さじかげんだと思うわけッ!

日々思うことあれこれ。
風のようにそよそよと。
雲のようにのんびりと。

五十三

2007-08-13 21:03:32 | 『おなら小説家』
草田男は愕然として、呆然としていた。
今、金五郎氏のあとを継ぐのはお前だと言われても、はい、がんばりますなんとは言えない。
同世代の推理小説仲間の中では、圧倒的な技量を備えているとはいえ、まだ金五郎氏と肩を並べるほど功績を残しているわけではないし、その自負もない。
第一、そんなことを考える余裕がないほど、草田男は落ち込んでいた。
新聞社や出版社から追悼文の依頼は、なるべく受けるようにした。
辛口で知られた金五郎氏が唯一、諸手を挙げて認めた作家が草田男こと燃圓であったのだ。
だからこそ、追悼文を書かなくてはいけないと考えていた。
求められれば、テレビ局にも手記を寄せた。
そんな報道陣の追悼攻勢は、二週間にも及び、その間の草田男は目の回る忙しさであった。
葬儀でも金五郎氏の棺を担ぐなどして、故人を偲んだ。

金五郎の死から、ちょうど一年が過ぎた。
稀代の推理小説家である桂木金五郎が死去して一年が経ち、文壇でも金五郎が残した功績を、きちんと評価しようという動きが起こったのである。
元来、そういうことがあまり好きではなかった草田男は、これに関してはあまり関わり合いにならないことを決めていた。
恵実の方にも、これだけは言い含め、金五郎に関する仕事に関しては、内容をよくよく吟味するようにいっておいた。
それに、死した作家に対して、同じ職業である自分があれこれと言える立場ではないとも考えていた。
それは、作家の仕事ではない。
学者の仕事である。

ところが。
そんな草田男を、無理矢理、批評の場に引きずり出す事件が起きたのである。

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1 コメント

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面白い。 ()
2007-08-14 00:47:23
この小説は何がいいって、いつも最後に次の展開が見え隠れするところだよ。さながらNHKの連続テレビ小説のようだ!
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