どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

ガンのこ石・・石川

2024年02月10日 | 昔話(北信越)

        石川のむかし話/石川県児童文化協会編/日本標準/1977年

 

 石川県珠洲市のお話。ガンはカニのこと。

 夕方になると、深い谷の上の村にたびたび不思議なことがおこった。人がとおると、7つか八ぐらいの男の子が出てきて、十歩ほど先を、右へ左へちょこちょこ歩いていく。走って追いつこうとすると、小走りで先へ行き、こっちがゆっくりと歩くと、向こうもゆっくり歩く。おかしなことと思うとると急に気味が悪くなって、からだがぞくぞく寒くなってくる。男の子がひょいと振り向くと、口のまわりをあわだらけにして目玉のとび出た化け物のよう。村のもんは、この話を本気にしなかったが、そのうち小さい子どもがさらわれたという話がつたわると、もう谷の上の村の者は、だれも通らないようになった。

 さわぎがおこっているとき、えらい坊さまがやってきて、この話を聞き念仏をとなえていのっているうちに、この化け物は、昔から能登のあちこちでいたずらをして追い出された甲羅にコケのはえている大きなガン(カニ)であることがわかってきた。このえらい坊さまは、村のもんをあつめて、このガンの話をした。

 このガンはもとは珠洲のでっかい寺にすみついて、旅の坊さまがたずねてくると、問答をしかけ、答えにつまると、大きな指で、ほっぺたをチョキンとつまみあげ、口中あわだらけにしてにたにた笑うので、どの坊さまもひと晩でにげたという。ある年、月庵というえらいぼさまがきて、「おまえはガンであろう。正体をあらわせい。」と大声で叫ぶと、さすがのガンも、すたこらと寺をにげだし、すがたをけしたという。

 話が終わると、この坊さまは、ガンのすんでいるふかい谷へひとりででかけ、このごろ悪さがすぎる、もうやめろと 言い聞かせた。そして「この谷から一歩もでないと、約束するならおまえに、村が日照りで困ったときに、雨をふらせるふしぎな力をさずけてやろう。」といいます。
 坊さまとかたい約束をしたガンは、谷の深い水の中にもぐったかと思うと二度とそのすがたをみせることもなくなり、いつのまにかでっかい石にかわってしまった。そして村の者は、この話を聞いて、日照りのときにこのガンのこ石におねがいしようと、この石を谷の中にうごかさずにおいておいた。

 さて、ある年のこと、かんかんの日照りで、谷の上の者は、あのガンにおねがいしようとします。一方、谷の下の村は川の下にあり、池もあるのでちょっとの日照りには、びくともしない。ガンのこ石をほったら、百日の雨つづきになる、下の村の者は、水浸しやと、ガンのこ石をほることに反対します。上の村は、どうしても水が欲しい。いいぶんがかちあって、両方の村は、血の雨をふらさんばかりの大騒ぎになった。

 そのあと、どうなったかはわからんが、きっと百日の雨つづきではなしに、あのガンが 坊さまからあたえられたふしぎな力で、ちょうどいい雨をふらして、両方の村のあらそいごとをおさめたのではないかということや。

 

 調べてみると、珠洲市には多くのお寺がありました。今回の地震の影響は どんな状態でしょうか。