S家の別宅

夫婦ふたりきりになりました。ふたりの生活をこれから楽しみたいなと思います。

沈黙の表現

2008-06-16 17:10:34 | Weblog
日曜日の夜、NHKの教育テレビで、映画監督アンジョイ・ワイダ「祖国ポーランドを撮りつづけた男」という番組を見ていた。

ポーランドは苛酷な歴史を持った国で、そこで自由に映画を撮る事は絶対にゆるされなかった。
ワイダ監督の有名な作品「灰とダイヤモンド」も「大理石の男」も厳しい検閲を経て創られた映画だ。
スターリン時代のソ連は映画を政治的プロパガンダとしか扱っていなかった。


それでもワイダ監督はその自分の作品のなかに、観客はきっとわかるという確信を持って、反政府的、反権力的なメッセージを映像で表現した。
彼はこう言っていた。
「権力は言葉ばかりを気にする。言葉でしか成り立っていないからだ。そしてわたしは沈黙(映像)で表現するのだから」

人間は思いこんだ方向でしか、ものを見ないし、考えないのだな、と思った。
社会主義というものに染まった検閲官には、自由を表現した映像はそういう風には見えないのだ。
けれど、映画を見る観客は違う。
先入観がないから、素直に映像が心に映り、その感動が胸に入ってくるのだ。


彼は「カティン」という映画を撮っている。
監督のお父さんは第2次世界大戦のドイツとソ連に占領されたポーランドの将校で、カティンの森で虐殺された。

その慰霊碑には今もナチスドイツによって殺されたと記されているけれど、真相はソ連によって虐殺されたのだ。
そういう真実も何十年もポーランドの人たちは言えずに生きてきた。

ワイダ監督は今、そんな真実を映画にし、そしてそうして生きてきたポーランドの人々を描いている。
彼は祖国をとても愛していた。

歴史に翻弄されて生きる人々はこの世界にたくさんいる。

いろんなことを考えた番組でした。