長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ゴーン・ガール』

2019-09-26 | 映画レビュー(こ)

デヴィッド・フィンチャー監督のスリラー作家としての円熟を感じさせる会心の1本だ。これまでの彼の作品同様、ヒリヒリするような緊張感がある一方、原作者ギリアン・フリンが自ら手掛けた脚色したストーリーは思いもよらぬツイストを1つも2つも加え、後半は驚いた事に観客席から何度も笑いが上がった。これは結婚にまつわるダークファンタジーだ。オレは本当に妻の全てを知っているのだろうか?妻はオレの全てを知っているのだろうか?オレが見ているのは彼女のほんの一部だけではないか?パートナーに対して少しでもやましい気持ちがある人は怒涛のドンデン返しに震え上がり、結婚前のカップルならば最悪のデート映画となるだろう。

ストーリーテラーとしてのフィンチャーの巧みさが光る。闇夜が映える硬質な映像美、トレント・レズナーとアッティカ・ロスによるクールな音楽は『ソーシャル・ネットワーク』以後のフィンチャースタイルとして定着。そして観客をミスリードするためのキャスティングには悪意すら覚えた。今やオスカー監督にも関わらず、スクリーンに顔を出せばその朴訥さがマヌケな夫役にぴったりなベン・アフレックはそのケツアゴまでネタにされる始末だ(監督としてはフィンチャーの現場を大いに満喫した事だろう)。ちょっとレズっぽい妹役キャリー・クーン、絵に描いたような愛人役エミリー・ラタコウスキー、キモチの悪いニール・パトリック・ハリスら助演陣の顔触れには今やどんな素材でも料理できるフィンチャーの自信が現れている。

何よりこの映画は“ファッキン・アメージング”なエイミー役ロザムンド・パイクの一大ブレイクスルーを堪能する映画だ。ボンドガールとしてハル・ベリーの向こうを張ってから十余年。美貌と年不相応な落ち着きが役柄を狭めてきた感があったが、本作はそんなイメージをひっくり返すにはおあつらえ向きだ。次々とその印象は変化し、ヤッピー!と飛び上がるだけで観客はゲラゲラ笑い転げてしまう。アイスブロンドに低音ボイス、刺すようなクール・アズ・アイス…ラストショットはまさに“氷の微笑”であった。サスペンス映画史に新たな悪女が名を刻んだ瞬間である。


『ゴーン・ガール』14・米
監督 デヴィッド・フィンチャー
出演 ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス、タイラー・ペリー、キャリー・クーン、エミリー・ラタコウスキー
 

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