どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

こじき王・・インド

2023年11月19日 | 昔話(アジア)

  人になりそこねたロバ/インドの民話/タゴール暎子・編訳/ちくま少年図書館67/1982年

 

 ある王国の王さまの楽しみは、狩りにいくことでした。この王さまが狩りにいったとき、あまりに夢中になりすぎ、一行からはぐれて、森の奥にとりのこされてしまいました。

 夜になり雨が降って冷気があたりに漂いはじめました。王さまは助けを求めましたが、ふかく暗い森は、ジャッカルのほえ声いがいはなにも聞こえません。やっと小さな村で一軒の家に宿を頼むと、年老いた農夫は、あたたかくむかえてくれました。あくる朝、王さまは農夫が手入れしてくれた馬にのって都にかえりましたが、別れを告げる前に、一片の紙切れを農夫にわたしました。そこには、何か困ったときは都へきて、この紙を城の門番にわたすようにとかかれていました。

 数年が過ぎたある夏。日照りが長く続き、村じゅうは大変な苦しみでした。穀物は枯れ、家畜はうぎつぎに死んでしまいました。やがて農夫は、ふと旅人がくれた紙切れのことを思い出し、村人を救いたい一心で、紙を片手に、遠い都をおとずれました。

 農夫は、いつかの旅人がチャムダンパ神に祈りをささげているところでした。旅人が王さまと気がつき、農夫は腰を抜かさんばかりに驚いてしまいました。

 王さまは、大声をはりあげ祈っていました。「おお、母なる女神さま、あなたのご加護を心から感謝いたします。でも、これではまだ十分とはもうしません。わたしは、この世のすべての富、すべての幸福がほしいのです」

 王さまの祈りを耳にした農夫は、ゆっくりとそのあとをあとにしました。そして、それまでたいせつに握りしめていた紙切れを城門の前で破り捨て、村へ帰っていきました。門番から紙切れを見せられた王さまは、なぜ自分に会いもせず帰ったのかと、不審がりました。そこで翌日、王自身が家臣を連れ農夫に会いました。

 「王さま、あなたさまほど、この世の富にめぐまれておいでのおかたはありません。それなのにもっと恵んでほしいと女神さまにおねがいになっていられます。わたしはまずしい村のために、今日、明日の食べ物を恵んでいただきたいと思い、あなたさまのお力をお願いにまいったのです。でも、王さま、あなたさまは、わたしずっと上手のおこじきさんでございます。そのような方から、食べ物をいただくわけにはまいりません。」

 農夫の言葉を聞いて、あっけにとられ、声も出ません。やっと落ち着きをとりもどすと、王さまは低く頭を下げ、「そなたのことばで、目がさめた思いがするぞ。いたく恐れ入った」と、申され、数日後牛車に積んだ山のような穀物、野菜、果物が村へとどけられました。また、この村ばかりだけではなく、ほかの村にも、おなじような牛車の列がつづきました。


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