荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』 アレックス・デ・ラ・イグレシア

2015-10-11 20:16:16 | 映画
 前作『スガラムルディの魔女』(2013)が素晴らしかったスペイン、バスク地方出身のアレックス・デ・ラ・イグレシアの最新作『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』が、ラテンビート映画祭(新宿バルト9)で上映された。グロテスクなスパニッシュホラー性は濃厚に残しつつも、前作のバスク色、民俗色は薄まり、いつものデ・ラ・イグレシアの、アルモドバルから文学性を除去した俗悪なバラエティ色がふたたび浮上している。
 大晦日特番を収録中のテレビ局で起こる、猥雑、俗悪、錯乱うずまくグランドホテル形式による一晩の乱痴気騒ぎである。テレビ局の表では、解雇された社員たちのデモが暴徒化し、公安部隊と市街戦となっているため、スタッフも出演者もエキストラも外に出られない。だから、延々と派手でくだらないショーの収録を繰りかえしている。
 スペインの国民的歌手ラファエルが40年ぶりに映画出演し、狂い方にも圧倒的な貫禄を見せる。最後のピストルの連射シーンなど、さすがのエレガンスである。彼が若手人気シンガーを懲らしめるために、綿棒で眼球をこねくり回すグロテスクなシーンは、ルイス・ブニュエル『アンダルシアの犬』だろうし、一同がまったく外に出られないというのはもちろん『皆殺しの天使』だろう。
 プロデュースは『スガラムルディの魔女』同様にエンリケ・セレッソである。この人は日本では映画プロデューサーとしてよりも、リーガ・エスパニョーラのアトレティコ・マドリーの会長としての方が知られているだろう。いつもアトレティコの試合をVIP席から観戦している落ち着き払ったあの人が、バスクの狂人デ・ラ・イグレシアと組んで、こんな下品な騒乱映画を製作している、というのがおもしろい。騒乱渦巻くテレビ局の名前が「メディアフロント」と名づけられていた。これはおそらく「メディアプロ」をもじったものだろう。昨シーズンまでリーガ・エスパニョーラの放映権を独占した「メディアプロ」は、ウディ・アレンやブライアン・デ・パルマのヨーロッパでの映画製作もサポートし、一大帝国を築いていた。エンリケ・セレッソとしては、「メディアプロ」がレアル・マドリーとバルサばかり依怙贔屓し、アトレティコはないがしろにされている、という怨みがあると思うので、映画のなかで懲らしめたのではないだろうか。