さじかげんだと思うわけッ!

日々思うことあれこれ。
風のようにそよそよと。
雲のようにのんびりと。

五十

2007-06-19 21:49:17 | 『おなら小説家』
恵美はようやく日本に着いた。
一週間のつもりが、急なことで三日ほど延長してしまった。そのことは、電話で伝えたはずだが、どうも草田男の様子がおかしかった。
ほんの些細な変化に気がつかない恵美ではない。
しかし、すぐに帰るというわけにはいかなかった。引き受けてしまったあとに連絡したのは、恵美の落ち度だった。
うかつだった。
彼女は、草田男が一人で生きているだろうと思いこんでいた。しかし、そうではなかったのである。
それに気がついたのは、滞在延長の連絡をしたあとだった。
それを表に出して心配するほど単純ではない恵美は、今日まではらはらしながらも勤めを終えて、日本に帰ってきたのであった。

家に着いた。
心は落ち着かないが、動作はあくまでも平素を装う。
ただいま、と玄関を開けても、出迎えはない。
恵美はどきりとした。
草田男が出迎えをしないことは珍しいことではないのだが、事情が事情だけに、そんな心持ちになったのだった。
玄関をあがり、荷物をとりあえず居間に置いて、奥の草田男の書斎に行く。
こんこんと戸を叩いてみるが、返事がない。また、どきりとする。
取っ手を回し、押し開ける。
そこには、ひたすら机に向かう草田男の姿があった。
いきなり入ってきた恵美に、やっと気がついた草田男は、おお。おかえり、と一言述べたきりであった。
恵美は、そんな草田男の様子を見て、ほっと胸をなで下ろしたのだった。

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