パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

ICT教育の主体は、ビッグデータを管理する側ではなく、学習権をもつ子どもでなければならない。

2021年06月06日 | ノンジャンル
  《子どもと教科書全国ネット21ニュースから》
 ◆ ICT教育が子どもたちにもたらす影響と課題
村田紀代美(むらたきよみ・東京都小学校教員)

 2021年3月、陽光を浴びて校庭を走り回る子どもたち。1年前にはできなかった卒業・進級に向けた年度末の取組みを進めながら、何とかここまでたどり着けたことに安堵していました。
 この1年、全国一斉休校やその後の様々な活動縮小の中でも子どもの成長・発達を保障しようと、教職員は安全対策に配慮しながらかつてない緊張感をもって奮闘してきました。
 子どもたちも「新しい生活様式」の中で、多くの不安とストレスを感じながら過ごしていました。
 そのような時に文科省が進めた中心的施策は「GIGAスクール構想」
 命を守ろうとする学校現場と行政の目が全く違う方向を向いていたことは、現場に大きな失望感を与えました。
 ◆ 一人1台のタブレットの状況

 「GIGAスクール構想」という言葉の内容が「一人1台の端末」であることが明らかになり、「早急なICT教育の推進」が求められて大きな不安を巻き起こした2020年夏。
 行政ごとに取り組み方や進行状況が違い、いち早く対応した市では、2学期当初には子どもたちにタブレットが手渡され活用が進みました。多くの地区が年度内に納品を終え、子どもたちにタブレットを手渡す準備が整えられています。
 けれどもその前に検討しておかなければいけないことは多岐に渡り、山積しています
 先行地区の具体的対応は見えにくく、現場での危倶や問題点についての声は行政に届きにくいです。校内でも教職員同士の十分な共通理解のための時間が足りません。活用への熱意に個人差を抱えたまま新年度を迎えます。
 ◆ 先行地区の状況

 〈小金井市〉 教員たちが試しにタブレット3台を一斉に使ったら、データの書き込み者を表示する段階ですでにダウン。Wi-Fi容量が家庭並みの契約でしかなかったことが判明。
 そもそも業者は全校生が一斉に使うことを想定しておらず、教育委員会の受け止めとのギャップが生じている。
 〈三鷹市〉 タブレットは小中校生全員が毎日持ち帰って充電している。故障した場合、修理費はソフトを壊したら市が負担、ハードは個人負担
 そのため市の方針として今まで徴収していた教材費の私費負担を4000円減らし、その分を保険費用に充当しようとしている。
 しかし、特別支援学級ではそもそも私費徴収は行っておらず、家庭の負担が増えることをどのようにするか検討している。
 教員を超える技能をもつ生徒もおり、指導が大変になってきている。


 ◆ ICT教育と子どもたち

 日本のICT教育で一番張り切っているのは関連企業のようです。GIGAスクール構想のことも、どんな活動が可能なのかも詳しく紹介しています。
 けれども実際にタブレット端末を使って学習する子どもたちへの影響や問題点についてまでは説明されていません。
 子どもたちの学びにとって必要なこと・そうでないこと、豊かに学ぶために大事なこと、考えておきたいことを明らかにしながら、学校現場からの議論を進めていくことが重要であると思います。
 それにしても子どもたちは1日にどれぐらいの時間、デジタル画面を見続けるのでしょう。
 文科省はデジタル教科書使用時間の基準を、各教科のコマ数の2分の1未満としていますが…。気になることを以下に挙げてみます。
 (1)心と体の成長・発達、健康への影響
 ①視力、視覚への影響……目の機能の成長や視力低下、疲労感。大人でも大変です。
 ②依存性……今でもゲーム依存に苦しむ子どもがいます。新たな道具になりかねません。
 ③睡眠不足・睡眠障害…ブルーライトの影響で体内時計が狂うことや、寝不足によって記憶固定のためのレム睡眠不足との指摘もあります。
 ④対人関係……すでに、教員の指示以外のグループを作成しての仲間外しといった事例が起こっています。すぐそばにいる人ともタブレットを通してやり取りをするおかしなことも発生しています。
 (2)学習効果への懸念
 ①発達段階に応じた指導を……様々な感覚を養い、学びの基礎形成をする小学校では(少なくとも低学年では)自分の体を通した体験的学びに重点を置くべきだとの現場の意見が多いです。
 ②認知、思考、記憶、感覚の形成……紙の本を読むときより電子媒体の本を読むときの方が脳の働きが違うとの指摘があります。パソコンでの調べ学習に慣れた6年生が、図書資料を使って調べた方がより多くの情報に触れ知識が増えると実感したり、スクリーンの画像を見て活発に発言するけれど書くことは億劫がって文章にならなかったりする様子がよく見られます。
 (3)安全、危険回避
 ゲーム機にまつわるトラブルやネットを利用した犯罪を解決できていないまま子どもをネット社会に放り込む危険性は、アクセスできる世界が広がれば広がるほど高まります。子どもを守るシステムの構築もICT教育の大きな課題であると考えます。
 (4)人権への懸念
 私がICT教育で最も懸念しているのは、「子どもの人権が守られるか」という点にあります。「教育」という名の下に、子どもの人権が侵害されたり制限されたりすることがあってはなりません。
 ①個人の学習・思考データが蓄積され、管理されること……個人の学びの経歴がビッグデータとして保存されるとのことです。どの時点で蓄積が終わり、そのデータは誰の所有物になるのでしょうか
 本来は学習者個人のものであり、ある一定の期間が経ち、指導に関わらなくなった時点で返却されるものです。それがいつまでも残され、過去に遡ってデータが活用されるのは重大な人権侵害なのではないかと思います。
 データの管理、扱いはあくまでも学習者個人が判断するものではないかと考えます。そうでなければ、使い方によっては思想信条の自由、意見表明の自由も侵しかねません。また、情報漏洩があったときには、人の人生に関わる重大なことになります。
 ②学習権の保障……ICT機器の多用で懸念される画一的な学習は、その子がもつ様々な可能性を狭め、「その子に合ったやり方で学ぶことができる」という民主教育の根本が制約されることになるのではないでしょうか。
 人格の完成を目指す教育が「あなたにはこの道」と選別の道具にとって変えられるのではないかと危倶します。
 ③家庭への介入……現在進めているタブレットを持ち帰るシステムは、家庭環境の影響を大きく受けます。子どものことに十分目配りができる家庭ばかりではありません。できるだけ電子機器を使わせたくない家庭もあります。宿題をした時間等、プライバシーまでチェックすることは何につながるのでしょうか。
 ◆ 考えていきたいこと

 小学校英語と同様に、「バスに乗り遅れるな」と言わんばかりに十分な準備や心購えがないまま早急なICT教育導入を図ることで、システムの不十分さや現場の混乱を招いています。
 もう少し落ち着いて、時間をかけて実践を積み上げていくことで整理されていくことと思います。その時に、次の3つの視点を大切にしたいと考えています。
 (1)「人間」を大切にする
 科学の進歩により人間が人間をつくる・つくり変える時代になったと言われています。「人間とは」「人としての発達」が揺らいでいくと「教育」そのものが変質していくのではないでしょうか。
 (2)教育の自由
 何をどのように教え、学ぶのかは教育の自由として尊重されなければなりません。子どもの学習権を考慮しながら、ICT機器を使う・使わないという選択も強制されることがないような注意が必要だと考えます。
 (3)主体はどちら?
 ICT教育の主体は学習権をもつ子どもなのではないでしょうか。ビッグデータを管理する側が主体となってしまっては民主主義が育たなくなる危険が大きいです。
 このICT教育においても子どもから出発する民主的な方法を追究していきたいです。
 子どもが人として大切にされ発達の願いが尊重される、そのようなICT教育を口指したいです。
「子どもと教科書全国ネット21ニュース 137号」(2021.4)


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