
第90回アカデミー長編ドキュメンタリー賞ノミネート作。
自転車アスリートのブライアン・フォーゲルが自らを被検体として“果たしてドーピングは本当に効果があるのか?”と臨床実験を始める。モーガン・スパーロックの『スーパーサイズ・ミー』よろしくトンデモとしてスタートする本作だが、何の事はなくドーピングはさしたる効果を挙げずに終わってしまう。その過程でアドバイザーとして登場するのがロシアのドーピング検査機関所長グレゴリー・ロドチェンコフだ。彼の話によるとドーピングは容易く検査をくぐり抜けられるものらしい。
それからしばらくして、スポーツ界を揺るがす一大スキャンダルが発覚する。ロシアによる国家主導のドーピング事件だ。そのまさに実行犯として虚偽の検査を行っていたのがグレゴリーだったのである。スポーツ相の指示でやらされた事を告発した彼はフォーゲルを頼って単身渡米。だが身の危険は刻一刻と迫りつつあった…。
真偽のほどはともかく、プーチン政権の怖さは周知の通り。電波少年的バラエティ・ドキュメンタリーは緊迫のポリティカルスリラーへと変貌し、僕らは戦慄する。平昌五輪を前にした本作の時事性にも驚愕だ。
しかしプーチンは疑惑を逃れ、主導的責任は闇に葬られてしまう。映画は偶発性だけに頼る事なく、オルタナファクトと歴史改竄主義が跋扈する今日、グレゴリーに対し個人攻撃を仕掛ける権力の欺瞞も暴き出す。それは世界との距離を知った主人公フォーゲルの成長の旅路であり、僕たちの目も見開かせるのである。
『イカロス』17・米
監督 ブライアン・フォーゲル
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