さじかげんだと思うわけッ!

日々思うことあれこれ。
風のようにそよそよと。
雲のようにのんびりと。

三十九

2007-03-06 23:42:06 | 『おなら小説家』
どうでしたかと、恵美は尋ねた。
草田男は言葉に困っていた。
表向きの装飾技術はかなりの進化を遂げていた。きっと、それなりの努力を要しただろう。試行錯誤を重ね、多くの本を読んだのだろう。
自分の志向する分野の作品ばかりでは、これほどの深みのある文章は書けなかったであろう。
創作だけでなく、記録物や劇脚本も数多く読んだことであろう。
しかし、彼の視点はつねに外見的なものに向いていた。なかなか奥深くにあることを見抜けないでいた。
つまり、彼の周りにはそれを教えてくれる人がいなかったということでもある。
彼の文学の探検は、常に相棒のいない孤独なものであった。
草田男は、彼の作品には読者がいない、といって温牛乳をあおった。

立起の芍田川賞受賞を受けて、報道機関は一斉に彼を取り上げた。
中でも彼が高校時代に謎の作家、小奈良燃圓に教えを請うていたことが明らかになると、その騒動は燃圓にも飛び火した。
しかし、作家・燃圓は立起のすべての力を認めていたわけではなかったので、立起に関する声明は出さずにいた。
立起もまた、燃圓に対して口を出さなかった。
報道各社は、なぜ師弟に当たるこの二人が無関心を装うのか、推理を重ねたが当の本人たちが正解を明かさぬのだから、当たっているのかそうでないのかはわからなかった。

そんな中、草田男は近々、桂木金五郎氏と会う約束を取り付けた。
日本推理小説界の重鎮である桂木氏に、いろいろと尋ねたいことがあった。
まず、立起の作品の評価について。
なぜ、芍田川賞の候補に選ばれるほどの作品と作家が、自分の耳に入ってこなかったのか。
聞きたいことは、たくさんあった。

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