イーゴリ・ストラヴィンスキー:
・バレエ組曲「火の鳥」1919年版
ベンジャミン・ブリテン:
・鎮魂交響曲 作品20
指揮:ルドルフ・ケンペ
ドレスデン・シュターツカペレ
徳間ジャパンコミュニケーションズ: KTCC-70659
『火の鳥』の中でもこの1919年版組曲は最も演奏頻度が高いバージョンでしょう。編成は2管の簡潔なもので、演奏時間も20分程度となっており、アマオケの演奏会プログラムにも乗りやすい構成ではないでしょうか。それだけに聴いた感じがオリジナル版とずいぶん違っています。どれくらい違うかというと、もともと極彩色のフレスコ画だったものを、黒サインペンで一筆書きにしたような印象があります。
以前にも書いたと思いますが、この時期にストラヴィンスキーは作風を転換しつつあります。その理由として、第一次世界大戦が挙げられます。開戦によって経済的に苦しい世の中で、小編成のオケで演奏できるようにすることで収入を得ようと考えたのです。そしてこのことはストラヴィンスキーの音楽構成に対する興味を変えるものでもあり、より抽象的かつ機能的な音の構成を目指すきっかけとなったに違いありません。
編成が小さいからといって、演奏が簡単というわけでもないようです。むしろ編成が小さい分だけ不要なものがそぎ落とされるので、ごまかしが効きません。特にストラヴィンスキーは木管楽器の使い方にこだわりがあったようで、演奏しやすいとされるこの版がアマオケのプログラムに乗るかどうかは木管楽器演奏者たちの技量次第ではないでしょうか。
ところで、『火の鳥』最大の山場である「カスチェイら一党の凶悪な踊り」で、この1919年版組曲でかなり大胆な改変を行っています。拍子の頭の音が抜かれていて文字通り「拍子抜け」したり、トロンボーンのグリッサンドが突然に「ポエ~」とか鳴ったりします。個人的にはしばらくの間これらの改変に大きな違和感がありましたが、新たな試みだと思って聴いているうちに耳に馴染んできました。例えるならファミコン版グラディウスで山の隙間に5000点ボーナスがあるようなものですね(わからんか)。
このディスクの演奏は非常にドライで即物的なもので、非常に軽い聴き心地。対して下の動画のオーマンディの演奏は、まるで1910年オリジナル版じゃないかというほど雰囲気満点の演奏(録音の影響かもしれませんが)。組曲後半の「カスチェイら一党の凶悪な踊り」「子守歌」「大団円」の流れ。古いけどなんか凄い演奏です。
カップリングの『鎮魂交響曲』はイギリスの作曲家ブリテンの作品。なんでも第二次世界大戦の勃発でイギリスに帰れなくなったブリテンが生活費を稼ぐために、日本政府から皇紀2600年を祝うための委嘱を受けて作られた曲です(イベールの『祝典序曲』もそうですね)。ところが、これを受け取った日本政府は「お祝いの場だというのになぜ鎮魂なのか?」と当惑し、演奏拒否したようです。
上の動画はこのディスクと同じ音源だと思われます。曲の構成は「第1楽章 ラクリモーザ<涙ながらの日よ>」、8:46より「第2楽章 ディエス・イレー<怒りの日>」、13:42より「第3楽章 レクイエム・エテルナ<永遠の安息をあたえたまえ>」。印象的なのは<怒りの日>で、なんとなくコラージュのようでありながら、ショスタコーヴィチを匂わせる楽想。現にブリテンとショスタコーヴィチは深い親交があったようです。皮肉の塊ショスタコにならって日本政府を皮肉ったのでしょうか。太平洋戦争開戦直前の出来事です。
奇しくもいずれも戦争の影響を受けてできた作品とも言え、両者の簡潔で明快な書法とも相まって、独自の存在感がある一枚なのでした。
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