黄色い星/文・カーメン・アグラー・ディーディ 絵・ヘンリー・ソレンセン 訳・那須田 淳/BL出版/2021年初版
第二次世界大戦で、ナチスに占領されたデンマークの宮殿にも鍵十字のナチスの旗がかかげられます。
デンマーク国王・クリスチャン10世国王は、兵士に命じて敵の旗をおろさせます。ナチスの将校がもういちど旗をおろすと、その兵士は銃で撃ち殺される運命にあることをつげます。すると国王は、「あなたはわたしを銃で撃ち殺すというのかね?明日旗を降ろす兵士は、このわたしだからな」と、こたえます。
その日から、ナチスの旗は、二度と宮殿にひるがえることはなかったという。
このあと、ナチスは、「すべてのユダヤ人は、黄色い星の印をどんなときでも見えるよう、自分の服にぬいつけなければならぬ!」という命令を下します。
ユダヤ人といっても同じデンマーク国民、ほかの国民とは、神さまへの信仰の方法が違うだけです。悩みぬいた国王は、星空をじっとみあげ、自分のとるべき行動をきめます。
「牛は群れのなかに、人は兄弟姉妹のなかに、星は星のなかに」
服の仕立て屋をよび、服が出来上がると、いつもように一人きりでコペンハーゲンの町に出かけました。
王さまの胸の印を見た人々も、すぐに自分たちがすべきことがわかり、おなじように黄色い星をつけたのです。
ユダヤ人以外が黄色い星をつけてはならないという命令でないことを逆手にとったものでした。
ナチスに占領された国々のなかで、デンマークにすんでいたユダヤ人たちの98%は生き延びることができたといいます。
国民から信頼され、ナチスに抵抗し人びとを守ったクリスチャン10世のさまざまな伝説にもとづいた絵本。危機のとき誇りを失わず断固として立ち向かえるのも、人々の支持があればこそ。ここには、本当に必要な国のリーダー像がありました。