長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ペリー・メイスン』

2021-02-05 | 海外ドラマ(へ)

 往年の名作TVドラマ『弁護士ペリー・メイスン』のリブート作だ。舞台は1920年代のロサンゼルス。ペリー・メイスンは弁護士ではなく私立探偵で、幼児誘拐殺人事件の裏に潜む陰謀に立ち向かう。妻子に去られ、くたびれたペリー・メイスンをやさぐれた色気で見せるのは『ジ・アメリカンズ』の名優マシュー・リスだ。明暗際立つ美しいカメラとテレンス・ブランチャードのくすぶるようなトランペットが合わされば、オールドスタイルが何とも心地よい本格ノワールである。リッチなプロダクションデザインと、毎話群衆シーンで見せるダイナミックな絵作りもさすがはHBOだ。製作総指揮を務めるのはロバート・ダウニー・Jr.とスーザン・ダウニー夫妻。かねてより裏方に回りたいと公言していたダウ兄が『アベンジャーズ/エンドゲーム』で天下を取った今、満を持してのリリースである。

 演技巧者揃いのキャスト陣にも性格俳優ダウ兄の志向が伺える。殺害された幼児の母親役には『GLOW』で獣人プロレスラーを演じたゲイル・ランキン。『GLOW』シーズン3(コロナショックによってこれを最後に打ち切りとなった)で、ランキン演じるシーラは演技養成所に通い始め、女優志望の主人公が刮目するほどの才能の片鱗を見せる。まさに本作の爆発的なパフォーマンスに繋がる“伏線”だった
 事件の鍵を握るカリスマ宣教師役には『オーファン・ブラック』のタチアナ・マスラニーが扮し、その母親役には久々リリ・テイラーという個性派女優同士の凝ったキャスティングも面白い。ペリー・メイスンの下請け探偵役で名優シェー・ウィガムが珍しく軽妙な芝居を見せており、こちらもさすがのバイプレーヤーぶりである。

 シリーズ監督はHBOのベテラン、ティモシー・ヴァン・パタンが務めているが、中盤第4~6話では『裸足の季節』で知られるトルコの女性監督デニズ・ガムゼ・エルギュベンが起用されている。第4話、ペリー・メイスンの師匠であり、父親代わりでもあるベテラン弁護士EBは自らの醜聞に絡め取られ、命を絶つ。「女は感情的だ」と宣い、優秀な助手デラをぞんざいに扱ってきた彼だが、EBこそ感情的であり、“老害”だろう。そんな男の身勝手さに憐みを込めるジョン・リスゴーは『ザ・クラウン』のチャーチル役に続く名優の仕事ぶりである。

 ドラマは折り返しの第5話でようやくセットアップを完了し、新生『弁護士ペリー・メイスン』としてスタートする。それまでのノワールドラマから、本来の法廷ドラマへシフトチェンジし、シリーズの雰囲気もガラっと一変。おなじみのキャラクターのオリジンを描くというのがリブートの目標とは思うが、原作に愛着がない身としてはちょっとアがりきれなかった。当初、1シーズンのみのリミテッドシリーズとして製作された事からも所謂“企画モノ”であったと伺えるが、今シーズンの成功を得て続編の製作が決定した。2020年代の『弁護士ペリー・メイスン』として独自性を発揮するのは次からだ。


『ペリー・メイスン』20・米
監督 ティモシー・ヴァン・パタン、デニズ・ガムゼ・エルギュベン
出演 マシュー・リス、ジュリエット・ライランス、クリス・チョーク、シェー・ウィガム、タチアナ・マスラニー、ジョン・リスゴー、ゲイル・ランキン、ロバート・パトリック


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