勇敢なアズムーン アムール地方のむかし話/D・ナギーシキン・作 G・バヴリーシン・画 大橋千明・訳/リブロポート/1991年
昔話をもとにした創作とありました。再話との違いが微妙です。もとになっているのはアムール川流域にすむ少数種族のむかし話ですが、アムール川は、ロシアと中国との国境をながれている世界十番目の大河。1991年の発行ですが、ソ連が出てきて隔世の感があります。
継子が、母親のいじめを次々に乗り越えていきます。
女の子エリガーを助けてくれるのは、父親がつくってくれたおもちゃ。さらにシラカバ、シダも。
猟師の父親が、猟の最中にトラにころされます。人間の血の味を知ったトラが、集落のブタやトナカイ、イヌをさらいはじめます。継母から新しいチュマーシカをつくるため、シラカバの皮をはいでくるようにいわれたエリガーは、トラと遭遇し、一度は「去れ」といいますが、またとびかかったので、二本のシラカバが、トラをはさみつけます。エリガーは槍でトラを退治し、しっぽを切り取り集落にむかいます。
集落の人々は、天幕をとりこわしていました。エリガーが「トラはもう来ない」と、トラのしっぽをみせると、最長老が、「亡霊が夜な夜な集落に現れ、みんな殺されてしまう」といいます。ところが、エリガーが「トラにたちさるようにたのんだが、トラは耳をかさなかった」というと、「そうか、それなら話が違う」と、別の土地に移ることやめることにしました。
エリガーが長上着に刺繍をすると、継母は「最初からやりなおし、もっと色鮮やかに、もっと工夫をこらせ」と、どなり、ののしります。川の岸でエリガーが泣いていると、シダや、花や草が、長上着のうえに、誰も見たことのないような美しい模様が出来上がります。集落には、刺繍の上手な人がたくさんいましたが、エリガーの長上着の模様をみて、うらやましさとおどろきのあまり口をぽかんとあけました。
エリガーにはらをたてた継母が、「トナカイの毛で刺繍をした長上着がほしい!」と、いいだします。夏のことで、この時期のトナカイの毛はみじかくて、刺繍はできません。エリガーが泣きだすと、父親が作ってくれたおもちゃのトナカイが、どんどん成長し、ふさふさした毛を、からだから振り落とし、すぐに小さくなってしまいます。それでも気に入らない継母は、たどりつくのに数日はかかる集落まで行って、おばあさんから針をもらって、次の日の朝までもどってくるようにいいます。
こんどは、父親が作ってくれた、そり用の一組の犬が、おばあさんのいる集落までおくりとどけてくれます。病気でふせっていたおばあさんに、チョウセンニンジンの根を食べさせると、おばあさんは元気になり、継母からたのまれた針をだしてくれます。ただ、針をわたすときは、めど(針の糸を通す穴)を自分のほうにむけるよう注意します。
エリガーが、針の先を継母に向けわたすと、針は指の間をいききしはじめ、指と指をぬいあわせてしまいます。父親が作ったおもちゃがエリガーをたすけていることに気がついた継母は、おもちゃを火の中に投げ込みます。助かったのはイヌいっぴき。
エリガーとイヌが逃げ出すと、継母は、あとをおいかけますが、小道で足をすくわれ、川におちてしまいます。その瞬間、継母は、小さな槍をエリガーになげつけますが、こんどは、槍が、「では、さようなら、ちいさなご主人さま! もうおわかれです!」と叫ぶと、継母のところまでとんでいきます。
創作とは言いますが、まさに昔話の世界。母親はフクロウになり、娘とイヌは、月にすむようになります。