《「子どもと教科書全国ネット21ニュース」から》
◆ 「18歳成年」実現を前に
「家庭基礎」は高校生にどのような人物像をねらっているか
◆ 男女が共に学ぶ家庭科が果たした役割
① 旭化成共働き家族研究所調査
~「いまどき」夫は、家庭科の申し子
中学校、高等学校の家庭科、技術・家庭科が男女ともに学ぶようになったのは1989年学習指導要領改訂に伴う、中学校1993年、高等学校1994年の教育課程からです。当時、中学生、高校生だった世代は、今は、30代後半から40代になっています。
「『いまどき』夫は、家庭科の申し子」は旭化成共働き家族研究所が1988年から行った「共働き家族・専業主婦家族比較調査」のうち、2014年調査分析です。
https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/kurashi/report/K040.pdf
同年7月に研究所が報告した「いまどき30代夫の家事参加の実態と意識~25年間の調査を踏まえて~」で、1989年調査と現在(2012年)を比較すると、
「最も変わったのは夫」と25年前に比べ、「全体的に夫で家事をする人が増えた。かつてのような妻に頼まれてやるような受け身の『家事参加』というのではなく、自ら積極的に臨む『家事関与』です。その背景には、楽しみながら、かつ家事をする父親の姿が子どもの良い影響を与えるという意識があり、夫自身が家事を前向きにとらえているからだと考えられます」とありました。
② 早稲田大学法学部棚村政行研究室
47都道府県「選択的夫婦別姓」意識調査(2020年11月18日発表「年代による違い」より)
https://chinjyo-action.com/47prefectures-survey/
「20代~30代は賛成率が高く、40~50代はそれにくらべると低めにとなっています。この境目は、男女共同参画社会基本法(1999年)や技術家庭科の共学化(1989年)といった、性別によって役割を決めつけない社会をつくろうという取り組みがなされた時期」とコメントしています。
③ 歌壇から見つけた育児をうたった男性の短歌(2019年)
誰のものでもない自分の人生を通して、個人の尊厳を守っていく上で、何が必要なのか、何をもっと学び、社会に関わっていったらよいのか、そんな学びを家庭科教育で創っていかなければと思います。
④ 理系進路選択に関する調査で「将来生きていく上で重要な教科は?」に
8割の高校生が家庭科をあげる
少し古い調査ですが、高校1年生対象で大学進学者割合区分別で各教科について質問している国立教育政策研究所「中学校・高等学校における理系進路選択に関する調査」(最終報告2013年)があります。
https://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h24/2_3_all.pdf
家庭科を学習してきた高校1年生は、男女共に家庭科は将来生きていく上で重要なことを学んでいると8割が認識しています。
学校での学びは受験だけのためではなく、自分の人生を切り拓いていくための学びもあるのだといった高校生の叫びのようなものと、この調査を見て、受け止めました。
◆ 現在、学んでいる家庭科科目は
高校家庭必修科目「家庭総合」(4単位)と「家庭基礎」(2単位)のうち、全国の高校の教育課程は「家庭基礎」(2単位)が8割を占めています。
この3月に教科書検定を合格した「家庭基礎」教科書は、7社10冊でした。
高校新教育課程は2022年4月から始まりますが、2022年は日本で初めて18歳を成年と制定する記念すべき年です。
私は「家庭基礎」新教科書が18歳成年をどのように扱っているのかを中心に、新教科書の問題点を見て行きたいと思います。
◆ 「生涯の生活を設計するための意思決定」を強調し自己責任を問う
2018年告示高校学習指導要領「家庭基礎」は、生涯を見通し生活の課題を解決するために、様々な人々と協働し、地域社会に参画することが強調され、どの教科書もSDGsが多くの頁を割いて扱われています。
社会科と家庭科は本来、災害時の視点である「自助、共助、公助」を扱うとして、家庭科ではこれに、互助を加えています。
自助は「個人や家族が自らの責任と努力でリスク問題に対応」、互助は「地域、友人、ボランティアなどの周囲の人々と助け合うこと」、共助は「保険制度などによって支えあうこと」で、公助は「自助・互助・共助では対応できない問題に対して、国や地方公共団体などが行う生活の保障」(T教科書)と説明し、「自分らしい生き方」「生活を営む力」「目標を持って生きる」等のテーマで人生を通しての意思決定や自己責任が強調されています。
18歳成年を意識してか、意思決定はどの教科書も、現行教科書での扱いよりも多くのスペースをさいて自助と裏腹の関係で「自己の意思決定に基づき責任をもって行動」が扱われ、これが家庭科の領域全体に貫かれています。
◆ 消費行動での自己貴任を問い、投資を誘う
2018年9月6日、文科省初等中等局教育課程部会は「成年年齢の引き下げに対応した家庭科の履修学年について」で2020年度及び21年度の入学生に対して、学習項目「生活における経済の計画と消費」は第1学年及び第2学年で履修させること、22年度以降の入学生に対しても同様に行う旨の「通知」を都道府県教育委員会教育委員長等宛に出しました。
本来、教育課程決定は各学校にあるべきで、家教連は抗議文を送りました。
家庭科の各社教科書の大部分が「経済の計画と消費」の項で雇用契約、消費貸借契約、賃貸契約等を扱い、親の同意無くして成年は契約ができ、それは責任を伴うと、自己責任を問う内容になっています。
今、テレビ等で盛んに100円からスマホで買える株の宣伝が行われています。
高校家庭科学習指導要領は「家計管理」の項で「株式、債券、投資信託等の金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成に触れる」とあり、「家庭基礎」各教科書ではハイリスク、ハイリターンを言いながら有価証券に触れ、その結果についての自己責任に言及しています。
18歳成年を自己責任強調に留めるのでなく、人生での意思決定できる年齢として、主権者の位置づけと共に、未来の社会に目を向け、考え、行動できるきっかけとして家庭科の実践を役立てて行きたいと願います。
ようやく世界の趨勢に追いついたことの喜びを高校生に伝えるべきだと考えますが、主権者としての18歳を扱ったのは、7社中、1社のみであったことは誠に残念です。
◆ 「ジェンダー」「セクシャルマイノリティ」がすべての教科書に登場
「第2次男女共同参画基本計画」下、2006年版「男女共同参画白書」(内閣府)で「地方公共団体においてジェンダーフリーを使用しない」が記述されました。ジェンダーバッシングにつながります。
非自艮政権下での「第3次男女共同参画基本計画」(2010年)を除いて「第4次」(2015年)も「ジェンダー」は外務省関係の施策でのみ扱われる状況でした。
一方「第5次男女共同参画基本計画」(2020年)ではこれらと大きく違い「基本的な方針」で「ジェンダー平等」が記述されています。
これが高校家庭科教科書編集に反映したのか、7社10冊の「家庭基礎」教科書すべてにジェンダーやセクシャルマイノリティが現行教科書より多く記述され、ジェンダーギャップ指数を扱う教科書もありますが、用語解説など、まだ高校生にわかりやすく説明しているとは言えないと感じました。
多様な性についても、多少の違いはあっても、レインボーフラッグの写真等を掲載し、LGBTやSOGIを解説し、パートナーシップ制度や事実婚等を扱っている教科書もあります。
一方、夫婦別姓(氏)に関しての記述は少ない状況です。
ジェンダー平等に向けて、家庭科の学びがさらに大きな力になっていくことに期待したいと思います。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 140号』(2021.10)
◆ 「18歳成年」実現を前に
「家庭基礎」は高校生にどのような人物像をねらっているか
齊藤弘子(さいとうひろこ・家庭科教育研究者連盟)
◆ 男女が共に学ぶ家庭科が果たした役割
① 旭化成共働き家族研究所調査
~「いまどき」夫は、家庭科の申し子
中学校、高等学校の家庭科、技術・家庭科が男女ともに学ぶようになったのは1989年学習指導要領改訂に伴う、中学校1993年、高等学校1994年の教育課程からです。当時、中学生、高校生だった世代は、今は、30代後半から40代になっています。
「『いまどき』夫は、家庭科の申し子」は旭化成共働き家族研究所が1988年から行った「共働き家族・専業主婦家族比較調査」のうち、2014年調査分析です。
https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/kurashi/report/K040.pdf
同年7月に研究所が報告した「いまどき30代夫の家事参加の実態と意識~25年間の調査を踏まえて~」で、1989年調査と現在(2012年)を比較すると、
「最も変わったのは夫」と25年前に比べ、「全体的に夫で家事をする人が増えた。かつてのような妻に頼まれてやるような受け身の『家事参加』というのではなく、自ら積極的に臨む『家事関与』です。その背景には、楽しみながら、かつ家事をする父親の姿が子どもの良い影響を与えるという意識があり、夫自身が家事を前向きにとらえているからだと考えられます」とありました。
② 早稲田大学法学部棚村政行研究室
47都道府県「選択的夫婦別姓」意識調査(2020年11月18日発表「年代による違い」より)
https://chinjyo-action.com/47prefectures-survey/
「20代~30代は賛成率が高く、40~50代はそれにくらべると低めにとなっています。この境目は、男女共同参画社会基本法(1999年)や技術家庭科の共学化(1989年)といった、性別によって役割を決めつけない社会をつくろうという取り組みがなされた時期」とコメントしています。
③ 歌壇から見つけた育児をうたった男性の短歌(2019年)
「桑の葉を食べてきたような緑便が泣く子の尻の下にあらわる」一人一人の人生に深くかかわっている家庭科学習の一端がこれらの男性の短歌にも示されていると思います。
「みどりごは見ることあらぬイラストの虎の子見つつ横裸(むつき)を換える」
「鳴呼、君の代わりに身籠りたしと思ふことの心底なるは卑怯ぞ」
「砕けつつ樹のうらがへる音をたてぼくらはまつたき其の人を産む」
「ペットボトル八分目まで水を入れて胎児の重さ片手で想ふ」
誰のものでもない自分の人生を通して、個人の尊厳を守っていく上で、何が必要なのか、何をもっと学び、社会に関わっていったらよいのか、そんな学びを家庭科教育で創っていかなければと思います。
④ 理系進路選択に関する調査で「将来生きていく上で重要な教科は?」に
8割の高校生が家庭科をあげる
少し古い調査ですが、高校1年生対象で大学進学者割合区分別で各教科について質問している国立教育政策研究所「中学校・高等学校における理系進路選択に関する調査」(最終報告2013年)があります。
https://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h24/2_3_all.pdf
家庭科を学習してきた高校1年生は、男女共に家庭科は将来生きていく上で重要なことを学んでいると8割が認識しています。
学校での学びは受験だけのためではなく、自分の人生を切り拓いていくための学びもあるのだといった高校生の叫びのようなものと、この調査を見て、受け止めました。
◆ 現在、学んでいる家庭科科目は
高校家庭必修科目「家庭総合」(4単位)と「家庭基礎」(2単位)のうち、全国の高校の教育課程は「家庭基礎」(2単位)が8割を占めています。
この3月に教科書検定を合格した「家庭基礎」教科書は、7社10冊でした。
高校新教育課程は2022年4月から始まりますが、2022年は日本で初めて18歳を成年と制定する記念すべき年です。
私は「家庭基礎」新教科書が18歳成年をどのように扱っているのかを中心に、新教科書の問題点を見て行きたいと思います。
◆ 「生涯の生活を設計するための意思決定」を強調し自己責任を問う
2018年告示高校学習指導要領「家庭基礎」は、生涯を見通し生活の課題を解決するために、様々な人々と協働し、地域社会に参画することが強調され、どの教科書もSDGsが多くの頁を割いて扱われています。
社会科と家庭科は本来、災害時の視点である「自助、共助、公助」を扱うとして、家庭科ではこれに、互助を加えています。
自助は「個人や家族が自らの責任と努力でリスク問題に対応」、互助は「地域、友人、ボランティアなどの周囲の人々と助け合うこと」、共助は「保険制度などによって支えあうこと」で、公助は「自助・互助・共助では対応できない問題に対して、国や地方公共団体などが行う生活の保障」(T教科書)と説明し、「自分らしい生き方」「生活を営む力」「目標を持って生きる」等のテーマで人生を通しての意思決定や自己責任が強調されています。
18歳成年を意識してか、意思決定はどの教科書も、現行教科書での扱いよりも多くのスペースをさいて自助と裏腹の関係で「自己の意思決定に基づき責任をもって行動」が扱われ、これが家庭科の領域全体に貫かれています。
◆ 消費行動での自己貴任を問い、投資を誘う
2018年9月6日、文科省初等中等局教育課程部会は「成年年齢の引き下げに対応した家庭科の履修学年について」で2020年度及び21年度の入学生に対して、学習項目「生活における経済の計画と消費」は第1学年及び第2学年で履修させること、22年度以降の入学生に対しても同様に行う旨の「通知」を都道府県教育委員会教育委員長等宛に出しました。
本来、教育課程決定は各学校にあるべきで、家教連は抗議文を送りました。
家庭科の各社教科書の大部分が「経済の計画と消費」の項で雇用契約、消費貸借契約、賃貸契約等を扱い、親の同意無くして成年は契約ができ、それは責任を伴うと、自己責任を問う内容になっています。
今、テレビ等で盛んに100円からスマホで買える株の宣伝が行われています。
高校家庭科学習指導要領は「家計管理」の項で「株式、債券、投資信託等の金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成に触れる」とあり、「家庭基礎」各教科書ではハイリスク、ハイリターンを言いながら有価証券に触れ、その結果についての自己責任に言及しています。
18歳成年を自己責任強調に留めるのでなく、人生での意思決定できる年齢として、主権者の位置づけと共に、未来の社会に目を向け、考え、行動できるきっかけとして家庭科の実践を役立てて行きたいと願います。
ようやく世界の趨勢に追いついたことの喜びを高校生に伝えるべきだと考えますが、主権者としての18歳を扱ったのは、7社中、1社のみであったことは誠に残念です。
◆ 「ジェンダー」「セクシャルマイノリティ」がすべての教科書に登場
「第2次男女共同参画基本計画」下、2006年版「男女共同参画白書」(内閣府)で「地方公共団体においてジェンダーフリーを使用しない」が記述されました。ジェンダーバッシングにつながります。
非自艮政権下での「第3次男女共同参画基本計画」(2010年)を除いて「第4次」(2015年)も「ジェンダー」は外務省関係の施策でのみ扱われる状況でした。
一方「第5次男女共同参画基本計画」(2020年)ではこれらと大きく違い「基本的な方針」で「ジェンダー平等」が記述されています。
これが高校家庭科教科書編集に反映したのか、7社10冊の「家庭基礎」教科書すべてにジェンダーやセクシャルマイノリティが現行教科書より多く記述され、ジェンダーギャップ指数を扱う教科書もありますが、用語解説など、まだ高校生にわかりやすく説明しているとは言えないと感じました。
多様な性についても、多少の違いはあっても、レインボーフラッグの写真等を掲載し、LGBTやSOGIを解説し、パートナーシップ制度や事実婚等を扱っている教科書もあります。
一方、夫婦別姓(氏)に関しての記述は少ない状況です。
ジェンダー平等に向けて、家庭科の学びがさらに大きな力になっていくことに期待したいと思います。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 140号』(2021.10)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます