真夜中のまほう/文・フィリス・アークル 絵・エクルズ・ウイリアムズ 飯田佳奈絵・訳/BL出版/2006年
村のそれぞれのやどやの看板には、マガモ、ライオンとヴァイオリン、人魚、ユニコーンが描かれていました。
マガモは二百年もの間、看板の絵としてじっとしていましたが、ある夜、遠い「ウサギと猟犬のおやど」からきたウサギから真夜中の十二時の鐘が鳴るときだけは、だれでも動くことができるといわれ看板からぬけだします。生まれて初めて池で泳ぐのに少しづつ慣れてくると、モリフクロウがカエルやドブネズミ、魚をよんでくれました。
モリフクロウは、「ここに巣を作って、わしらといっしょにいたらいい」といいますが、マガモは、看板の仕事にほこりをもっていて、これをことわります。そして宿にまつわる秘密を話します。昔泊まった一人の兵士が小包を宿の主人に頼んでいったが、その兵士はかえってきませんでしたし、宿の主人も、そのことはだれにも打ち明けないまま死んでしまいました。その小包は絵で、普通の絵のように見えますが、じつはその絵の下に、別のすばらしい作品が描かれているというのです。
にわとりが鳴き始めるとほぼ同時刻に、マガモは看板のもとの場所に戻りますが、いつもとちがった方向におさまります。そのことに気がついたのは毎朝五時半きっかりにマガモの宿を通るダンでした。宿の主人ショートさんに知らせますが、ショートさんは、ばかげた話だと、相手にしませんでした。
次の夜、モリフクロウがつれてきのは「ライオンとヴァイオリンのおやど」のライオン。ところがライオンはヴァイオリンはひけません。ライオンは、ご主人のハーストさんが、たくさんの借金をかかえていることを話します。宿がなくなったらライオンも仕事を失います。
ダンが看板のライオンのしっぽが、看板の下に垂れ下がっているのに気がつき、ハーストさんに話しますが、寝ているところを起こされたハーストさんは怒鳴ります。ダンは、だれも自分をしんじてくれないので、がっかりします。
次の夜、モリフクロウが人魚を、次の夜には看板に百五十七年ほどいたユニコーンを連れてきました。ユニコーンは、二人の男が手紙と地図をみながらマガモのやどの絵をねらっているのを聞いていました。明日の夜、公民館でダンスパーテイがあり、観光客も含め、とにかく村中の人が招待されている隙をねらっているようでした。
みんなは協力して泥棒を追い払う相談をはじめ、モリフクロウが作戦をたてます。看板にはいるとき、いつもとちがう看板に入ることにしたのです。
泥棒は看板をめあてに、あれこれ物色しますが、目的の絵は見つからないばかりか、井戸の底に落ちてしまいます。叫び声を聞いてやってきたのはダンでした。人がだれかをだますなんて、疑ったことがないダンは、泥棒たちから、誰かを呼んでここに閉じ込められているのを伝えてくれとお願いされますが、「だれもぼくの話なんか聞いてくれないよ」と、いいます。
ダンはそこから去ろうとして井戸の壁の穴に気づきました。そこには四角いブリキの箱があり、中身をとりだしてみると、お札の束と、金貨、なにやら大事そうな書類もでてきました。
今度は証拠があるので、自分の言うことを信じてもらえるとおもったダンがハーストさんに言うと、ハーストさんはたくさんの借金をかかえていましたから大喜び。
次の日、ミッドナイト・イン・サイン・クラブ(というのはモリフクロウがつけた名前でしたが)のメンバーは、音楽会の前にひと泳ぎ。これをみていたのはダンでした。翌朝ダンはそれぞれの看板に話しかけて仕事に向かいます。
村にしては宿屋が多いのですが、観光客や旅の途中の宿泊客が多かったのでしょうか。いずれも長年営業して由緒ある宿屋。宿屋が看板にある動物などの名前でよばれているのもユニーク。
年寄りで知恵のあるフクロウ、話を信じてもらえない男の子ダン、人魚やユニコーンなど登場するキャラクターも多彩です。