長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ホークアイ』

2022-03-11 | 海外ドラマ(ほ)

 MCUテレビシリーズ第4弾はアベンジャーズの苦労人、弓の名手ホークアイの単独ソロ作品だ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』から数年後、家族と平穏な生活を送っていたホークアイことクリント・バートンが再び事件に巻き込まれる。

 常々指摘してきたが、エヴァンス、ヘムズワース、プラットらMCUをきっかけにブレイクした新進スターと異なり、既に演技派俳優として評価を確立していたポール・ベタニーやマーク・ラファロ、そしてジェレミー・レナーらを脇役としてMCUに10年間拘束してきた事には功罪があると考えている。彼らのスターバリューを上げたかもしれないが、俳優にとって10年という月日は決して短くない。
 それだけに本作でホークアイのキャラクターが掘り下げられ、レナーに演技的見せ場が用意された事にはようやく溜飲が下がる気持ちだった。クリントは歴戦の負傷によって補聴器なしではほとんど耳が聞こえず、身体も思うように動かない。何より戦友ナターシャ・ロマノフを目の前で失ってしまった経験は彼の心に深い傷を残していた。レナーは『ハートロッカー』『ザ・ダウン』で遅咲きしたギラつきはとうに消え、人生にくたびれた男の枯れの哀愁を醸し出している。

 そして本作では『エンドゲーム』以来、MCUファンの間でしばしば議論されてきた“ナターシャだけ葬式ナシ問題”についに終止符が打たれている。『ブラック・ウィドウ』で初登場したナターシャの妹エレーナ(フローレンス・ピュー)が再登場し、姉の仇であるホークアイを付け狙うのだ。第5話、ナターシャへの想いを独白するレナーはMCUにおけるベストアクトであり、エレーナの存在を知った彼の全てを受け容れたような表情が素晴らしい。

 そんなスーパーヒーローとしてのキャリア総決算に至ったホークアイを大きく揺さぶるのが、初登場となるケイト・ビショップだ。2012年、『アベンジャーズ』のNY決戦でホークアイに救われた彼女はその後、スーパーパワーがなくてもヒーローになれると信じてアーチェリー選手として腕を磨いてきた。演じるヘイリー・スタインフェルドの屈託のない魅力がレナーと思いがけないケミカルを発揮し、作品のトーン&マナーを決定付ける実質上の主役である。中でも共に若手エース格のフローレンス・ピューと初対面する第5話はまるでマイケル・マン監督『ヒート』のデニーロ、アル・パチーノの対峙シーンを彷彿とさせ、これぞオールスターキャストであるMCUの醍醐味と身を乗り出してしまった。

 MCUがどんどんスケールアップし、パワーインフレが起こる中、『ホークアイ』はあくまでNYの中だけで物語が展開し、敵もまるで『バリー』のチェチェンマフィアのようなアホ揃いの“ジャージマフィア”が登場するなど、全体的にこじんまりとしたスケール感が逆にフレッシュで楽しい。中でも第3話はフィジカルアクションと“トリックアロー”を活用したユーモア、そしてアルフォンソ・キュアロン監督作『トゥモロー・ワールド』のようなカーアクションに目を見張った。2021年にリリースされたMCUテレビシリーズのベストアクションと言っていいだろう。

 “マルチバース”の導入によりスケールアップの一途を辿るように見えるMCUフェーズ4だが、空前の大ヒットとなった次作『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』ではこれをあくまでマンハッタンの中に収める“ローカル路線”で展開している。TVシリーズというストーリーテリングを手に入れた彼らはトライアンドエラーを繰り返しながら、巨大なユニバースに大小様々な物語を見出そうとしているのかもしれない。
 

『ホークアイ』21・米
監督 バート&バーティ、他
出演 ジェレミー・レナー、ヘイリー・スタインフェルド、フローレンス・ピュー、ヴェラ・ファーミガ、トニー・ダルトン、アラクア・コックス、ヴィンセント・ドノフリオ

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