカメラを使用するが、雲母(きらら)刷りや金箔、金絵具による描画など、鮮やかな光沢感、繊細で優美な質感を忠実に表現すべく、ライティングには細心の注意を払う。また、素材である和紙の最適な選択にも気を遣い、巻物の巻き皺まで忠実に復元するそうだ。撮影して得られた電子データは、できるだけ原本に近づけるよう画像処理し、カラーマッチング技術、多彩なトナーの使用で忠実な色再現を期しているのはいうまでもない。


●学術研究、教育、産業育成にも効果あり……

 博物館や資料館、図書館などに所蔵されている古文書を、実際に手に取ることはなかなかできない。電子化による複製は、そうした貴重な本を身近に目にすることのできる機会を与えてくれる。伝統文化に対する人びとの関心を高めるだけでなく、所有者からの積極的な情報発信、有識者への研究資料の提供、若い世代向けの教育効果といったさまざまなメリットがある。文化伝承の“バリアフリー化”ともいえる優れた保護活動となっている。電子化できない部分は手描きによる表現でカバーするようにすれば、自然に伝統技術の継承にもつながる。逆にデジタル機能を高めて古い文書の現代文化、多言語化をはかれば、時代を超え国境を越えて一気に広がる。和紙や絹織物を使った巻物類をつくれば、抄紙産業、織物産業の発展にも寄与することができる。地震、火山噴火、大火といった災害の研究に際しても、古文書の有効利用で過去の情報がより簡単に得られることだろう。文化を継承、伝承していくことで、新しいビジネスチャンスが生まれてくるに違いない。


●印刷産業の業態変革は理解されているか?

大手印刷会社が事業構造の転換を急いでいると、産業分野の専門紙に報じられた。転換先とされたのは、デジタルメディアへの展開や事務処理業務の受託などだが、よく考えてみれば、大手に限らず印刷会社が業態変革、事業領域の変更を模索しているのは今に始まったことではない。大手印刷会社がどう生きていこうとしているのか興味をもたれ、それを産業界に伝えようとしたのだろうが、情報としては決して目新しいものとはいえない。それより気になったのは、印刷産業のビジネス基盤はこうだという固定観念(先入観) ?をもって記事が書かれたことではないだろうか。印刷産業からのPRが足りない部分も確かにあるが、新聞記者の“勉強不足”もあるのでは? 事務処理業務の受託はすでに当たり前の話になっている。「処理」に力点を置いていくと、印刷産業が課題としている受注産業からの脱却は叶わない。ここはやはり「プロセス」を提供するなかで、付加価値を取得する方向をめざす必要がある。企業の中核事業となるコアコンピタンスに集中して、それ以外はアウトソーシングしていくという考え方は、どの産業においても共通している。だが、そうすることによって新しいビジネス価値を創出できなくては意味がない。付加価値獲得競争が激しくなるなかで、印刷産業としても、印刷出力を“代行”するだけは通用しない。顧客のビジネスを支援できるコミュニケーションメディアを提供しなければならない。そんなことを感じた新聞記事だった。


●印刷会社は「コミュニケーション」に強くなろう

このところ急速に発展しているIT産業は、どのような事業ビジョンと経営方針をもってビジネスをおこなっているのか――印刷会社はもっともっと関心を寄せなければいけない。そういう印刷会社自身が独自の特長とは何かを強く意識して、事業に取り組む必要がある。本来の強み=文字に関する強みを活かして、ICT(情報コミュニケーション技術)企業をめざすべきだろう。印刷会社はITを外側から遠目で語る前に、中に飛び込んで強みを発揮できる分野を模索し、そこで新たな業態を構築しなければならない。ごく身近な例として、出版社から依頼されて書物の製作を引き受けるという関係から脱して、自ら出版企画を立て逆に出版業界に売るようにしたい。大地に足を着けて長年実績を重ねきた「出版印刷」というビジネス基盤があるはず。情報を扱える(処理/加工できる)という強みをもっているはず。それを武器に、出版社がやっている仕事を印刷会社が率先して手掛けるべきなのである。「コミュニケーション」をかたちにできる余地は、この出版印刷の例に限らずたくさんあるに違いない。


●文化性、人間性の観点を組み込んだ技術発展を

デジタル化が進展するなかで、そこには、ITの実情をみるまでもなく「文化性」が見受けられない。抜け落ちているような気がする。クラウドコンピューティングやビッグデータ分析の効用を否定するわけではないが、ハードの進歩に私たちは引きずられ過ぎているのではないか。ビジネスや生活の向上に役立つさまざまなソフトが開発されてはいるが、それでも個々の人間サイドからの視点が欠けている。コミュニケーション分析との付き合わせもみられない。科学技術と感性とは、相互に行き来しながら進歩していくものだと思いたい。データの変更を求められる一品生産型のプリメディア/プリプレス工程と、その後の複製生産型の印刷工程の関係を考えると、印刷メディアの製作には「設計」が重要であることがわかる。データの意味解釈、適切な処理と選択を可能にしてくれる人工頭脳(AI)を使って、両者をどう一貫化するのかという問題がいずれ出てくるだろう。そのとき、人間のもつ技能と感性をいかに組み込んでいくのかも課題となるだろう。文化性、人間性の観点はどうしても欠かせないのである。


●今まで縛られてきた“柵”から抜け出してほしい

《12月度記事参照》 今では、ITの活用で読者ニーズに即した情報を素早く提供できるビジネス環境が確立されているのに、出版社も印刷会社も、大量につくらないと儲からないという思いに未だ翻弄されている。読者が無意識に抱いている潜在ニーズをいかに顕在化するか――ニーズを気づかせる仕掛けによって購読を勝ち取るというマーケティング力に欠けている。読者に一番近い立場の書店もエリアマーケティング的な努力をしていない。そうした“柵”から抜け出し、じっくり考えることができるなら、新しい需要、新たな市場を見つけられるはずである。印刷メディアがもつ本来の利用価値を核とするマーケティングが可能になるだろう。

市場から消えた新規格のフィルム(3) カメラの薄型化・新規格に挑戦したディスクフィルム

2016-01-08 14:30:36 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
市場から消えた新規格のフィルム(3)
カメラの薄型化・新規格に挑戦したディスクフィルム


印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-16
印刷コンサルタント 尾崎 章



Kodak disc Filmのカートリッジとパッケージ



1982年2月にイーストマン・コダックは、110フィルム(ポケット・インスタマチック)の次世代フィルムとして画面サイズ8.2mm×10.6mm・15枚撮りのKodak disc Filmを発売した。
Kodak disc Filmは、これまでのロールフィルムをベースとした製品展開とは全く異なり、直径64mmの円盤状フィルムを回転させて8.2×10.6mmサイズの画面を15枚撮影出来る方式であった。
コダックは、ディスクフィルム用カメラとしてKodak disc 4000,6000,8000の3機種を発売、フィルム形状よりカメラの薄型が可能となり「ハンドバックに入るカメラ」として女性層向けの需要創生を行っている。



直径64mmの円盤状フィルム   



Kodak disc 6000カメラ 


厚さ20~25mm のディスクカメラ

ディスクカメラは、画面サイズが小さい事より焦点距離12~13mm程度の短焦点レンズが標準レンズとして採用されている。この為、短焦点レンズの特徴である焦点深度を利用して焦点調節不要の固定焦点化が図れ、また露出コントロールも簡略化され126インスタマチックカメラ、110ポケットインスタマチックカメラと同様にビギナーを対象としたビジネス展開が実施された。
女性需要喚起をターゲットとしたミノルタカメラ(当時)は、1983年に人気デザイナー:アントレ・クレージュのデザインによるディスクカメラ・ミノルタ クレージュac101を発売、ピンク、ベージュ、ブルーのカラーバリエーションを設定して注目を集めた。



ミノルタ クレージュ ac101カメラ  



ディスクカメラの国内対応

国内のフィルム及びカメラ各社は、135mmフィルムカメラはもとより110ポケットインスタマチックフィルムよりも画質が劣るディスクフィルム、ディスクカメラビジネスに懐疑的であった。特に国内カメラ各社が得意としたハーフサイズカメラのカラープリント画質が135mmフィルム(35mmフルサイズ)カメラに劣るとして需要が下降傾向にあった事もありディスクカメラ市場参入には極めて慎重な対応を採った。
しかしながら、欧米市場でコダックの当該製品の販売が拡大していた事より、富士写真フィルム(当時)及び小西六写真工業(当時)が欧米市場をターゲットとしたビジネスが可能と判断、1983年中旬より自社ブランド製品による海外展開を開始している。
富士写真フィルムは、1983年7月に輸出専用として2機種のディスクカメラ(フジDISC50,DISC70)を発売、其々にブラックとシルバーの外装バリエーションを設けている。
カメラ仕様は、12.5mm f2.8 4群4枚の固定焦点レンズを搭載、3コマの連写機能を付加している。



富士写真フィルム DISC 50 カメラ 


小西六写真工業も1983年8月に輸出専用機としてKONICA DISC10,DISC15の2機種を発売、ディスクカメラに積極的であったミノルタカメラは、富士写真フィルム及び小西六写真工業よりも一足早い1983年4月にminolta DISC5,DISC7を国内外で販売開始、1983年7月には前述・アントレ・クレージュによるデザインカメラ・ミノルタクレージュac101の国内外販売を開始している。


DISCフィルムの展開

コダックは1982年2月のディスクカメラ発売に併せて高解像度のネガカラーフィルム・Koda Color VRフィルムを発売している。
コダックでは、8.2×10.6mmサイズの画面からユーザーが満足する品質のカラープリントを造る為に新カップラー技術によるKodak VRフィルムの製品化を実施した。VRは「VeryRealistic」の頭文字で当時のネガカラーフィルムの最先端・高解像度技術であった。
富士写真フィルム、小西六写真工業も同様に発色剤・カラードカップラーに改良を加えて解像度を高めたフィルムを発売してコダックに追随した。



フジカラー HR film CD DISC-15 フィルム 


富士フィルム製品は、Fuji Color HR DISC Film(HR: High Resolution )、小西六写真工業はSAKURA Color SR DISC Film (SR: Super Reality)を新たにラインナップしている。
しかしながら、フィルム自動装填、オートフォーカス、コンパクト化等々を実現した35mmコンパクトカメラの画面サイズ差から生じる品質差が国内はもとより、品質許容度の大きい海外でも容認限界を超える状況となり数年で消滅する「超短命」フィルムとなった。



ラボの新規設備投資も普及の足かせ


ディスクティルムは、従来のロールフィルムとは全く形状が異なる為にプロセッサー等の現像処理設備及びプリント機器も新たな設備が必要となり、コダックの対応はもとより富士写真フィルムも1983年4月より海外代理店ラボ向けに専用プロセッサーの供給を開始してディスクフィルム販売サポートを行っている。
余談ではあるが、1982年にロンドン近郊のコダック・ハロー工場に出張した際、工場食堂で昼食時に隣り合わせたコダックラボ経営者が「ディスクフィルムは画面サイズが小さく画質面で売れるとは思わない」「仕方なく設備投資するが無駄な投資になる」と首をすくめて同意を求めてきたシーンを忘れる事が出来ない。
コダックは、ワールドワイドで約1000万台のディスク カメラを販売したと報じたものの、2~3年で市場から姿を消し前述のコダックラボ経営者のコメント通りの短命製品となった。
コダックによるディスクフィルムの販売は、富士写真フィルム及び小西六写真工業の撤退後も暫く継続されたがカメラ各社からのディスクカメラの発売も無く、1998年12月にコダックはディスクフィルムの生産を中止している。
126インスタントフィルム、110ポケットフィルムと新規格フィルムビジネスを相次いで成功させたイーストマン・コダック、同一市場で「3匹目のドジョウ」を狙う市場ニーズと乖離した展開は根本的に無理であったとの指摘が多い。



カメラ、フィルム5社共同による新規格フィルム・APSはデジタルカメラに敗退

ディスクフィルムの生産を中止した1998年12月の一年前にコダックは、富士フィルム、キャノン、ニコン、ミノルタカメラ(当時)との5社共同による新規格フィルム・APS(Advanced Photo System)を発表、販売を開始している。


ADVANTIX APSフィルムと ADVANTIX1600カメラ


写真フィルムシェア世界1位と2位、そしてカメラ世界大手3社との共同開発により「新しい世界標準」を目指したAPSシステムは、フィルムにデータ記録が可能な磁性コーティングを行い、フォトプレーヤーとの組合せによるTV画面表示等々の新規格を目指した「満を持した」新規格であった。
しかしながら、密閉カートリッジの保管問題、プリント料金の価格問題に加えてコンパクトデジタルカメラ急速台頭の挟撃により市場創生に失敗、2002年時点で殆どのカメラメーカーが市場撤退する状況に至った事は記憶に新しい。
APSフィルム自体も2011年7月に富士フィルムが販売終了、コダックも同年12月末で生産中止に至っている。

      
  
 

月例会報告 2015年12月度

2015-12-21 16:09:25 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年12月度会合より)



●出版社はマーケティング力が不足している

 有力な出版社や著者が「新刊本については少なくとも1年間は貸出しを猶予してほしい」と、公立図書館に要請した動きが物議を醸している。せっかく出版した本が売れなくなり、増刷もできないというのがその理由だが、公共サービスを本位とする図書館側は、商業出版との狭間でどう対処したらいいのか当惑しているようだ。そんな図書館側の事情はさておき、そもそも出版社が顧客側の動きを制約しようというのは、少しムリがあるのではないか。出版社は概して、確実に売れそうな本しかつくらない。読者が無意識に抱いている潜在ニーズをいかに顕在化するか――ニーズを気づかせる仕掛けによって購読を勝ち取るというマーケティング力が不足している。読者に一番近い書店もエリアマーケティング的な努力をしていないのが実情だ。問題の根底には、そんな実態が見え隠れする。


●ITを活用して読者ニーズに沿った出版企画を

 メディアが多様化してさまざまなチャンネルが構築されている現在、どんな内容でも出版物にさえすれば読んでくれるというのは、すでに昔の話になった。今は、ITの活用で読者ニーズに即した情報を素早く提供できるようになっている。しかし、そのITを駆使した出版のビジネスモデルがまだまだ確立されていない気がする。本は高価だ、本棚を置く場所がないというアナログならではの悩みが付きまとうなかで、ITによって知的レベルを高めた誰もが、必要とする書物を即座に読めるようにする効果は計り知れない。例えば、生活シーンを演出する場面に役立つ本を添えて欲しいと願う読者は多い。オーダーメイドの本をつくれる仕掛けを幾通りもつくり、読者に投げ掛けることこそ、出版社がおこなうべきこれからのビジネスモデルではないか?  返本を少なくできれば、それだけで出版社が生き残れる余地が生まれる。


●印刷会社もデータ主体のマーケティングを

翻って、印刷会社の営業活動も受注価格中心の“切った張った”のレベルに止まっている。パソコンが一般化しインターネットも普及し過ぎた。そうしたなかで、紙メディアの特質をビジネスの強みとしてどう活かすかという発想が足りない。電子黒板やタブレット端末を用いた学校教育が浸透してきた。また、デジタルプリンタを端末として活用した教育(通教、社会人講座、学習塾など)も盛んになった。誰でも簡単に勉強できる時代になったのである。印刷会社は乗り遅れてはいけない。今こそアタマを入れ代えて、デジタルマーケティングに取り組まなければならない。道具(印刷機)に頼った経験則によるマーティングから、データを駆使するマーケティングへと変換する必要がある。大量生産志向から抜け出し、データによって顧客のニーズを掴み、それに見合う最適なメディアをその時その場で提供すること。それには、顧客と対等のパートナーシップを築いて自らビジネス提案することが重要になる。


●好調なアメリカ印刷産業で二極分化の動きが

 このところアメリカの印刷産業が好調のようだ。出荷額が16か月連続して前年比を上回り、インフレ調整後の実質値でもGDPの伸び率以上と、弾性値「1」を超える勢いをみせている。20年間も待ち続けた最良の成長である。このような企業環境を受けてか、5年以上も前から提唱されてきた「マーケティングサービスプロバイダー」(MSP)への業態変革の動きが鈍化し、本来の「プリントサービスプロバイダー」(PSP)に原点回帰する傾向が強まっているという。この1年の間でもMSPへの変革の意気込みが低下しているのだ。しかも、全体の3分の1に当たる印刷会社がMSPへ転換する意欲すら放棄している。転換自体をあきらめた会社が増えたということらしい。その一方では、変革を終えたとする会社も着実に増えており、両者の隔たりが大きくなっている。PSPを志向せざるを得ない理由としては、売上高を確保したいという緊急課題がトップに立ち、そのうえで①適切な能力がない、②明確なビジョンと戦略がない、③技術的な課題がある――が続く。さらに開発時間、資金的制約、資質不足が挙げられていて、基本的な企業力がないことも大きな理由のようだ。


●本業回帰で付加価値を確保し続けられるか?

 こうした課題を本業への注力でカバーしているといえば簡単だが、そう単純ではない。今後どんな市場分野の成長が予測されるかと聞くと、1位はデジタル印刷、2位はラージプリントとなっている。従来型のオフセット印刷は3位に止まっていることに留意する必要がある。さらに続くメーリングサービス、フルフィルメントサービスも含めて、新たに付加価値を獲得しようという分野は、いずれもバリアブルデータを扱うものばかりである。そうなると、革新的なビジネス戦略、運営方法の構築、営業パーソンや制作スタッフのスキル向上が必要になる。MSPへの転換のハードルが高くなると同時に、PSPの領域そのものも限定されることになる。景気が回復すると従来型市場が活況を呈するので、MSPへの転換を躊躇する印刷会社が“つい”本業に頼りがちなのは理解できるが、より高度な付加価値サービスを長期にわたって提供していくべきだという提言のなかで、どのように対応していこうとしているのだろうか?

※参考資料=「Info Trends」Associate Director Howie Fenton;What They Think


●ITを使いこなせない印刷業は“不思議な商売”

「印刷業は不思議な商売だ」といわれたことがある。IT(情報技術)からICT(情報コミュニケーション技術)、さらにはIoT(Internet or Think)とビジネスの基調が次々と変わっていて、10年後には現存する仕事の3分の1はなくなるだろうとみられている。確実に生き残るのは、人と人とを繋げるコミュニケーションだとさえいわれる。そうしたなかで印刷産業はどうしていくべきか。印刷の機能を①生産設備を柱とするバックヤード、②ITやマーケティングを駆使するフロントヤード――の二つに分けて考えた場合、発展したあげく限界にまで到達した前者に対し、後者は全くといっていいほど手をつけられていない。それなのに、前者ばかりに資本を注ぎ込んで、後者については殆んど考えていない実態を「不思議だ」と受け取られたのだ。前者に力を注いできた従来型の印刷業はすでに成熟段階に入り、価格、品質、納期を自由に決められなくなっている。だからといって前者の業態をそのままに、川上工程の後者に比重を移したとしても無理が生じるだろう。根本的に異なる機能をもった両者を一緒に考える必要はない。


●「コミュニケーション」を印刷業の主機能に

フロントヤードの仕事は、理論的に設計変更が可能という特質をもっている。印刷業の場合は、プリプレス/プリメディアの工程で自分の意思でコンテンツを処理できる仕組みを築いて、価格、品質、納期を主体的に決められる体制をとることが重要なのである。ITを駆使すれば、受注から印刷にかけるまでの時間を自由自在に操作できる。たんに短縮できるだけでなく、印刷機の稼働率もコントロールしやすくなる。本当の意味の経営効率はこうして確保される。印刷製品を納めるだけでは判らなかった効用も、ICTの導入により測定可能となる。印刷メディアならではの特性を活かすために、フロントヤードをどう組み立てるか、そのうえでマーケティング視点でバックヤードとどう連携させるか、が重要になるだろう。これからは「コミュニケーション」を印刷業の主機能とすべきである。印刷業の将来はフロントヤードで打開できるのだ。そのための人材、とくに生まれながらにデジタルに親しんでいる“ネイティブ・デジタル”の発掘と確保に全力を注ぐ必要がある。社内で育成できなければ、外部からのヘッドハンティングで抱え込むことも厭うてはならない。彼らは取り扱うデジタルデータをきちんと管理し、顧客ニーズに沿ったメディアとして効果的にかたちづくってくれるだろう。



市場から消えた新規格のフィルム(2)ラピッドシステムフィルム

2015-12-11 15:39:20 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
市場から消えた新規格のフィルム(2)ラピッドシステムフィルム 
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-15
印刷コンサルタント 尾崎 章


1963年3月にイーストマン・コダックが製品発表、同年5月より販売を開始した「コダパック・カートリッジ」とネーミングしたフィルムカートリッジを使用する新フィルムシステム「インスタマチック」は、フィルムをカートリッジ化する事によって「フィルム装填・巻き戻し」の煩わしさを解決した画期的システムとしてカメラ・フィルム業界はもとより需要家層からも大いに注目を集めた。


アグファ ラピッドフィルム  

このコダック「インスタマチック」に対抗して当時の西独・アグファは翌年1964年5月にフィルム簡易装填方式「ラピッドシステム」を発表、業界一位のコダックと二位・アグファがフィルム簡易装填市場で対峙する事になった。
 
*西独・アグファは、1964年7月にベルギーのゲバルト社との合併を実施、社名をアグファ・ゲバルトとしている。




ダブルマガジンのラピッドシステム
 

アグファは、1937年に同社初の35mmフィルムカメラ「カラート」を発売、この機種にフィルム供給・フィルム巻取り用にカラートマガジンと名付けた共用マガジンを使用するダブルマガジン方式を採用している。


ダブルマガジン方式のラピッドフィルム 

「ラピッドシステム」は、このカラートマガジンをベースにフィルム感度設定機能等々の付加機能を追加したものでカラートマガジン仕様の旧型カメラへの適合性も有していた。


ラピッドマガジンと感度端子の無いカラートマガジン(左端)

フィルム巻取り軸の無い「ラピッドシステム」のマガジンには長さ24インチ(約62cm)の35mm(J135)フィルムが収納され、撮影済みフィルムは巻取り側にセットされた同型のマガジンに収納される方式で空になったラピッドマガジンはフィルム収納用として再利用する簡易装填方式である。
撮影枚数は、画面サイズ24×24mmで16枚撮り、24×36mmで12枚撮り、24×18mmのハーフサイズで24枚撮りが可能であった。
フィルム価格は、アグファカラーCT18(カラーリバーサル 1966年 国内価格)が750円でネガカラーフィルム、モノクロフィルムがラインナップされた。
アグファが「ラピッドシステム」用としてフィルムと同時に発売した専用カメラは、コダック「インスタマチック」用カメラと同様に写真ビギナー層を対象とした簡易カメラで、例えば、「アグファ ISO RAPID IF」カメラは、40mm f8の単玉(1枚)レンズ、固定焦点、シャッタースピード1/40秒(単速)、お天気マークと併せてf8とf11を選択する仕様で有った。


アグファ ISO-RAPIDカメラ  

同様に富士写真フィルム(当時)が1965年6月に「ラピッドシステム」用として発売した「フジカ PAPID-S」も40mm f11の単玉レンズ、固定焦点、シャッタースピード1/30 1/125秒の2速を御天気マークで切り替える発売当時価格4500円の簡易型カメラである。

このアグファ「ラピッドシステム」に対しては、ツアイス・イコン、ローライ、ライカ、フォクトレンダー、ブラウン、イルフォード、フェラニア等々、ヨーロッパのフィルム及びカメラ15社がラピッドシステム採用の意思表明を行っている。しかしながら、多くがコダックとアグファの両陣営に参加する二股対応を採っており、ラピッドシステム発売開始直後の1964年7月時点でラピッド陣営に参加した3社より6機種のカメラが発売されるにとどまった。



ラピッドシステムの国内対応

国内のフィルム及びカメラ各社はコダック「インスタマチック」に加えて写真需要拡大にアグファ「ラピッドシステム」が寄与すると判断、日本ラピッド会が結成され14社がこれに参加している。

*日本ラピッド会参加企業名(当時)
旭光学、オリンパス光学、キャノン、小西六写真、コーワ、三協精機、東京光学、日本光学、富士写真フィルム、ペトリカメラ、マミヤ、ミノルタカメラ、リコー、ヤシカ

富士写真フィルムは、1965年6月にネオパンSS,ネオパンSSSのモノクロネガフィルム、フジカラーN100(20EX 320円),フジカラーR100(20EX 650円)のネガカラー及びカラーリバーサルフィルムのラピッド判を発売、同時に前述の「フジカRAPID-S」とセレン露出計内臓「フジカRAPID-S2」の2機種を発売して体制を整えている。


フジカラピッド S2 

「フジカ RAPID-S2」はフジナー28mmf2.8レンズ(3群3枚)シャッター速度1/30~1/250秒、セレン光電池によるプログラムEE機構、ソーンフォーカス焦点調節 等々当時の35mm普及型カメラと同等の性能を有していた。

この「フジカ RAPID-S2」はカメラ基本性能以外に元・東京芸術大学教授:田中芳郎氏によるカメラデザインが注目を集めた。本機は田中氏が得意とした人間工学に基づいたシンプルデザインの名機で、当時の富士写真フィルム製カメラは田中デザインを多くの製品に採用していた。代表例としては女性向けハーフサイズカメラの傑作「フジカミニ」、小中学生向けの初心者カメラ「フジペット」「フジペット35」、高級レンジファインダー機「フジカ35」等々を挙げる事が出来る。


ブジペット


田中デザイン・フジカカメラ


「フジカ RAPID-S2」(発売当時価格13,000円)はカメラを保持しやすい横長デザインが人気を集め「ハーモニカ・カメラ」の愛称が付けられた程であった。

小西六写真(当時)は、1965年6月にラピッドフィルム・コニパンSSラピッドフィルムとラピッドフィルムカメラ「コニカラピッドM」の発売を行っている。「コニカラピッドM」は、32mmf1.8の高級仕様レンズ、スプリングモーターによる自動巻き上げ等を採用していたがフィルムと共に殆ど市場で見かけない程度の展開にとどまっている。



インスタマチック 対ラピッドシステム

日本ラピッド会加盟した14社は、コダック「インスタマチック」優先か、アグファ「ラピッドシステム」優先かで対応が分かれた、また、日本ラピッド会に加盟した14社の中で日本光学、旭光学等、5社が具体的な対応を見送っている事からも「コダック対アグファ」の見極めが当時としては難しかった事が推定される。
「リコーオートハーフ」でハーフサイズカメラ市場を得意市場化していたリコーは、35mmフィルムを使用するラピッドシステム優先を決めて1965年6月に「リコーEEラピッドハーフ」(発売当時価格14.000円)を発売してハーフサイズカメラ市場強化を試みている。
同様にキャノンも人気商品のハーフサイズカメラ「デミ」のラピッドシステム版として1965年6月に「デミラピッド」(発売当時価格16000円)を発売している。30mmf1.7の高級仕様レンズを搭載したハイスペック機として普及機主体の他社製品との差別化を図っている。
続いてキャノンは同年10月に「デミ」と並ぶスプリングモーターによる自動巻き上げ機能を搭載した人気カメラ「ダイヤル35」のラピッド版として「ダイアルラピッド」(16.000円)の発売を行っている。
しかしながら、キャノンはコダック「インスタマチック」の優勢が明確化した事より「ダイアルラピット」以降のラピッドカメラ展開を中止している。


マミヤ・マイラピッド

中判サイズカメラを得意とするマミヤも「マミヤ・マイラピッド」(16.400円)を1965年5月に発売、武骨なデザイン・中判サイズカメラの同社が発売した洗練されたデザインと5群5枚構成・32mmf1.7レンズ搭載のハイスペック仕様が注目を集めたが、コニカ同様に「最初で最後」のラピッドカメラ製品になっている。


ヤシカハーフ17EE RAPID

大衆機を得意としたヤシカは、1965年6月に「ヤシカハーフ17EE RAPID」(16.500円)
を発売、キャノン、マミヤ等と同様に大口径f1.7レンズを搭載した本機はヤシカフェイスのクロムメッキが綺麗な高級感を持ったラピッドカメラであった。しかしながら、販売は前述リコー、マミヤ等と同様に低迷、1機種のみの市場参入に止まっている。
富士写真フィルムは、1965年12月にキャノン「ダイアルラピッド」を追随する形でスプリングモーターによる自動巻き上げ機能を搭載した「フジカRAPID-D1」(16.000円)の追加発売を実施したが、世界的規模でコダック「インスタマチック」優勢が明確化された事より富士写真フィルムも当該市場からの撤退へと方針変更を余儀なくされている。


フジカラピッド D1

結局、日本ラピッド会加盟14社の中でラピッドカメラを発売した加盟社は、オリンパス、キャノン、小西六写真、富士写真フィルム、マミヤ光機、ミノルタカメラ、ペトリカメラ、
ヤシカカメラ、リコーの9社にとどまった。



ラピッドシステムの終焉

1964年5月に「コダックインスタマチック」を追撃する形で製品化されたアグファ「ラピッドシステム」は、①35mmフィルムを使用 ②カメラメーカー側で画面サイズを選択可能 ③リーダーペーパー無のフィルム平滑性 ④フィルム位置をカメラ側で決められるフォーカス対応性 ⑤インスタマチック方式よりカメラの小型化が可能となる等の特徴を有していた。
しかしながら、ラピッドシステムに対する国内外市場の反応は鈍く販売は低迷、「巨人・コダックの敵にはなれず」という状況に至っている。
コダックは「インスタマチックカメラ」発売1年半後、すなわち「ラピッドシステム」発売年である1964年末までに600万台の販売成果を挙げアグファ「ラピッドシステム」を圧倒した。当時、国内カメラ各社の年間生産総数が320万台弱で有った事から見ても、コダック「インスタマチックカメラ」の快進撃ぶりを判断する事が出来る。
国内では発売初年及び次年度である1964~1965年にかけてカメラ各社が「ラピッドシステム」対応製品展開を実施したもののミノルタカメラ等5社が1機種の市場投入にとどまり、2機種を製品化したキャノン、富士写真フィルム、オリンパス等が1966年より新製品投入を見送り国内市場は約2年間で終息を迎える事になった。

コダックは、126フィルム「インスタマチックフィルム」126フィルムカメラ「インスタマチックカメラ」発売7年後の1970年に開催された「大阪万国博」に生産累計5000万台・記念カメラを寄贈し、コダック製品による当該市場席巻を世界にアピールした。
コダックに敗退したアグファは、1972年に126フィルムカメラ「アグファマチツク50」と4種類の126フィルムを発売して「インスタマチック」陣営への参加を行い、1978年までに11機種の126フィルムカメラを発売している。


ライトパンカラーⅡ・RAPID 

アグファ、富士写真フィルム、小西六写真等のフィルム各社がラピッドフィルムの販売から撤退した後も「ライトパン」ブランドで各種短尺フィルムビジネスを展開していた愛光商会(東京・港区)がネガカラーフィルム「ライトパンカラーⅡ ラピッド」(1977年当時 12EX \430)の供給を継続したが、1983年前に生産を終了している。 

以上  
     
  
 
 





 

月例会報告(平成27年11月度会合より)

2015-11-24 11:39:46 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年11月度会合より)


●人件費の「差」が収益性の「差」をもたらす

 <前号参照> アメリカの印刷業界団体PIAが実施した経営指標調査によると、収益性で上位25%に入る印刷会社(プロフィットリーダー)と、そこに含まれない残り75%の印刷会社(プロフィットチャレンジャー)との間に存在する売上利益率の格差は、過去十年以上にわたって平均して10ポイント(2015年次で9.7ポイント)もある。これは、年商1,000万ドルの企業で100万ドルにも達する非常に大きな利益差ということを意味する。一般的に売上高の40%以上は人件費が占めていることから、人件費の「差」が収益性を圧迫する重要な要因になると指摘している。2015年の時点で全企業平均の人件費比率が40.2%なのに対し、プロフィットリーダーに限ると35.1%に止まっている。その差は5.2%にも及ぶ。利益格差を招く要因の50%以上(2015年次では53%)は人件費の違いによるものだと判る。


●人件費の違いの6割は工場の人数に起因する

アメリカの印刷会社で働く社員の3分の2は通常、工場従業員とされる。そこで、工場現場に従事する社員の人件費に絞って売上高比をみてみると、プロフィットリーダーは22.4%、プロフィットチャレンジャーの場合は25.5%となっている。その差は3.1%になる。これに対し、営業部門に従事する社員の人件費で比べてみると、前者は6.6%、後者は8.3%、その差は1.7%しかない。ちなみに管理部門の人件費の差は0.4%に過ぎない。こうした数値から判るのは、両者の人件費格差の6割(同59%)は、製造現場に起因するという事実である。プロフィットリーダーは、労働力の代わりに資本、つまり生産設備を有効活用している。工場従事者一人当たりの純資産の金額に、両者の間で17%もの違いがみられる。


●資本集約型の企業になれば、収益性が高まる


全社員一人当たり売上高の両者の差は金額にして年額1万4,000ドルにも達するという。同じように一人当たり利益率からみても、少ない社員で多くの利益を得ていることがわかる。100万ドルの売上高をあげるのに要する社員数も5.9人対6.7人となっていて、ここでも著しい差がみられる。それだけ、プロフィットリーダーは競争上、優位に立っていることになる。「プリンター」としての印刷会社を対象とした調査だとはいえ、労働力を機械設備に置き換えることで資本集約型(高い労働装備率)の企業となることが、いかに重要であるかを示唆している。設備の稼働率に留意して投資効率を高め、高い生産性を保っている。より少ない社員で多額な売上高をあげ、しかも、より多くの利益を獲得している姿が浮かぶ。                    
※以上、参考資料=「FLASH REPORT」2015.9;PIA


●どっこい、生きているんです!「ガリ版印刷」

昭和20年代から30年代にかけて、印刷の歴史に確かな足跡を残した謄写版(孔版)印刷――PTO印刷やコピー機の登場とともに、その役目を終えたとされるが、芸術表現の優れた印刷技法として今でも残っている。山形、長野、岐阜には資料館、滋賀には伝承館があり、数多くの好事家や研究者が全国に存在する。そんな人たちが謄写版の裏表を随想した月刊雑誌が編纂され、印刷人の間で話題を呼んでいる。この雑誌には、「世から消えたと思っていたら、どっこい生きているんです」を前文にした特集「ガリ版旅行記―謄写版は不滅です!?」が50ページにもわたって掲載されている。そこでは、ガリ版文化史研究者、謄写版画家、ノンフィクション作家、ルポライター、NPO代表、ガリ版メーカーといったさまざまな肩書をもつ関係者が、ガリ版の意義や魅力について回顧談を交えながら縦横に筆を振るう。そのなかに、山形県下の印刷会社の経営者が資料館の館長でもある立場から書き下ろした文章がある。


●日本人の文化活動を支えた「ガリ版よ、永遠に」


その中から、興味深い箇所を拾い読みしてみると……謄写版技術を芸術的領域にまで高めたことで“孔聖”“神様”と讃えられた草間京平については、「一見すると、ガリ版とはわからないクオリテイの高さ。ガリ版刷りとしては最大級の世界地図も、手書きとは思えないほど精緻で、見るとびっくりする。謄写版を発明した堀井新治郎が設立した堀井謄写堂が昭和24年に出した『堀井謄写版印刷講義会 講義要項』も、草間が手掛けたもので、284度刷りをしたものを製本しているのだから、圧巻」と記している。また、印刷機に関しては「うちで一番古い印刷機は、明治30年に北上屋商店で作られた毛筆謄写版印刷機『眞筆版』。ガリ版用印刷機では滋賀県にあるものがいちばん古くて、これは二番目」と書いている。このように、ガリ版を実際に経験した人にとって非常に懐かしい逸話が、本誌の特集ページに散りばめられている。まさに「ガリ版はただの印刷機にあらず」「ガリ版よ、永遠に」なのである。
※以上、参考文献=「望星」2015.9;東海教育研究所、発売・東海大学出版部


●デジタル音痴、ITリテラシーの欠如……


 あるビジネス雑誌に「デジタル音痴社長が会社をつぶす」というショッキングな見出しが躍っていた。クラウドコンピューティングやビッグデータなど専門用語が次々と飛び交う時代に、ITリテラシーが欠如していたら企業経営に決定的な障害になるという趣旨で記事が編集されていた。「リテラシー」とは直訳すれば読み書き能力、つまり識字能力のことで、発展途上国の教育レベルを上げるためには、まず識字率を高めなければ、という意味で国際的に使われ出した単語である。これが転じてコンピュータリテラシー、情報リテラシーとなり、今や「IT」が冠詞として付け加えられるまでになった。とはいえ、本当の意味でITに精通している企業経営者は少ないのではないか。企業のなかにも、ITを導入したときのイニシャルコスト、ランニングコストがどのくらいかかるかを正確に把握できる社員はほとんどいない。リストラや効率化で浮いたコストの金額は気にかけるものの、ITの効果とコストについては、前向きに取り組もうとする気持とは裏腹に思いが至らないのだろう。


●ITに関する理解を深めないと、活かせない

 IT音痴には3つのレベルがあって、①全く知らない真性音痴、②専門業者の言うがままの操り人形、③変な方向に導いてしまう自称IT通――に分かれるらしい。ITリテラシーができていないと、当然、ITを使いこなせないし、ビジネス上の成果も得られない。クラウドを使って情報を集める-分析する-応用する、の軌道に乗せられない。サーバーがどこにあり、ビッグデータがどのようにセグメント化され、どの中から必要なデータを的確に収集するかの手だてがわからない。エンジンの動かし方、アプリケーションのつなげ方、データ加工の方法が理解できなければ、ITに多額の資金を注ぎ込んだけれど……という事態に陥りかねない。システムを導入したのはいいが、それに見合うメリットを享受できない。これが現実なのではないか。


●サーバーの所有意識から脱するのが事始め

 印刷会社としてはもっと身近なスモールデータを、という提言がある。このとき邪魔になるのが、印刷機を“家宝”扱いして以来、抱えてきた“所有意識”である。身近にサーバーがないと安心できない、リアルでないと信用できない、という傾向がある。核とすべきサーバーを端末的に置いて、アクセスしにくいゲートをつくったりする。情報加工の工程ごとにサーバーを継ぎ接ぎ状態で構築したあげく、いたずらに労力を消費したりする。日本の経営者は投資分を早く回収したがるが、ITには基本的に“納期”はない。ITの成果を本当に得たいのなら、デバイス主義を止めてプラットフォーム感覚で取り組む必要がある。安物買いの銭失いにならないよう、気持のうえで余裕をもち、長期的かつ戦略的な視野でITを使いこなしてほしい。

以上