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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『シークレット・インベージョン』

2023-08-06 | 海外ドラマ(し)
 サミュエル・L・ジャクソン、ベン・メンデルソーンら常連組に加え、オリヴィア・コールマン、キングスレー・ベン・アディル、そして我らがカリーシことエミリア・クラークがMCUに合流。監督は傑作現代西部劇『すべてが変わった日』のトーマス・ベズーチャという顔ぶれに、MCUに愛想を尽かしていた筆者は一縷の望みを抱いた。だが蓋を開けてみればベズーチャは撮影開始前早々に降板(危険な企画を避ける才覚あってこその寡作なのだろう)。度重なる再撮影に製作費はなんと2億ドルを超え、『シークレット・インベージョン』はこの類の例外になく大失敗に終わった。

 『キャプテン・マーベル』で初登場したスクラル人。自在に姿を変える“シェイプシフター”である彼らは住むべき星を失い、現在に至るまで地球に残り続けてきたことが明かされる。新天地を約束したニック・フューリーのもと秘密工作に従事してきた彼らだが、人類に使役し続ける指導者タロスに若手グラヴィクが造反。世界各国の首脳にすり替わり、第3次世界大戦を引き起こそうとテロを起こし始める。

 トカゲのようなスクラル人のデザイン(90年代を舞台にした『キャプテン・マーベル』でこそ成立したチープさ)に懐かしや往年のTVシリーズ『V』が頭をよぎり、『Mr.ROBOT』のショーランナー、カイル・ブラッドストリートの脚本は何やら公民権運動、パレスチナ問題、ウクライナ紛争、イラン・コントラ事件などをモチーフにしているようにも見えるが、登場人物が神妙な面持ちで話すばかりの本作はほとんど何も描いていないと言っても過言ではなく、監督アリ・セリムもそんなブラッドストリートの脚本を只々撮るばかりだ。アクションシーンは何とも締まりがなく、豪華俳優陣はその才能を少しも発揮していない。エミリア・クラーク演じるガイアのチート設定はMCUがカリーシを迎える三顧の礼として当然ではあるものの、現代サスペンスと相性が悪いことを改めて証明してしまっている。『あの夜、マイアミで』でマルコムXを、次作『Bob Marley: One Love』ではボブ・マーリーに扮する気鋭の演技派キングスレー・ベン・アディルには最終回でとんでもない演出が施され、ほとんど目も当てられない有様だ。こんな仕上がりで11月公開『マーベルズ』を期待して待てと言われても土台無理がある。何より不誠実なのは映画版から出演し続けているレギュラーへのあまりにもお粗末な退場方法で、いや、むしろ早々にMCUと手を切る方が彼らのキャリアにとっては良かったのかもしれない。

 そんな中、唯一画面を活気づかせているのがオリヴィア・コールマンで、『フリーバッグ』の継母よろしくのマイペースさでMI6の極悪スパイを怪演。旬の名優は何をやっても損をしないのである。
 

『シークレット・インベージョン』23・米
出演 サミュエル・L・ジャクソン、エミリア・クラーク、キングスレー・ベン・アディル、ベン・メンデルソーン、オリヴィア・コールマン、コビー・スマルダーズ
※ディズニープラスで配信中※

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