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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『真夜中まで』

2019-12-03 | 映画レビュー(ま)

上京して20年近くになるが、東京も変わった。
街はチェーン店ばかりになり、住宅街は一戸建てを潰して集合住宅ばかりになった。時に危険で猥雑だった繁華街は違法な呼び込みを防ぐ注意アナウンスがけたたましく流れ、風情の欠片もない。かつての眠らない街は今や人影もまばらだ。

 99年に製作され、2001年に公開された本作はまだ楽しかった頃の夜の東京がかろうじて収められている。監督は先頃亡くなったイラストレーター、エッセイストとしても知られる和田誠だ。
 カメラが夜の東京の繁華街から裏通りへと入り、そのままふわりと雑居ビルの窓に入り込む。心地よい夜気と仄かなアルコールをも錯覚させるこの素晴らしいオープニングから、和田が夜の東京を楽しんできた事がよくわかる。ジャズバーではトランぺッターの真田広之がマイルスを吹く。キザで結構。東京の夜はときめいてこそだ。

ひょんな事からトランぺッターは美女を助ける。いつだって美女はワケ有りだ。真田が手を引いて駆け抜ける街の明かりは無味乾燥なLEDではなく、アンバーな色合いの灯体であり、街はこんなにも明るく夜闇を照らしたのかと驚いた。

ハードボイルドを照れ隠すように真田、岸部一徳、國村隼、柄本明ら名優が愛嬌のあるチャーミングな芝居を見せている。そんな所からも和田のパーソナリティが伺える粋な小品である。


『真夜中まで』99・日
監督 和田誠
出演 真田広之、ミッシェル・リー、岸部一徳、國村隼、柄本明、笹野高史、春田純一
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『マジック・イン・ムーンライト』

2019-09-11 | 映画レビュー(ま)

ウディ・アレン監督の2014年作。
舞台は1920年代、中国人の仮装で奇術を行うイリュージョニストのコリン・ファースは友人からインチキ霊媒師のトリックを暴いて欲しいと頼まれる。富豪にかこわれ、亡くなった家族の触媒となっているのがアレン映画初登場となるエマ・ストーン。かくして2人は丁々発止のやり取りを繰り広げながら、やがて恋に落ちていく。

このプロットであればもちろん、ウディはストーンにベタ惚れなわけで、彼女は登場シーン毎に衣装が変わるまさに七変化で映画を自分のものにしている(『ギター弾きの恋』のサマンサ・モートンと似た、やや年齢の幼い衣装にウディの性癖を感じる)。
方やコリン・ファースはオスカー獲得後も身のこなしは軽く、これまで何度も演じてきた気難しい英国紳士役が意外や1920年代英国版ウディ・アレンと呼びたくなる親和性だ。

ナルシシスティックなウディ節は控え目、話芸で魅せるものの、親子ほど年の違う2人が恋に落ちてハッピーエンドを“ロマンチック”と楽しむのはいい加減どうかな、という気はしなくはない。


『マジック・イン・ムーンライト』14・米、英
監督 ウディ・アレン
出演 コリン・ファース、エマ・ストーン、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ジャッキー・ウィーバー、アイリーン・アトキンス、サイモン・マクバーニー
 
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『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女】

2019-07-31 | 映画レビュー(ま)

冒頭、ユニバーサル映画のロゴが裏返ると現れる“Dark Universe”の文字。マーベルやDCに続けとユニバーサルが自社のホラーアイコン吸血鬼や狼男、そしてミイラを競演させる一大プロジェクト“ダークユニバース”の始まりだ。この栄えある第1弾は『ハムナプトラ』シリーズとしても大ヒットした『ミイラ再生』のリメイク、主演は現存する最後のスーパースターと言っても過言ではない我らがトム・クルーズ。万全の体制…のハズだった。

この『ザ・マミー』は批評家から酷評され、興行的にも大惨敗した。
無理もない。“ダークユニバース”が一体どこを目指したいのか、全くのノーコントロール状態なのだ。トムが珍しく冒険野郎を飄々と演じ、『インディ・ジョーンズ』よろしくアドベンチャー映画を目指すのかと思いきや、家族連れにはやや厳しいダークで暴力的なホラー描写が目立つ(かと言って、大人が満足できるレベルの物でもない)。リメイク元が同じなだけに明朗な『ハムナプトラ』が恋しくなってしまった。脚本には今やトム御用達の職人クリストファー・マッカリーが参加しているが、作品を救うには至っていない。

今やセルフプロデュース作の方が多い印象のあるトムにとって雇われ主演の本作は見劣りする仕上がりだが、それでも唯一無二のスターオーラで作品を自分の物にしている。最近のトム主演作は敵も味方もそのオーラにヤられて“トム大好き!”という雰囲気になっているのがファンにとっては微笑ましく、本作もミイラ女王(ソフィア・ブテラ)がトム恋しさに大暴れする。そりゃそうだよね!


『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』17・米
監督 アレックス・カーツマン
出演 トム・クルーズ、アナベル・ウォーリス、ソフィア・ブテラ、ジェイク・ジョンソン、コートニー・B・ヴァンス、ラッセル・クロウ
 
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『マップ・トゥ・ザ・スターズ』

2018-12-08 | 映画レビュー(ま)

聖林=ハリウッドを支えてきたもう1つの要素が陽光の影でまことしやかに囁かれてきた噂、醜聞の数々だろう。殺人、ドラッグ、妄執、亡霊、近親相姦…華やかなショービジネスと相反するこれら腐臭は人々の好奇心を刺激して止まない。デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督『アンダー・ザ・シルバーレイク』はそんなハリウッドバビロンの奇譚が記号として無限に連なった怪作だった。

巨匠クローネンバーグは今更なぜそんなテーマを選んだのだろう?
二世女優のハバナ(ジュリアン・ムーア)は若くして焼死した母(妖艶なサラ・ガドン)の亡霊に悩まされ続ける。アイドルスターのベンジーは難病少女を見舞った後、影に怯える。この2人をつなぐのがベンジーの姉アガサ(ミワ・ワシコウスカ)だ。過去にある事件を起こしたアガサはハリウッドを追われ、精神病院に入れられていた。彼女の顔には事件の証である火傷の痕が残っている。アガサのハリウッド再訪は周囲の人々の狂気を深めていく…。

 これまでも有名スターを起用してきたクローネンバーグだが、意外なことにアメリカでの撮影は初という。そんな事からもハリウッドへの冷やかさは大いに想像がつく。ハリウッドという魔窟が人の精神に変容を来すのか、本作はそんな巨匠ならではの心理実験だ。だが『ヒストリー・オブ・バイオレンス』や『イースタン・プロミス』、
『コズモポリス』『危険なメソッド』と続いてきた諸作の中で今更な題材という感は拭えず、見劣りする。本作でカンヌ映画祭女優賞を獲ったジュリアン・ムーアはさすがの神経症演技だが、彼女のベストアクトではない。鮮血と詩吟が似合うミア・ワシコウスカの仄暗い美しさこそクローネンバーグ映画的と記しておこう。


『マップ・トゥ・ザ・スターズ』14・米、加、仏、独
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
出演 ジュリアン・ムーア、ミア・ワシコウスカ、ロバート・パティンソン、ジョン・キューザック、オリヴィア・ウィリアムズ、サラ・ガドン
 
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『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』

2018-11-24 | 映画レビュー(ま)

レベッカ・ミラー監督が自ら脚本を務めた本作はなかなか男性に手厳しい1本だ。主人公マギー(グレタ・ガーウィグ)は子供が欲しいけど結婚には興味がなく、学生時代の同級生ガイから精子の提供を受けようとする。そんな時、同じ大学に勤める妻子持ちの学者ジョン(イーサン・ホーク)と恋に落ちてしまい…。

現代口語映画“マンブルコア”の旗手であるガーウィグと、その先駆者とも言えるリチャード・リンクレイター組イーサン・ホークの共演は最上のアンサンブルだ。ガーウィグはどこか憎めないおっとりしたマギーを好演。ジョンのボヘミアンなだらしのなさは“ビフォアシリーズ”でも見せてきたホークのパーソナリティみたいなものだ(そういう意味で本作は“ビフォアシリーズ”のユニバースにも見える)。ここにジュリアン・ムーア、ビル・ヘイダー、マヤ・ルドルフら演技巧者らが加わり、キャスト陣は充実している。

マギーはジョンと結婚、程なくして娘が生まれる。だがマギーのだメンズ気質がそうさせたのか、ジョンは小説を書くだけで全く生活能力がなかった。「愛が冷めた」と悟ったマギーは何とジョンを前妻(ジュリアン・ムーア)の元に“返品”しようとする。

 おいおい、いくらジョンが利己的だからといって妻子ある彼を略奪婚したことが正当化されるのか。いや、これはひょっとしたらイザベル・アジャーニからダニエル・デイ・ルイスを略奪したレベッカ・ミラーの実体験が色濃いのかも知れない。結婚してみれば靴作りにハマり、かと思えば『ギャング・オブ・ニューヨーク』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』撮影中には四六時中、凶悪な役柄になり切っていたデイ・ルイス。そんな彼を見て「こんなハズでは」「返せるものなら返したい」なんてミラーは思ったのかも。物語に集中するにはあまりに共感できるキャラクターが少ない映画だった。


『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』15・米
監督 レベッカ・ミラー
出演 グレタ・ガーウィグ、イーサン・ホーク、ジュリアン・ムーア、ビル・ヘイダー、マヤ・ルドルフ
 
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