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ストラヴィンスキー:交響曲 変ホ長調/ヴァイオリン協奏曲

2014-10-19 20:53:33 | CD


イーゴリ・ストラヴィンスキー:
・交響曲 変ホ長調 作品1
・ヴァイオリン協奏曲

 ヴァイオリン:リディア・モルトコヴィチ
 スイス・ロマンド管弦楽団
 指揮:ネーメ・ヤルヴィ

CHANDOS: CHAN 9236



 収録されている2曲はそれほどメジャーな作品ではありませんが、このようにカップリングされると非常に対照的な作品であるように感じます。

 『交響曲 変ホ長調』は若きストラヴィンスキーがリムスキー=コルサコフに弟子入りしていた時の作品。したがって、ロシア国民楽派の影響を受け、師匠の管弦楽法を引き継いだ習作といえるでしょう。分厚くて絢爛豪華な響きを持つ管弦楽法についてリムスキー=コルサコフは絶対の自信を持っておりました。この交響曲でも管楽器の使い方がいかにも師匠ゆずり。ただ金管楽器がちょっとクドイ使われ方をしているように聴こえます。

 「変ホ長調」という調性も気になります。というのも金管楽器が演奏しやすい調性の一つが「変ホ長調」なのです。多くの金管楽器はB♭が基本の音である場合が多いため精確なハーモニーが出しやすく、指づかいも簡単なのです。そして個人的には、うわずっていながら何となくトボケた印象さえも持っている調性で、楽しめの曲想にマッチしていると感じます。これが逆に「イ長調」だったとしたらもっと硬い印象を受けたかもしれません。

 曲は通常の4楽章構成です。ロシアの他の作曲家や民謡を参考に作曲されているようで、例えば第2楽章での管楽器の使い方がボロディンの交響曲第2番に似ているような気がします。また第3楽章の一部分がほとんどチャイコフスキーのように聴こえます。第4楽章でロシア民謡の「チーチェル・ヤーチェル」が使われていますが、ストラヴィンスキーは後に同じ旋律を使って同名の歌曲を作っています。



 ストラヴィンスキー自作自演の交響曲 変ホ長調の第4楽章。4:25から「チーチェル・ヤーチェル」の旋律。

 もう一方の『ヴァイオリン協奏曲』はパリ時代の新古典主義的作品。通常のヴァイオリン協奏曲に期待されるような艶やかでゴージャスな雰囲気は希薄で、オケの編成の大きさの割には室内楽のような削ぎ落とした響き。特に管楽器の使い方が特徴的で、ほとんど「ヴァイオリンと管楽器のための二重協奏曲」とさえ言えそうな作り。『交響曲』では分厚い和音で旋律を鳴らす音楽でしたが、こちらの曲では必要な音を動きの中に散りばめて緊密なアンサンブルの中に当てはめています。もちろんこういう境地はリムスキー=コルサコフに仕込まれた管弦楽法を基礎としているに違いありません。

 調性はニ長調であり、これはヴァイオリンが弾きやすいものであると考えられます(ヴァイオリンの4本の弦はそれぞれ下からG、D、A、Eに調整されているから)。ニ長調の中心音はDであり、『交響曲 変ホ長調』の中心音のE♭とは半音しか違いませんが、ずっと硬質な響きを感じます。変ホ長調は「♭×3」であり、ニ長調は「♯×2」であって、お互いに逆のセンスを持っています。個人的には♭が多くなるほど柔らかさと重さを感じ、♯が多くなるほど硬さと軽さを感じます。気のせいかもしれませんが……。

 通常の協奏曲(3楽章構成)とは異なり4楽章構成ですが、第2および第3楽章はそれぞれ「Aria(詠唱) I」「Aria II」となっているという謎めいた仕立て。謎めいたといえば、第1および第2楽章の始まり方が非常に似通っており、そちらも気になる仕掛けになっています。



 ヴァイオリン協奏曲の第4楽章。ヴァイオリン演奏はギル・シャハム、指揮はドホナーニ。3:46からはソリストとコンサートマスターの二人でソロという聴きどころ。4:53からは原始主義時代の音楽に接近しています。5:31からのソロヴァイオリンと伴奏の絡みはいかにもストラヴィンスキーの音楽。

 ロシア的な土臭さと芳醇な響きを持った『交響曲』と、(当時の)パリ的な軽妙洒脱さと機能美を備えた『協奏曲』。ちょっと聴いただけでは同じ作曲家の作品とは思えませんが、根底には共通して「音楽を構成したい」というストラヴィンスキーの美学が存在しているのです。


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