《月刊救援から》
◆ 強制送還違憲判決について
1 はじめに
九月二二日、東京高等裁判所は、入管による強制送還を裁判を受ける権利を侵害し、憲法に違反するとの判決を下した。この判決は一〇月六日までに国側が上告期間中に上告しなかったことにより、確定した。違憲判決の確定である。
本件は一四年一二月一八日に行われた強制送還の違法性・違憲性が問われた訴訟であった。
一七年一〇月一九日、強制送還されたスリランカ人男性ら二人が東京地方裁判所に裁判を受ける権利の侵害を理由として訴訟提起した。
しかし東京地裁は二〇年二月二二日、本件強制送還は合憲であり、適法てあると判断し、原告らはこれを不服として一〇年三月一〇日東京高等裁判所に控訴していた。
2 事案の概要と憲法違反とされた理由
本件強制送還が憲法違反とされた理由は、憲法三二条に規定する裁判を受ける権利の侵書である。
本件強制送還の態様は異常なものであった。
まず一四年一二月一七日、原告の一人は東京人管に出頭したところ、突然一一時二五分身体拘束された。そのまま、難民であるか否かの判断(強制送還により迫害の危険かあるかどうかの判断)として、迫害の危険はないと告げられた。
彼は弁護士にわずかな時間、電話をかけることを許されたが、結局つながることはなく、携帯電話を没収され、そのまま外部との連絡を遮断された。
その後外部との連絡を遮断されたまま、翌朝(一八日)午前五時四三分に羽田から強制送還されたのである。
この間、わずか一八時間程度である。
しかも一一月七日には、難民に関する判断が出ていたことが判明している。
つまり国側は一一月七日に難民に関する判断が出ていたにもかかわらず、それを一二月一七日にまで秘しており、送還の八時間前に告知していたのてある。
それだけではない。
一〇月二三日に難民に関する判断かなされる前に、すでに送還の対象者としてリストに掲載されていたこともわかった。つまり難民保護行政を担うはずの人管の難民部門は送還する部門に対して、事前(難民に関する判断がなされる前)に、難民に関する結果を漏洩していたのである。
その上前述のとおり、その判断の告知の時期も意図的に送還直前に遅らせることで、裁判を受ける暇をあたえず、強制送還したのである。
3 本判決の意義
(1)本判決の意義・同種事案の被害実態の調査・謝罪等被害回復
このような強制送還のやり口は、今回だけてはない。
一四年の今回の集団強制送還でも二六名(今回当事者二名、名古屋訴訟の一名も含め)が同様のやり口で強制送還されている。
一六年の集団強制送還でも二二名が同様のやり力で強制送還されている。
二〇年の集団強制送還では同様のやり方がなされたかどうか、国側は回答を拒否している。
集団強制送還はこれまても多数回行われている。
また個別の強制送還においても同様の手法かなされていると支援団体などからは報告されている。
このような強制送還は憲法違反であると裁削所に断罪され、国もこれを受け入れたのであれは、この手法による強制送還の実態調査を行うべきである。
(2)本判決の意義・在留資格のない外国人の人権保障
さらにこの判決は国が在留資格のない人の「人権」を侵害したと判断した稀有な判決である。
裁判所はこれまで在留資格のない人の「人権」は、在留資格制度の枠内でのみ保障されるにとどまるのであるから、まして在留資格のない人の「人権」は全て強制送還に劣後するとの判断を行なってきた。
外国人とは国籍を基準とするものであるが、「在留資格」(一般にはビザとも呼ばれる)という概念によって、普遍的な人権が強制送還に劣後する理由はないが、このように判断されてきた。
在留資格がない人は、「不法入国」「不法滞在」として、その個人の尊厳までも「不法」であるかのように扱われてきたという経緯がある。
しかし在留資格を失う理由の九五%以上は、犯罪によるものではない。
また存留資絡を失うことでその人の危険性・犯罪性のようなものか高まるはずもない。しかし、「不法滞在」の「外国人」のあらゆる人権は強制送還に劣後するととらえられてきており、それは市民社会も支えてきてしまった側面もある。
「在留資格」の有無、「不法滞在」などというレッテルによって、個人の尊厳・人権に微塵も違いがないことを、前提とした声に本判決の大きな意味がある。
『月刊救援 631号』(2021年11月10日)
◆ 強制送還違憲判決について
送還国賠弁護団・弁護士 高橋済
1 はじめに
九月二二日、東京高等裁判所は、入管による強制送還を裁判を受ける権利を侵害し、憲法に違反するとの判決を下した。この判決は一〇月六日までに国側が上告期間中に上告しなかったことにより、確定した。違憲判決の確定である。
本件は一四年一二月一八日に行われた強制送還の違法性・違憲性が問われた訴訟であった。
一七年一〇月一九日、強制送還されたスリランカ人男性ら二人が東京地方裁判所に裁判を受ける権利の侵害を理由として訴訟提起した。
しかし東京地裁は二〇年二月二二日、本件強制送還は合憲であり、適法てあると判断し、原告らはこれを不服として一〇年三月一〇日東京高等裁判所に控訴していた。
2 事案の概要と憲法違反とされた理由
本件強制送還が憲法違反とされた理由は、憲法三二条に規定する裁判を受ける権利の侵書である。
本件強制送還の態様は異常なものであった。
まず一四年一二月一七日、原告の一人は東京人管に出頭したところ、突然一一時二五分身体拘束された。そのまま、難民であるか否かの判断(強制送還により迫害の危険かあるかどうかの判断)として、迫害の危険はないと告げられた。
彼は弁護士にわずかな時間、電話をかけることを許されたが、結局つながることはなく、携帯電話を没収され、そのまま外部との連絡を遮断された。
その後外部との連絡を遮断されたまま、翌朝(一八日)午前五時四三分に羽田から強制送還されたのである。
この間、わずか一八時間程度である。
しかも一一月七日には、難民に関する判断が出ていたことが判明している。
つまり国側は一一月七日に難民に関する判断が出ていたにもかかわらず、それを一二月一七日にまで秘しており、送還の八時間前に告知していたのてある。
それだけではない。
一〇月二三日に難民に関する判断かなされる前に、すでに送還の対象者としてリストに掲載されていたこともわかった。つまり難民保護行政を担うはずの人管の難民部門は送還する部門に対して、事前(難民に関する判断がなされる前)に、難民に関する結果を漏洩していたのである。
その上前述のとおり、その判断の告知の時期も意図的に送還直前に遅らせることで、裁判を受ける暇をあたえず、強制送還したのである。
3 本判決の意義
(1)本判決の意義・同種事案の被害実態の調査・謝罪等被害回復
このような強制送還のやり口は、今回だけてはない。
一四年の今回の集団強制送還でも二六名(今回当事者二名、名古屋訴訟の一名も含め)が同様のやり口で強制送還されている。
一六年の集団強制送還でも二二名が同様のやり力で強制送還されている。
二〇年の集団強制送還では同様のやり方がなされたかどうか、国側は回答を拒否している。
集団強制送還はこれまても多数回行われている。
また個別の強制送還においても同様の手法かなされていると支援団体などからは報告されている。
このような強制送還は憲法違反であると裁削所に断罪され、国もこれを受け入れたのであれは、この手法による強制送還の実態調査を行うべきである。
(2)本判決の意義・在留資格のない外国人の人権保障
さらにこの判決は国が在留資格のない人の「人権」を侵害したと判断した稀有な判決である。
裁判所はこれまで在留資格のない人の「人権」は、在留資格制度の枠内でのみ保障されるにとどまるのであるから、まして在留資格のない人の「人権」は全て強制送還に劣後するとの判断を行なってきた。
外国人とは国籍を基準とするものであるが、「在留資格」(一般にはビザとも呼ばれる)という概念によって、普遍的な人権が強制送還に劣後する理由はないが、このように判断されてきた。
在留資格がない人は、「不法入国」「不法滞在」として、その個人の尊厳までも「不法」であるかのように扱われてきたという経緯がある。
しかし在留資格を失う理由の九五%以上は、犯罪によるものではない。
また存留資絡を失うことでその人の危険性・犯罪性のようなものか高まるはずもない。しかし、「不法滞在」の「外国人」のあらゆる人権は強制送還に劣後するととらえられてきており、それは市民社会も支えてきてしまった側面もある。
「在留資格」の有無、「不法滞在」などというレッテルによって、個人の尊厳・人権に微塵も違いがないことを、前提とした声に本判決の大きな意味がある。
『月刊救援 631号』(2021年11月10日)
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