ウィトゲンシュタイン的日々

日常生活での出来事、登山・本などについての雑感。

仏教彫刻探訪 ~南山城・当尾編~

2018-10-20 23:58:20 | 仏教彫刻探訪

10月4日(木)

1年に一度しか開扉しない東大寺の僧形八幡神像の参拝のため
休日とうまく重なる日程になるよう、機会を狙っていた甲斐あって
今年やっとそのチャンスが巡ってきた
前日に奈良入りすべく、4日早朝に出発し、10時過ぎに近鉄線の三山木駅に到着。
かねてから、南山城の仏像を訪ねてみたいと考えていたが
徒歩で行けるお寺は限られているので、この日は三山木駅から歩ける2山とし
時間に余裕があったら、当尾の浄瑠璃寺に寄ることにした。

三山木駅から徒歩約5分の寿宝寺に到着。
2週間ほど前にお寺に予約の電話を入れると(寿宝寺 0774-65-3422)
10時30分にほかの方の予約も入っているとのことで、その方と一緒に参拝することになった。
ところが、時刻を過ぎてもほかの方は見えず、お寺の方の計らいで私のみの参拝となった。

寿宝寺参拝のお目当ては、本尊の千手観音菩薩立像。
仏像は、山門を入って左手にある観音堂(兼収蔵庫)に収められており
悪天候や湿度の高い場合には、予約してあっても開扉されない場合があるので注意が必要。
お寺の方の案内で観音堂の扉が開かれ、堂内に入ると
正面の本尊・千手観音菩薩は、口元の紅が鮮やかで、威厳のある眼差しを参拝者に向け
左手の降三世明王と右手の金剛夜叉明王は
迫力ある表情とポーズで、さほど広くない堂内で強烈な存在感を出している。
お寺の方が、仏様の説明をしてくださる。
千手観音といっても、本当に千本の手を持つ観音像は、日本国内に
奈良・唐招提寺と大阪・葛井寺とここ寿宝寺の3躯と言われている。
また、広げた千の手一つ一つに墨で眼が描かれていることから、千手千眼観音とも言う。
墨で描かれた眼は、目視ですぐに見つけることができるし、お寺の方が場所を教えてくださる。
そしてなにより圧巻なのは、お寺の方が観音堂の扉を閉めて太陽光を遮り
照明を月夜と同じ状態にしてくださった時の、観音様の表情の変化である。
口元の紅が消え、眼差しが威厳あるものから目を閉じられて静かに祈る姿に変わる。
この観音様を崇敬する人々は、月夜の姿をこの観音様の姿として参拝することが多く
寿宝寺では、法要は夜に執り行われているそうだ。


寿宝寺を後にして、観音寺(大御堂)に向かう。
三山木駅から観音寺の最寄りのバス停である普賢寺に行くバスは本数が少なく
行きも帰りも時刻が合わなかったため、観音寺まで歩くことにした。
観音寺までは30分ほどかかる。
しかも、往路に利用した大通りは自動車の往来が激しいだけでなく、大型トラックも多い。
雨が降り始めて、猛スピードですれ違う大型トラックに水を浴びせられながら
やっとの思いで到着した観音寺は、山の麓にひっそりと建っていた。

参道左にある庫裡で参拝の希望を伝えると、本堂の前で待つように言われる。

本堂の基壇には、かつての鬼瓦と思われる瓦が並んでいた。


しばらくすると住職が、本堂の扉を開け、普賢寺と呼ばれた創建当初からの歴史や
本尊・十一面観音菩薩をはじめ、仏像についての詳しい説明を堂内でしてくださる。
本尊の厨子の扉を開けていただいた時にまず感じたことは

「聖林寺の十一面観音に似ている

ということだった。
十一面観音菩薩立像は乾漆造で、当時としては大量の漆を使う乾漆造は大変高価なものだった。
奈良の都で発達した乾漆造の技術を用いた仏像がこの寺にあるのは
普賢寺が興福寺の北の別院で、かつては奈良の影響下にあったためと考えられるそうだ。

観音寺の境内には、鎮守とされる「地祇(ちぎ)神社」がある。
かつては広大だった寺域を想像しつつ、帰りは住職に教えていただいた川沿いの道を歩いて
JR三山木駅まで戻った。


JR三山木駅13時41分発の木津線に乗り、途中木津駅で大和路線に乗り換え、加茂駅で下車。
加茂駅から14時14分発のコミュニティバス当尾線に乗り、浄瑠璃寺バス停で降りる。

浄瑠璃寺へは、これで二度目。

阿弥陀堂へは、拝観料を支払った後、外縁をぐるりと回り、反対側の入口から入る。
庭園の趣もさることながら、阿弥陀堂の白壁と周囲の緑が目に染みる。
九体阿弥陀如来坐像がおわす阿弥陀堂内の静謐な空間は
しばらく時が止まったような感覚に陥り、何度でも足を運びたい気持ちにさせられる。
この日は、修理のために運び出された2躯を除いた7躯が、堂内に残っていた。

そして、浄瑠璃寺といえば、九体阿弥陀如来坐像と同様に
参拝者の心をつかんで離さないのが、1年で期間を限定されてご開帳され
彩色の色鮮やかさが今も残る、吉祥天女立像だろう。
浄瑠璃寺を訪れたのは、ご開帳されている吉祥天女に再び見える目的もあった。

「うーん、美しい…

暫し堂内で、座ったり立ったりしながら諸仏を眺め、静謐な空間の一部となる。
存分にこの空間を堪能し、後ろ髪を引かれる心持ちで阿弥陀堂を出る。

阿弥陀堂の前には、フヨウが雨露に濡れて咲いていた。

池の向こうに聳える三重塔周辺の木々は、既に色づき始めている。
この日の仏様との出会いは、それぞれのお寺で、かなり濃密な時間であった。


明日の僧形八幡神像との出会いに胸を膨らませて
浄瑠璃寺バス停から、この日の宿泊先であるJR奈良駅前に向かったのだった。



仏像の写真は、寺院パンフレット・絵はがきから転載しました



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