長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』

2023-12-30 | 映画レビュー(と)

 TikTokやインスタグラム等、SNSのショート動画に上げられるファニーで、しかし危険なチャレンジ映像の数々。ついつい見てしまう驚きや、「よせばいいのに…」と呆れてしまうこれらの中で、最近オーストラリア発のある映像が話題になっている。身体をイスに縛りつけられた若者と、眼の前には新聞紙で包まれたように見える石膏製の手。若者がそれを握り「TALK TO ME」「Let Me In」と唱えると、なんと霊がとり憑くのだ。ただし、制限時間は90秒。万が一、それを超えてしまうと…。

 そんな筋書きのソーシャルメディア時代を象徴するホラー映画が誕生したのはハリウッドではなく、オーストラリア。長編初監督作となる双子のフィリッポウ監督はなんとYouTuberだ。映画監督を目指してフッテージ製作を続けてきた彼らは一発アイデアに頼ることなく、実に手練れた演出でTikTokアカウントすら持っていないオジサンまで震え上がらせてくれる。全米ではA24の配給により2023年のサマーシーズンに公開。『ヘレディタリー』『ミッドサマー』を超え、同社の歴代ホラー作品最大のヒット作となった。

 主人公ミアは最愛の母を亡くしたばかり。死の真相は定かではなく、自殺であったと見受けられる事実に父は打ちひしがれ、遺された一家の絆は断絶した。親友ジェイドの家に入り浸り、日々をやり過ごすばかりのミアだが、周囲の目を気にする彼女はパーティーの場でも浮くばかり。そんな今宵のイベントは噂の降霊動画撮影で…。フィリッポウ兄弟の恐怖にはキリスト教圏では生まれ得ない、理不尽なまでの邪悪と人の悲しみに根ざした怪談特有の湿度があり、喪失の痛みをセルフケアできず、“手”に執着していく主人公のアディクトには、ベクトルは違えど子供のスマホ依存をホラーに転化した今年の大ヒット作『ミーガン』と並ぶ同時代性がある。ミアの陥る中毒はドラッグはもちろんのこと、度々命の危険に遭遇するSNSミーム作りも象徴し、それらの呪詛を高めているのは父親の弱さと、人知れず孤独を抱えた母の死なのだ(母子の不和というモチーフを煮詰め続けるアリ・アスターが本作を絶賛したのも頷ける)。主人公ミアの愛称がMeと同じ音の“Mi”とわかれば、タイトルの持つダブルミーニングに戦慄することだろう。

 ちなみにA24のオンラインストアでは劇中に登場する呪物ハンドを110ドルで買うことができる。
https://shop.a24films.com/products/talk-to-me-party-hand
こんな怖い映画見たら家に置けないよ!


『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』22・米
監督 ダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ
出演 ソフィー・ワイルド、アレクサンドラ・ジェンセン、ジョー・バード、オーティス・ダンジ、ミランダ・オットー

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