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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『レディ・オア・ノット』

2020-07-27 | 映画レビュー(れ)

 パートナーの実家が苦手、という人は少なくないと思う。勝手がわからないから居心地はイマイチだし、そんな時に限ってパートナーはリラックスモードで全く気遣ってくれない…これに近しい思いをした事がある人は『レディ・オア・ノット』が楽しめるハズだ。

 超大富豪の跡取りアレックスと結婚式を挙げたグレース。新婚初夜、彼女は親族が一堂に会す儀式に招かれる。それは先祖代々の習わしによる“殺人かくれんぼ”だった!

 安心してほしい。『レディ・オア・ノット』は一定のスリルはあるし、ジャンル映画らしいサディスティックな描写もあるが、恐怖よりも笑いが勝るブラックコメディだ。花嫁を狙うキチ〇イ一家(でも大富豪)は武器の扱いも覚束なく、方や花嫁は状況を呑み込むやウェディングドレスに黄色のコンバースで走り、戦い、そして終始「ふざけんじゃねーよ!」とブチきれる。グレース役サマラ・ウィービングの威勢の良さがいい。今時の映画には珍しく、喫煙シーンが大事にされており、タバコをカッコよく吸える女優だ(名優ヒューゴー・ウィービングの姪っ子さん!)。

 聞けば監督マット・ベティネッリ・オルピンとタイラー・ジレットが本作の企画を持ち込んだのは2016年のアメリカ大統領選挙の時期だという。そういう意味では本作もトランプ時代の格差社会映画なのだ。そんな事はともかく、血しぶきが上がるほど爆笑せずにはいられないクライマックスをお楽しみあれ。


『レディ・オア・ノット』19・米
監督 マット・ベティネッリ・オルピン、タイラー・ジレット
出演 サマラ・ウィービング、アダム・ブロディ、マーク・オブライエン、ヘンリー・ツェーニー、アンディ・マクダウェル
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『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』

2020-07-17 | 映画レビュー(れ)

 既に無罪が確定している養女への虐待疑惑により、未だアメリカでの公開が叶わないウディ・アレン監督最新作。今回もNYと人生についての小話であり、そこに懲りている様子は見受けられない。人気の若手エル・ファニングにあられもない格好をさせ(騒動がなければここからの数作、常連になっていたかもしれない)、やっぱり若い娘が好きとのたまう。モラル的にどうなんだと断罪はできるが、ウディは昔からこうだった。それを無批判に小粋なラブコメとして持ち上げてきたのが本邦である。今回も手放しの絶賛評が見受けられるが、会話のグルーヴには老いが伺え、覚束ない足取りを名手ヴィットリオ・ストラーロのカメラに支えられている感は強い。それでもその俗っぽさ、そして人生に対するシニカルな批評と諦念は代え難いのである。

 今回、主人公(というかウディ)に扮するのは旬の人気スター、ティモシー・シャラメ。ジジイ、いい加減にしろよと言いたくなる配役だが、シネアストらしく彼の魅力をアイドル映画並みに詰め込んでいる。ピアノを弾き語るシャラメ、ギャンブラーなシャラメ、そして水も滴るいいシャラメ!ファンにはお釣りが来るほどのサービスぶりで、シャラメ自身も猫背に早口で楽しそうにウディ風演技をしている(後に「出演した事を後悔している」と出演料の全額を寄付した)。

 キャスティングもいい。恋人役にエル・ファニング。ジュード・ロウがマイケル・ケイン風の眼鏡をしているのも嬉しい。実存主義的な映画を撮ったばかりに神経衰弱に陥る映画監督という何ともウディらしいキャラクターをリーヴ・シュレイバーが見事に演じている。

 ウディはシャラメの口からこんな事を言わせる「人生はエコノミークラス。楽じゃない」。降りそぼる雨も美しい本作は今や帰る事が叶わないNYへの望郷の念かもしれない。


『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』19・米
監督 ウディ・アレン
出演 ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、ジュード・ロウ、リーヴ・シュレイバー、ディエゴ・ルナ、セレーナ・ゴメス、チェリー・ジョーンズ
 
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『ザ・レポート』

2019-12-10 | 映画レビュー(れ)
 
 9.11以後、CIAは次なるテロの情報を掴むべく、容疑者に対してシステム化された拷問プログラムを実践していた。それが結果的に全く効果を上げなかった事はおろか、死亡者まで生んでおり、これらの事実を組織的に隠ぺいしたのである。
本作は上院スタッフのダニエル・J・ジョーンズが実に5年の歳月をかけて膨大な記録書類を精査し、この事実を暴き出すまでを追っている。

監督、脚本を務めたスコット・Z・バーンズはやはり脚本を手掛けた『ザ・ランドロマット』の飄々とした筆致から一転、余分な人間ドラマをオミットして事実だけを列挙するジャーナリスティックな演出で、この並々ならぬ気迫に牽かれた主演アダム・ドライバーも諸突猛進の力演だ。バーンズのストイックな姿勢はやや生真面目が過ぎるきらいもあるが、日本の表現者もまずは爪の垢を煎じて飲むべきだろう。ジョーンズは言う「僕らの世界では紙は法を守るためにあるんだ」。描かれる三権分立を象徴するかのようなアネット・ベニングの重厚さも素晴らしい。

いやはや、頭の下がる映画だが、僕らも下を向いてばかりはいられない。毎日のように大統領がフェイクを垂れ流すアメリカ国民のみならず、今や法治国家とは程遠い嘘と隠ぺいにまみれたここ日本の観客にも大いに突き刺さるだろう。


『ザ・レポート』19・米
監督 スコット・Z・バーンズ
出演 アダム・ドライバー、アネット・ベニング、コリー・ストール、マイケル・C・ホール、モーラ・ティアニー、ティム・ブレイク・ネルソン、テッド・レヴィン、ジョン・ハム
 
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『LEGOムービー』

2019-09-24 | 映画レビュー(れ)

毎年誰がノミネートされたかより、“誰がノミネートされなかったか”の方が盛り上がる気がするアカデミー賞。2014年度は本作の落選が驚きを持って伝えられた。他のどの候補作品よりもヒットし、批評家からも大絶賛されながら長編アニメーション賞ノミネートでその名前が呼ばれる事はなかった。子供向けおもちゃを使ったアニメなんて芸術性がない?LEGO動画はYouTubeのネタにすぎない?そんな“既成概念”にケリを入れるのが本作だ。

定番を思わぬやり方でひっくり返すのが監督フィル・ロード、クリス・ミラーの得意技だ。刑事バディアクションの定石を外しに外してセンス・オブ・ワンダーへと昇華させた『21ジャンプストリート』は最高に笑える大快作だった。本作でもギャグとアクションはたっぷりに、終幕で“アニメ”という表現媒体すら取っ払って僕らの度肝を抜く(これがオスカー選外の理由かも)。遊び方は1つじゃない。既成概念に捉われるな。想像力と好奇心で可能性は無限に拡がる。それこそがLEGOというオモチャの魅力そのものじゃないか!

温かいテーマを裏付ける創り手の知性が心地良い。オスカー落選を受けて監督は自身のTwitterに「いいもんね、自分で作ったから」とLEGO製オスカー像をアップした。その数年後、『スパイダーマン:スパイダーバース』でオスカーを受賞した彼らは、LEGO製オスカー像の横に本物を並べて飾っているという。


『LEGOムービー』14・米
監督 フィル・ロード、クリス・ミラー
出演 クリス・プラット、ウィル・フェレル、エリザベス・バンクス、リーアム・ニーソン、モーガン・フリーマン
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『レイチェル』

2019-03-18 | 映画レビュー(れ)

アルフレッド・ヒッチコック監督『レベッカ』の原作者として知られるダフネ・デュモーリアの小説『My Cousin Raechel』の映画化。
19世紀、イギリス。養父アンブロワーズが養生先のスペインで病没、その未亡人レイチェルが訪ねてくる。アンブロワーズから莫大な財産を受け継いだ主人公フィリップは次第にレイチェルの聡明な美しさに魅了されていく…。

おそらく原作はレイチェルの正体を巡るミステリーに主軸が置かれていると推測できるが、脚本も手掛けたロジャー・ミッチェル監督と主演レイチェル・ワイズは彼女を妖婦ではなく、時代の犠牲者という現代的な解釈で描いている。レイチェルは亡き夫の面影を求めて渡英してきた哀しき寡婦であり、遺産に興味がない事は明確だ。誰かに所有される事を嫌い、自由を強く望む。この言葉よりも感情が先走るワイズの情熱的な演技はオスカー受賞作『ナイロビの蜂』を彷彿。聡明で自立心旺盛なヒロイン像は彼女の専売特許と言っていいだろう。

だが、時代はそんな自立した女性を良しとはしなかった。おそらくアンブロワーズもフィリップ同様、レイチェルを“所有”しようとしたのだろう(フィリップにおいてはろくに女性の扱いも心得ていない節がある)。悲劇的な結末の末にフィリップが課せられる罪悪感はしかしながら、今日に至るまで我々は共有する事なく来てしまったのである。

『レイチェル』17・英
監督 ロジャー・ミッチェル
出演 レイチェル・ワイズ、サム・クラフリン、ホリデイ・グレンジャー、イアン・グレン
 
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