長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『シー・ハルク:ザ・アトーニー』

2023-08-05 | 海外ドラマ(し)

 『シークレット・インベージョン』の惨憺たる仕上がりに「あぁ、MCUは今、底の底にいるんだなぁ」と思ったが、よくよく考えてみれば忘却の彼方にあった1年前の本作で既にMCUはドン底だったし、潔いファンはとっくに見切りをつけて「注目作だけ掻い摘んで見ればいいか」というフェーズに移行していたハズ。そんな“アメコミ映画疲れ”は万国共通の様子で、今年の全米サマーシーズンでは良作『ザ・フラッシュ』が巻き添えを食って撃沈というのはもう涙も出ない。

 ブルース・バナーの従姉妹ジェニファー・ウォルターズがひょんなことからブルースの血液を浴びたことで、ハルク化。ブルースは「怒りをコントロールするんだ」とマンスプレイニングするが、いやいやそもそも女はいつも怒ってるし、怒りをコントロールしているの!とジェニファーはハルク化したまま弁護士事務所へ出社する。出だしこそユーモアが効いているが、30分コメディシリーズとしての出来の悪さを“ヌルい、軽めの作品”と開き直った『シー・ハルク:ザ・アトーニー』は巧者タチアナ・マスラニーを不出来なCGで緑まみれにし、「スーパーヒーローの名前がヴィランに商標登録されて訴えられる」なんていくらでも面白くなりそうなエピソードを少しも発展させられていない。『キャプテン・マーベル』公開時にレビュー爆弾を落としたミソジニスト集団をボコボコにしてハイ終わり!で十分良かったハズだが、原作を踏襲して第4の壁を突破する終幕には目眩すら覚えた。本作の配信と時を同じくして発覚したVFXアーティストに対する過重労働問題をパロディにしたかのような悪ふざけが繰り広げられ、批評性の欠片もないユーモアに筆者はテレビに向かって「バカじゃね?」と声が出てしまった。これを傑作揃いの2022年に「PeakTVだからな」と自ら開き直る虚しさといったら…。原作ファンからは「ダメな時のマーベルコミックの感じが出ていいる」という(肯定的?)声もあるが、タチアナ・マスラニーはこんな作品に引っ張り出されて不憫としかいいようがない。


『シー・ハルク:ザ・アトーニー』22・米
監督 カット・コイロ、アヌ・バリア
出演 タチアナ・マスラニー、ティム・ロス、ベネディクト・ウォン、ジャメーラ・ジャミル、マーク・ラファロ
※ディズニープラスで独占配信中※

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