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ストラヴィンスキー:三大バレエ音楽

2013-04-06 20:57:15 | CD


イーゴリ・ストラヴィンスキー:
・バレエ音楽「春の祭典」全曲
・バレエ音楽「ペトルーシュカ」全曲(1947年版)
・バレエ音楽「火の鳥」全曲

指揮:アンタル・ドラティ
デトロイト交響楽団

ポリドール: POCL-3610/1



 本日4月6日はストラヴィンスキーの命日です。1971年4月6日に89歳で亡くなったストラヴィンスキーは晩年まで創作意欲が旺盛でしたが、代表作といえば三大バレエであり、いずれも1910~13年という若い時代の作品です。当時はロシアの土俗的な香りと師匠のリムスキー=コルサコフ仕込みの色彩的な管弦楽法をミックスし原始主義の音楽を作って音楽界に衝撃を与えました。ストラヴィンスキーの三大バレエとは「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」ですが、とりわけ「春の祭典」のスキャンダルな初演は20世紀音楽の最大のインパクトです。この曲を聴いて人生が変わったという人も多く、その多分に漏れず私も大変大きな影響を受けたのでした。

 最初の「火の鳥」の作曲は本来別の作曲家(リャードフ)に依頼されていたのですが、完成の遅れを危ぶんだ興業主ディアギレフはなかばヤケクソ気味で無名の新人ストラヴィンスキーに依頼したところ大評判を呼び、一夜にしてストラヴィンスキーはセレブの仲間入り。その音楽はロシア民謡の旋律をベースに、得意の管弦楽法と印象主義的な楽想で彩られた鮮烈なものです。4管編成の大オーケストラに加え、ピアノ、チェレスタ、ハープ3台、シロフォン(木琴)、グロッケンシュピール(鉄琴)というキラキラサウンドが充実。ストラヴィンスキーは木管楽器の使い方が非常にうまく、おとぎ話的なテーマにマッチしています。この「火の鳥」を元に、手塚治虫がライフワーク「火の鳥」を構想したというのは有名な話です。

 次の「ペトルーシュカ」はロシアのお祭りを舞台に、人形のペトルーシュカがバラバラにされたのちに化けて出る、という不思議なお話。前作同様にロシア民謡が使われていますが、3拍子と2拍子のポリリズムなど、より現代的な耳触りです。楽器編成も「火の鳥」とほぼ同様(1947年版は3管編成)ですが、今回はピアノがソロ的な役割を果たします(後半はあまり目立たなくなっていますが…)。やや19世紀的音楽を引っぱっていた「火の鳥」から格段の飛躍があり、音素材を徹底的に加工しコントロールするというストラヴィンスキーの流儀が明確になったと言えるかもしれません。この流儀はその後の新古典主義時代でも十二音技法時代でも一貫しています。

 最後の「春の祭典」は20世紀を代表する音楽で、原始主義音楽の頂点です。ロシアの大地に暴力的に春がやって来る有様をバレエにした作品で、従来ありえなかったような変拍子や多調が詰め込まれています。編成に関してはキラキラサウンド楽器はないものの、5管編成の巨大なものです(ホルンは8本)。古典的な音楽だとド-ミ-ソとかラ-ド-ミの和音を一つのパートでカバーできる3管編成で十分だったのですが、19世紀後半のロマン主義時代ではよりニュアンスに富んだソ-シ-レ-ファとかラ-ド-ミ-ソとかド-ミ-ソ-シなどの和音のために4管編成の音楽が多くなりました。和音としてはこれで完成と言ってもよく、その観点からすると4管以上の編成は本来必要ありません。ここでは不協和音や複調やポリリズムといった複雑さを作りだすために5管編成となったのでしょう。「春の祭典」の神髄は原始主義的な要素ではなく、やはり素材の徹底した加工と組み合わせなのだということを思わされます。

 わが家には「春の祭典」のCDが何枚もありますが、このドラティによる演奏はバレエ的な華やかさと現代的な精緻さを兼ね備えた演奏になっています。大きなクセはなく非常に整っており、複雑な各パートの動きが聴き分けられるという分解能の高いものです。



 このCDの録音と同じ「春の祭典」第1部「大地礼賛」の前半の動画。「序奏」、「春のきざし-乙女たちの踊り(3:39~)」、「誘拐(6:47~)」です。木管楽器の乱舞、強烈なリズムと複雑な和音、先の読めない変拍子など、様々な特徴があります。この演奏では特に第1部最後の「大地の踊り」や第2部「いけにえ」の緊張感は凄まじいものがあり、この曲のベストレコーティングの一つでしょう。

 「火の鳥」「ペトルーシュカ」も細部を見渡すことができる上、キラキラサウンドがやや強調されています。なかなかオトクな一枚(というか二枚組)ですよ。


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