長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ひまわり』

2020-11-27 | 映画レビュー(ひ)

 一面に広がるひまわり畑とヘンリー・マンシーニのテーマ曲…このオープニングからうっとり溜息がもれるヴィットリオ・デ・シーカ監督、1970年の名作だ。

 第2次大戦末期のイタリア。ジョバンナはソ連戦線に出征したきり消息の知れない夫アントニオの生存を信じて行方を捜していた。時は遡り、2人の最後の一時が描かれる。兵隊は結婚をすれば11日間の休暇が得られた。前半30分はイタリア映画らしい、大らかなドタバタコメディ調で大いに笑える。

 舞台は変わり、ジョバンナはアントニオの消息を追ってロシアに辿り着く。ろくろく言葉もわからず、寒村を身振り手振りで訪ね歩けば老婆に誘われ、一軒の家の前に辿り着いた。その戸口から若い娘が現れた瞬間、ジョバンナは全てを悟るのだ。
 ソフィア・ローレンの真骨頂は激しく生きるイタリア女の気丈ではなく、繊細な感情表現にある。ここからの一連のシークエンスはほとんど台詞がない。マルチェロ・マストロヤンニ、ソフィア・ローレンの哀切な視線の交錯に身悶えしてしまった。

 この“わびさび”こそ本作が日本で絶大な支持を得た理由ではないだろうか。何より物語になることもなかった男女の悲劇は戦争当時、無数のひまわりの如く存在した。1970年当時はまだそんな“戦争の匂い”が残っていた時代なのだ。


『ひまわり』1970・伊
監督 ヴィットリオ・デ・シーカ
出演 ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ
 

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