身動きもしないで、横臥していた被爆者の群れの中から、暁の薄明に誘われるようにして、ここかしこに黒い亡魂がこの世に最後の暇乞いをする。
夜が完全に開け放たれてしまうと、もう亡魂は舞わない。ただ、そこには新しい黒いむくろが、転々として数を増しているだけである。
忌まわしい儀式の果てた遺骸は、まさしく亡がらであり、もう亡魂をすら感ぜしめない。空蝉ですら、見た目にも、その名称にも、美しさがあるのに、被爆者の遺骸だけは、これ以上の醜悪さと、ぶざまさはないほどに、破損崩壊した人間容器そのものであった。
平然とこう描写することに、読者は著者の神経を疑うかもしれない。しかし、著者には誇張してつたえようとする意思は毛頭ない。では、正確に伝えようとするのかと問はれると、返事に窮する。何が確かで、何が不確かなのか、判断基準を失ったが最後、確かだったものが不確かとなり、不確かなものがたしかなように見えたり思えたりしたのだから。
夜が完全に開け放たれてしまうと、もう亡魂は舞わない。ただ、そこには新しい黒いむくろが、転々として数を増しているだけである。
忌まわしい儀式の果てた遺骸は、まさしく亡がらであり、もう亡魂をすら感ぜしめない。空蝉ですら、見た目にも、その名称にも、美しさがあるのに、被爆者の遺骸だけは、これ以上の醜悪さと、ぶざまさはないほどに、破損崩壊した人間容器そのものであった。
平然とこう描写することに、読者は著者の神経を疑うかもしれない。しかし、著者には誇張してつたえようとする意思は毛頭ない。では、正確に伝えようとするのかと問はれると、返事に窮する。何が確かで、何が不確かなのか、判断基準を失ったが最後、確かだったものが不確かとなり、不確かなものがたしかなように見えたり思えたりしたのだから。