goo blog サービス終了のお知らせ 

長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『カメラを止めるな!』

2018-08-07 | 映画レビュー(か)

※ネタバレ有り※

邦画界、今年最大の話題作だ。製作費わずか300万円、たった2館での上映ながら口コミが口コミを呼び、本稿執筆時点で全国124館へ拡大公開が決定。都内シネコンではハリウッド大作と肩を並べるスクリーン占有率という一大ブームを巻き起こしている。低予算映画ならではのアイデアと情熱、そして溢れんばかりの映画愛がタイプキャストと類似企画の横行する邦画界において観客の心を鷲掴みにした格好だ。

映画はとある廃墟で行われているゾンビ映画の撮影現場から始まる。遅々として進まぬ撮影に怒りを爆発させる監督。ゾンビ役俳優をどつき、アイドルまがいの女優に怒鳴る「おまえのやってる事はぜ~んぶ嘘なんだよ!」「(感情は)出すんじゃない。出るんだよ!」。そこへ突如、本物のゾンビが出現。1人、また1人とクルー達が犠牲となっていく。「これだよ、これ!」と“本物”に歓喜する監督。彼はこの惨状を収めるべく、カメラを回し続けるのだが…。

…と、おそらくこうして書いている僕の文章が一番面白いハズだ。なぜなら俳優達の芝居は間延びし、スタッフは見切れ、ストーリーは支離滅裂。野心的な長回しもオペレーションがされておらず、グダグダな仕上がりなのである。映画館内には「ダメだこりゃ」と虚しい空気が立ち込めていた。

おっと、ここまで。
あなたがこの映画を見に行く予定ならこれ以上、前情報を入れない事をオススメする。
なぜならこの冒頭で感じた失望感は全て大いなるギャグの前振りなのだ。『カメラを止めるな!』はゾンビ映画からなんと三谷幸喜も顔負けの楽屋裏コメディへと大転調する。もちろん、映画を見続けてきた人は“このネタならもっと死ぬほど笑わせてくれ”と言うところだが、本作最大の功績は“邦画ってこんなもんでしょ?”という閉塞感をぶち破った事にあるのではないだろうか(そして世界にはもっと面白い、素晴らしい作品がたくさんある事も知らしめてくれている)。本作のヒットをきっかけにより多くの才能に陽の目が当たる事を期待したい。

それにしても全編に渡って“このカメラは誰が撮っているのか=映画とは何か”という映画哲学もつきまとっている。このシネフィル気質もまさか計算の内?まぐれ当たりと侮れない映画である。

『カメラを止めるな!』17・日
監督 上田慎一郎
出演 濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、他
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』

2017-05-26 | 映画レビュー(か)

 今やマーベル・シネマティック・ユニバースの一番人気と言っても過言ではない『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』、待望のVol.2だ。
前作で銀河を危機から救ったピーター・クイルら一行は宇宙の賞金稼ぎ(何でも屋?)を続けていた。優勢人種で構成されたタカビーで嫌味なソヴリン人の依頼で、貴重な宇宙電池を巨大怪獣から守る戦いから映画はいきなり始まる。ベビー・グルートがノリノリで踊る後ろではオープニングクレジットと、ボッコンボッコンに吹っ飛ばされるガーディアンズの面々が(笑)さぁ、今回も冒頭からノリノリだ。

マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)の中でも特大のヒット作となった『ガーディアンズ~』の続編を、ジェームズ・ガン監督はかなりの自由度で撮っている事が伺える。MCU作品ではかならず盛り込まれる他作品とのリンクはほぼ皆無。この次作を気にした“つなぎ”作業にジョン・ファヴローも、ジョス・ウェドンもどれだけ泣かされたことか。
ガンは夏のブロックバスターとしては極めて異例な事に、アクションやスペクタクルよりも主人公ピーターと父親の絆、そしてガーディアンズの離散と結束という人情劇にかなりの時間を割いている。近年、TVドラマが映画と遜色ない予算規模でスペクタクルとドラマを両立させているが、この感触に近いペース配分だ。明確な敵が登場しないためか、前作の『スター・ウォーズ』ロスを埋めてくれたようなスペースオペラ感は弱冠、薄められてしまっている。

普通ならば中ダルみしかねない試みだが、前作以上に快調なガーディアンズのキャストアンサンブルによって、この綱渡りはギリギリ成功している。絶好調のクリス・プラット、セクシーなゾーイ・サルダナはもちろん、デイヴ・バウティスタが達者になっている事に驚いた。今回、彼演じるドラックスに笑わせられた場面がどんなに多かった事か。ポム・クレメンティーフ演じるファニーなマンティスとの組み合わせは今年最高のスクリーンカップルだ。もちろん、毒舌アライグマのロケット役ブラッドリー・クーパーも舌好調。別録りでどうしてあのグルーヴ感が出せるのだろう?

そして驚くことに本作はマイケル・ルーカー押しである。
誰かって?
ジェームズ・ガン監督の全作に出演してきたこの強面俳優は全身ブルーの宇宙人ヨンドゥ役であらゆる場面をさらい、最後には観客の涙を搾り取る。『ナイトライダー』⇒『クリフハンガー』⇒キャット・スティーブンス『父と子』のスーパーコンボは泣くしかないだろ!いや、この映画を世界で一番喜んでいるのはデビッド・ハッセルホフか。わかる奴だけわかればいい。さぁ、ガーディアンズ、次回はいよいよアベンジャーズと合流だ。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』17・米
監督 ジェームズ・ガン
出演 クリス・プラット、ゾーイ・サルダナ、デイヴ・バウティスタ、ブラッドリー・クーパー、ヴィン・ディーゼル、カート・ラッセル、ポム・クレメンティーフ、エリザベス・デビッキ、シルベスター・スタローン
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『カイト KITE』

2017-03-05 | 映画レビュー(か)

 『デッド・コースター』『セルラー』『スネーク・フライト』といったB級映画の監督として認知されてきたデヴィッド・E・エリスが、かねてより企画していた梅津泰臣による同名アニメの実写版。ところがエリスはロケハン中の南アで急逝し、本作のカメラを回す事は叶わなかった。遺志を継いだサミュエル・L・ジャクソンは出演契約を続け、脚本もエリスが死守したオリジナルに近いバージョンで撮影されたという。これまでのB級テイストとは違うハードなSFバイオレンスにエリスがどれだけ本作に入れ込んでいたのか、そして彼の傑作になるハズであった事は容易に想像がついた。惜しまれる死である。

惨殺された両親の復讐を果たそうとする美少女暗殺者サワの戦いを描く本作。さすがにジャクソン扮するアカイの手籠めにされるエロ描写は再現しなかったが、名前の由来を明かすシーンで“砂羽”と漢字が当てられるなど、こだわりが深い。サワ役はオリヴィア・ハッセーの娘インディア・アイズリー。正統派ではない美少女で、同じアクション美少女としてはクロエ・モレッツちゃんよりも陰があるのがいい。アクションも様になっており、もっとブレイクしてもいいのになぁと思う。

 決して出来の良い映画というワケではないが、自分の撮りたい映画のためにコツコツと頑張ってきた男を称えるスタッフ陣の姿勢は嫌いじゃない。


『カイト/KITE』14・米、メキシコ
監督 ラルフ・ジマン
出演 インディア・アイズリー、サミュエル・L・ジャクソン
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ガール・オン・ザ・トレイン』

2016-12-07 | 映画レビュー(か)

 主人公レイチェルは通勤電車の車窓から見える1人の女性に妄想を募らせていた。彼女の名前、夫の名前、職業、そして2人の愛に満ちた生活…。ところがある日の車窓でレイチェルは彼女が夫以外の男と仲睦まじくしている姿を目撃してしまう。自身も夫に裏切られた過去を持つレイチェルの中で、次第に名前も知らぬ彼女への得体の知れない感情が膨れ上がっていく…。

ラブコメ、アクション、ミュージカルとあらゆるジャンルをこなす当代きっての万能女優エミリー・ブラントにとってレイチェル役のアル中演技もどうという事はなかっただろう。勤め人から重度のアルコール中毒、そして…といった具合に物語が進むにつれレイチェルへの印象が変わり、果たして彼女の一人称は正しいのか?という“信頼のおけない語り部”となっていく展開が面白い。というか、明らかに殺人犯にしか見えない展開に日頃、記憶を無くすまで飲んでしまう諸兄諸姉は血の気が引くこと請合いだ。

 映画はレイチェルはじめ3人の女性の一人称で物語を異なる角度から何度も語り直し、事件の全貌を明らかにしていく。レイチェルから見れば夫を寝取った憎きアナも、視点を変えれば夫の元妻にストーキングされるか弱い妻アナに変わる。大ブレイクを果たした
『ミッションインポッシブル/ローグ・ネイション』の後ではほんの肩慣らし程度であろうレベッカ・ファーガソンがアナに扮している。

物語の中心となる車窓の女メガンに扮した新鋭ヘイリー・ベネットの、もの憂い気な独特の色気がいい。見方を変えれば誰にもその孤独を理解してもらえなかった哀しい女の物語とも見て取れる。

 近年、米TVドラマ界の興盛によってハリウッド映画が余暇の楽しみにすらならないと感じていたが、テイト・テイラー監督の叙述の巧さ、ダニー・エルフマンの硬質な音楽、女優陣の魅力といった映画ならではの“技”に改めて唸らされた充実の1本だ。


『ガール・オン・ザ・トレイン』16・米
監督 テイト・テイラー
出演 エミリー・ブラント、ヘイリー・ベネット、レベッカ・ファーガソン、ジャスティン・セロー、ルーク・エヴァンス
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする