岐阜のむかし話/岐阜児童文学研究会編/日本標準/1978年
富士山をつくったという巨人伝説。
美濃と近江の国境に、ただぼっさんという大きな男がおったそうな。背の高いことは星空にとどくようで、こしの太いことは、百艘の船の帆をまいても、まききれんほどじゃっだぞ。
北のほうからふいてくる寒い風に、ただぼっさんが、「どっこからふいてくるだ」と聞くと、風は、ひろい海をわたってふいてくるとこたえた。
南のほうからふいてくる風にも聞くと、「お日さまのま下の、あついあついすな原から、ひろい海をわたってふいてくるだよ」という。
ただぼっさんが、海ってどこにあるだかと、みまわしても、どこにもみえない。おかのうえにあがってみても、それらしいもんは見えない。とうとう駿河の国まできて、はじめて海を見たが、いくら眺めても海のむこうは、かすんでいて見えなかった。
ただぼっさんは、海のむこうをみたいと、近江の国から土を運んで山を作り、のぼってみたが、海はひろびろとして、そのむこうには なにもみえない。
もっともっと高くしなきゃと、せっせと土をはこび山をつくり、やがてその山は、雲の上に頭をだすようになった。
この山が、富士山で、土をとったあとは琵琶湖になり、もっこからこぼれおちた土が伊吹山になったんだと。
ただぼっさんは、晴れた日に、富士山の上に顔をだすというが、これまでみたものは、だあれもないんだとさ。
巨人の大きさの比喩もさまざま。ただぼっさんも、じつに壮大です。