語りつぐ人びと*インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年
冤罪事件で有罪とされると、その人の人生は、それで翻弄される。時間がたってから無罪とされてもその人の人生は取り戻すことができない。裁判で一審と二審の判決がまったく正反対になることも多い。ただ、昔話で裁判?になると 明快な判決がでる。
商売物の綿がネズミにかじられないように、四人の商人が共同で猫を一匹かっていました。四人は猫の足を一本ずつ自分の持ち物とし、思い思いの飾りを猫の足につけていました。
あるとき、その猫が一本の足に大けがをしてしまい、その足の持ち主は、傷の手当てをし、油にひたした布を傷の上にまいてやりました。ある日のこと、商人たちが商いに出かけたとき、猫がかまどのそばで、じゃれはじめました。そのうち運悪く、足に巻いた布に火がついて、綿のしまっている倉庫に逃げ込み、猫は助かりましたが、倉庫にあった綿は全部灰になってしまいました。
商人たちは、綿が灰になっているのをみると、けがをした足の持ち主が、損害をつぐなうようよう法廷に持ち込みました。けがをした足の持ち主は、猫は畜生で、分別がない、猫もやけどで苦しんでいる、損害は四人が力を合わせれば、もとどおりにすることができると、申し立てます。裁判長が、この男の言う通り四人で力を合わせ、受けた損害をうめる気はないか、尋ねますが、三人はあくまで責任をとるよう声をそろえて申し立てます。
裁判長は、けがをしていた足が一本だけだったことを確認すると、次のように判断をくだします。猫は、残りの三本の足で、かまどのそばに歩いていき、それで布に火がついたことになる。じょうぶな三本の足の持ち主のほうが損害をつぐなう責任がある。したがって三人が、けがをした足の持ち主に損害を支払うように。
猫の足を一本ずつ持ち合うのは理解しがたいのですが、それだけネズミの被害に悩まされることが多かったことを思わせます。