荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 ポール・トーマス・アンダーソン

2008-02-16 03:47:00 | 映画
 試写にて、ポール・トーマス・アンダーソンの最新作、ダニエル・デイ=ルイス主演の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を見る。
 20世紀初頭にカリフォルニア中部で石油を掘り当てた山師の栄光と退廃を一気呵成に見せる大河ドラマで、デイ=ルイス演じる主人公は、アメリカ国家そのものの権化のような存在。タッカーとは比べものにならないぐらいに狂っている。
 いや、これは久しぶりに凄まじいものを見せてもらった。こういうものを見せつけられると、自分の生の貧しさをまざまざと思い知らされたような気がして、身が持たぬ。こういう狂った映画がそうそう目の前に現れてもらっては困るのだ。ディズニー社とて柄にもなく、思いきった物を作ったものだ。

 P.T.アンダーソンというと『ブギーナイツ』『マグノリア』など、長尺フィルムの重厚さの中にも、軽さで乗り切ってしまおうという勢いがせめぎ合いつつ、かえって重厚さを補強しているような感覚があって大好きな映画作家ではあったが、しかし迂闊にポップだなあと感じてしまう点もあった。
 ところが、今度の作品はもっと歪んでいて、いきなり鬼畜みたいな奴がハンマーでこちらの頭を殴りかかってくるような危なさが、全シーンに張り付いてしまっている。ジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)の手になる映画音楽も、『シャイニング』みたいに怖ろしい響きだが、やけに気品がある。スクリーンに目を投じている間に抜けないこの不吉な感覚は、青山真治の映画を見ている時の危険シグナルに近い。


G.W.より日比谷シャンテシネ他全国で順次公開予定
http://www.movies.co.jp/therewillbeblood/


P.S.
鑑賞後も仕事に励み、深夜タクシーにて帰宅すると、大寺眞輔さんから本作絶讃のメールが届いている。残念ながら会えませんでしたね。お互い茫然自失だったのでしょうか? 出口付近で配給会社の人に捕まっている樋口泰人さんには挨拶したのですが。