ウィトゲンシュタイン的日々

日常生活での出来事、登山・本などについての雑感。

『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』

2016-05-22 16:19:56 | 映画

野村萬斎主演の『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』(以下、『スキャナー』と省略)を観た。
野村萬斎は、ン十年来の私の「好きな人」である(ダーリンより古い)。
その野村萬斎を主演にすべく作られたのが本作で、ぴすけはよく知らないのだが
脚本は『リーガルハイ』や『相棒』・『寄生獣』を手掛けた古沢良太(以下、敬称略)。
それよりなにより、監督が金子修介だというところで、ぴすけの観たいモードはMAXに。
金子修介と言えば、『ガメラ 大怪獣空中決戦』をはじめとする平成ガメラシリーズを監督。
平成ガメラ3部作と呼ばれるシリーズは
特撮技術監督の樋口真嗣や脚本の伊東和典の力量もあっただろうが
本編の人間描写も薄っぺらなものではなく、しっかり描かれていたのは金子修介の手腕である。
その後、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(通称白目ゴジラ)を監督し
『スキャナー』でも物語の中心となる「残留思念」なるものを
ゴジラは太平洋戦争で死亡した人々の思念の集合体であると
天本英世扮する『護国聖獣伝記』の著者に語らせている。


『スキャナー』は、その残留思念を読み取る能力を持った男・千石(野村萬斎)が
漫才コンビ・マイティーズの相方であった丸山(宮迫博之)とともに
高校生・秋山(杉咲花)の依頼のもと
突然姿を消した秋山の恩師であるピアノ教師・沢村(木村文乃)を探す物語である。
千石が読み取る残留思念とは、物や場所に残った人間の記憶や感情のことで
沢村の持ち物や沢村がいた場所から残留思念を読み取りながら
千石は徐々に真相に近づいていくのだが、物語には伏線がちりばめられており
「ああ、あれはそういうことだったのか」
「あの出来事は、ここにつながるのか」
と、ハッとさせられるシーンが随所にある。
また、人から直接読み取る思念は、人が自分に都合のいいように勝手に記憶を書き換えており
物体から読み取れる思念には、書き換えの心配がないというところは面白いし、納得。
しかし、思念を読み取る千石の見方次第で
思念の持ち主が女にも男にもなり得るというところが、この物語の重要な鍵となっている。


沢村の持っていた爪やすりに触れたことで、沢村が生徒である秋山に語りかけていた
「あなたには特別な才能がある。がんばって。絶対できるから。」
「才能はあなただけのものじゃない。ほかの人のためにあるのよ。」
という言葉を、まるで自分に言われているかのように読み取った千石は
思念を読み取ることによって人間の醜さをいやというほど思い知らされ
人とのかかわりを避けてきた態度を徐々に変えていく。
「人間は醜い」と言っていた千石が、ラストシーンでは「人間は美しい」とつぶやき涙するが
それは「人間」が美しいのではなく、教え子の成長を一心に願う沢村が美しいからにほかならない。
千石は、会ったこともない沢村に、思念を通じて恋をしたのだ。


映画を観終わって、野村萬斎を主演にすべく作られた映画といわれながら
主人公が野村萬斎でなければならないとは思えなかった。
「じゃあ、誰ならいいの?」
そうダーリンに聞かれても、野村萬斎に代わる人は思い浮かばなかったから
まあ、これはこれで、野村萬斎で良かったのかもしれない。
しかし、私としては、やはり野村萬斎は「芸」の人。
彼の「芸」が観られない作品は、なんだかとてももったいないことをしているような気がするのである。



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