《『週刊金曜日【金曜アンテナ】』》
◆ 「日の丸・君が代」強制許すな
~全国集会で教育関係者ら「新たな戦前」への危機感語る
「日の丸・君が代」問題等全国学習・交流集会が7月23日、東京都千代田区の日比谷図書文化館で開かれ、約120人が参加した。全国で取り組まれている「日の丸・君が代」の強制に反対する運動の現状などについての報告があり、「『新たな戦前』への動きを学校現場から止めよう!」とする集会アピールを採択した。
2003年、東京都教育委員会は「10・23通達」を出し、都立学校の卒業式等において「君が代」起立斉唱や伴奏を強制する職務命令が出されるようになった。通達から約20年、この職務命令に従わず処分された教職員は延べ484人にのぼっている。処分取り消しを求めていくつも訴訟が提起され、現在でも継続中の裁判がある。
大阪市では市立学校の行事での「君が代」起立斉唱を義務づける条例が11年に成立し、これまで67人が処分を受け、複数の裁判が起こされている。
同様の訴訟は北海道、神奈川、新潟、三重、福岡でもあり、各地の訴訟に取り組む教職員たちが運動について経験交流し、学び合おうと、全国学習・交流集会が開かれるようになった。
集会ではまず法政大学の児美川孝一郎(こみかわこういちろう)教授が「公教育の転覆をはかる教育DXー市場化、デジタル監視、新たな戦前」のテーマで講演した。
児美川教授は現在進められている教育DX(デジタルトランスフォーメーション)は「『Society5.0』(政府が提唱する未来社会のモデル)に向けた教育改変だ」と指摘。文部科学省が19年から進めている、児童生徒1人に1台のコンピューターを配布する「GIGAスクール構想」について「実際に構想を主導したのは経済産業省だ」とした上で、教育の市場化で利益を得る経済界の意向を受け、経産省が教育DXに熱心に取り組んできた経緯を説明した。
◆ 「教育DX」推進の裏側で
コロナ禍で全国一斉休校の状況があったことで「民間の力を活用すれば子どもたちの学びを止めずに学習できる」と、経産省は企業のノウハウを学校教育に導入する社会実験を展開。
一方、文科省は一斉休校で学校の役割が再認識された面もあり「デジタル化は進めるが、伝統的学校のかたちである日本型学校教育は守る」との方針を打ち出した。
教育DXに関する急進派の経産省と漸進派の文科省を調整する形で、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議にワーキングチームが設けられ、最新の教育政策案が22年に出されたが、内容はかなり経産省寄りのものなっている。
児美川教授は「どんな学校と教育を、子ども・保護者・市民と創っていくのか。『共同での豊かな学び』などの対抗軸を打ち出していかないと大変なことになる」と警鐘を鳴らした。
各地からの闘いの報告では、東京・大阪・千葉など「君が代」不起立で処分を受けて裁判闘争をしている原告などが次々に登壇。現状の説明や問題提起を行なった。
16年3月の卒業式での戒告処分の取り消しを求めて裁判を行なっている東京の女性は、この処分を理由に22年3月に再任用を打ち切られた。
「教員の仕事に生きがいを感じていたので、定年後も5年間は再任用として、その後は非常勤教員として体力が続く限り働こうと思っていた」と説明。
19年1月の朝に再任用の採用が決まったことを校長から告げられ、その日の午後に事前告知を受けた。内容は、年金支給開始年齢までは採用するが、その後は16年に処分されているため、任期を更新しないし、非常勤教諭にも採用しない、というものだった。
女性は「処分を受けて十分不利益を被(こうむ)っているのに、定年後の職まで奪われるのはあまりに理不尽だ」と訴えた。
また、22年11月に公表された国連自由権規約委員会の勧告で「君が代」不起立で教員が停職6カ月の処分を受けたことに懸念が表明されたことの報告があった。
集会後、参加者たちは日比谷公園から銀座周辺を通る約1・5キロのコースをデモ行進。「『日の丸・君が代』の強制反対!」などのシュプレヒコールを繰り返した。
竪場勝司・ライター
『週刊金曜日 1435号【金曜アンテナ】』(2023.8.4)
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