長内那由多のMovie Note

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『続・ボラット 栄光なる国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』

2020-11-04 | 映画レビュー(そ)

ヤグシュマシェ!
あのボラットが帰ってきた。陽気な人懐こさでアメリカ人の無知とヤバさをあぶり出したカザフスタン人レポーターが今度はトランプとコロナウィルスのアメリカに突撃する

 祖国カザフスタンの恥を晒した罪で強制労働を課せられていたボラットは大統領からの特命を受ける。トランプ陣営との友好を築くべく、貢ぎ物を持って渡米せよ。ターゲットは女好きの副大統領ペンスだ。かくしてボラットは娘トゥーターを土産に再びアメリカの地を踏む!

 14年ぶりの続編だけに予め書いておくと、これはイギリス人コメディアン、サシャ・バロン・コーエンの自作自演によるモキュメンタリーだ。多くの人が場所もロクに知らないカザフスタンの名を騙り、バカを装ってアメリカ人の本音を引き出すドッキリである。前作以後、長年続編を求められていた本作が突如、Amazonプライムから配信されたのはもちろん大統領選挙を狙ってのこと。コーエンはトランプその人はもちろん、ミソジニストやキリスト教原理主義者、Qアノンにトランピスト、さらには新型コロナウィルスまで徹底的にイジリ倒す限界突破ぶりである。さらに映画の後半ではコロナウィルスによるパンデミックが発生。おそらく感染拡大を受けて急遽、映画に取り入れたと思われるが、ソーシャルディスタンスなんてあったもんじゃない濃厚接触ぶりは自己最高の命の張り具合でかなりヤバい。そしてそのヤバさはマスクもしなければコロナも信じない、でも突拍子もない陰謀論は信じるアメリカ人の実態を炙り出すのである。コロナ禍を描いた最初の映画がまさかボラットになろうとは!

 だが前作の大ヒットとその後のコーエンのブレイクもあってか、さすがに面も割れてしまってなかなかドッキリが仕掛けにくい。今回は前作のような生々しさはやや控えめで、その代わりボラットの娘トゥーターに大きな見せ場が与えられている。いったいどこから見つけてきたのか、扮するマリア・バカロヴァ嬢はコーエンをも凌ぐ瞬間風速で何度も場をさらう。クライマックスはなんとトランプ陣営ジュリアーニ元NY市長にハニートラップを仕掛け、無垢でセクシーなトゥーターの腰にジュリアーニが手を伸ばし、ズボンのベルトを緩める瞬間を収めているのだ。是非はともかく、まず間違いなく訴訟モノであり、打倒トランプを掲げたコーエンの本気は尋常じゃない。

 全編、下ネタ、差別ネタのオンパレード。それでもテーマは「選挙に行けよ」と単純明快だ。コーエンは本作の前週、Netflixで配信された『シカゴ7裁判』にも出演し、そのオルタナティブな笑いと批評精神を改めて明らかにした。最後には今更な『ユージュアル・サスペクツ』パロディでコロナショックにもオチをつけているぞ(武漢ウィルスではない)。アメリカ国民以外も見ろ!


『続・ボラット 栄光なる国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』20・米
監督 ジェイソン・ウリナー
出演 サシャ・バロン・コーエン、マリア・バカロヴァ

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