前回の話、「生き埋め」という地獄絵のようなタイトルにギョッとされた方も多かったと思います。地中に埋められた2匹の子猫、だいちゃんとちいちゃんはまさに地獄の中で必死に鳴き続け、その声がたまたま通りかかった、それまで猫とは無縁だったとんとんさんの耳に入ったのです。声が届いたことも奇跡。その声を聞いた主が、後先考えずに急いで掘り起こすという慈悲深い人だったことも奇跡でした。
素晴らしい人と出会うという奇跡。さらにもう一つの奇跡は、とんとんさんと猫たちの満ち足りた生活が20年以上も続いたことです。世の中には悪魔のような人がいるのも事実。そして前話の2匹と違って、不幸で過酷なままの生涯を終えた猫たちも数知れない。すべてのノラたちがとんとんさんのような優しい人と巡り会って幸せになれるように願って止まないし、またそういう社会を作っていければとつくづく思うのです。

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さて、今回はまた佐竹茉莉子さんの登場。前話に続いて猫と心優しき人たちが起こした奇跡の物語です。ネットやSNS上にはノラを保護して人も猫も幸せになった話が5万とある。それらの殆どは一人称、つまり自分の経験や心情を書き下ろしたもの。それに対して佐竹さんの話は、何度も足を運んで綿密な取材に基づいた実話です。なので佐竹さんの猫や人に対する見方がそのまま反映されている。佐竹さんの物語に魅せられるのは、その見方が言い表せないほど深い猫愛に満ちているからではないでしょうか。
昨秋発売された佐竹さんの新刊「猫は奇跡」。猫たちが起こす奇跡にまつわる17編のお話です。いくつかの話は猫専門サイトが概略(編集して短編にしたもの)を紹介しているので、その中から選びました。とある建設会社を舞台にした話で、佐竹さんご自身がブログの中で次のように紹介しています。
『妹を守って大きな猫に何か所も咬まれたのりしおくんが、ぼろきれのように横たわっていたのは、建設会社の資材置き場。建設現場の男子たちの「生きろ!」という思いに、のりしおくんは懸命にこたえようとします。 』
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Back No.
第1話 「飼い主を亡くし野良になった母猫 ボロボロの姿に『幸せにしたい』とさしのべられた手」
第2話 「お日様はあたたかいって知った」7年間も閉じ込められた母猫、病魔に倒れるも幸せつかんだ最期の日々
第3話 「ヨロヨロの野良猫「困ったらおいで」 すると翌朝わが家に現れた (庭猫スンスン)
第4話 海辺の街に捨てられ、漁師たちに可愛がられた猫の「最後の日々」
第5話 最後の力を振り絞って子猫を託しにきた母猫、保護主のもとに運び終わると……
第6話 河川敷に餌をもらいに来ていた白猫「シロ」 ふたりのおじさんに愛され、生き抜いた
第7話 もうすぐ28歳!路地の人気者、黒猫「ぴーちゃん」 地域猫として町の人に見守られて
第8話「母の愛」は炎より強い!全身やけどを負って子猫を助け、伝説になった母猫 米国
第9話 ①「猫の神様」がくれた生きる力、後ろ脚なくても生き抜き天国へ…その名は今も“二代目”に受け継がれ
②下半身不随の猫「らい」が“家族”に与える笑顔。認知症犬「しの」と過ごしたかけがえのない時間 ・他
第10話 路地でクルクル回っていた全盲の子猫 あるがままの自分を生きる
第11話いったい多摩川でいま何が起きているのか?棄てられ、虐待される猫たちの現実をまず知ってほしい
番外編 新宿東口の巨大猫の話
第12話「出来ることを。。。」痩せ細り、道路に横たわっていた小さな猫 温かな腕の中で、命は確かに瞬いた
第13話「癒し猫 上・中・下」入居者に寄り添い続けたトラ 最期は入居者と職員に抱きしめられて天国へ
第14話「愛猫と暮らしたい上・中・下」ホームに一緒に入居し、大好きな"お母さん"に抱かれて旅立った祐介君
特別編 超大人気だった過去の猫ブログ感想「ジュルのしっぽ ー猫日記ー」(前編)
特別編 超大人気だった過去の猫ブログ感想「ジュルのしっぽ ー猫日記ー」(後編)
第15話 生き埋めにされた子猫、21年の猫生を駆け抜ける