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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『インフェルノ』

2017-10-03 | 映画レビュー(い)

2006年に全世界で大ヒットしたダン・ブラウン原作、『ダ・ヴィンチ・コード』を初めとする“ロバート・ラングドンシリーズ”の第3作。『ダ・ヴィンチ・コード』は豪華キャスト共演の娯楽大作だったが、ほとんどトンデモの域であるプロットは論争の価値すらなく、ロン・ハワードの気のない演出も手伝ってこの年のワーストと言っていい仕上がりだった。

 今回は国際的な陰謀に巻き込まれたラングドン教授が失われた記憶を辿るというシンプルなプロットになっており、一応の推進力は得ている。ハワードは精彩を欠いているのではなく、むしろいかに安く、リッチな見た目に仕上げるかという師匠ロジャー・コーマンのイズムを継承しているのだと考えるべきだ。しかし、巨匠監督のそんな節約製作では今やTVドラマよりも見劣りしてしまうのが現状である。ただ太っているだけのトム・ハンクスも非常に見栄えが悪く、一流レストランでコンビニ弁当を出されたような釈然としない読後感だけが残るのであった。


『インフェルノ』16・米
監督 ロン・ハワード
出演 トム・ハンクス、フェリシティ・ジョーンズ、オマール・シー、ベン・フォスター、イルファン・カーン
 
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『ザ・イースト』

2017-05-07 | 映画レビュー(い)

 Netflixのオリジナルドラマ『The OA』でも話題を呼んだ監督ザル・バトマングリと脚本、主演ブリット・マーリングのコンビ第2作目。FBIからリクルートされた捜査官マーリングが環境テロ集団ザ・イーストに潜入する…というサスペンス映画なのだが、そこはこの2人。ジャンルの皮を被って彼ららしいツイストとメッセージを込めた快作だ。

環境テロというのは環境汚染や薬害などを引き起こした企業をターゲットとする暴力行為を指す(シーシェパードなんかもこれに当たるのだろう)。本作ではこの標的となった企業に向けて営業を仕掛ける調査会社が登場する。FBI捜査官マーリングはこの一般企業にリクルートされ、テロ集団“ザ・イースト”へ潜入する事になるのだ。
バトマングリとマーリングの特色は物語設定をより強固にするディテールの異様なまでの作り込みだ。『The OA』では物語の大半が監禁部屋で進行するのだが、監禁映画史上類を見ない機能美とオーガニックさによって作られた独房が目を見張る。全面がガラスで仕切られ、5人が互いに向き合いながら個別に捕らえられている。各自の部屋には観葉植物が置かれ、床には飲料としても排水としても使える側溝が流れ…。

『ザ・イースト』では森の奥深く、朽ち果てた洋館で暮らすテロ集団の独自の生活形態が面白い。
拘束具に身を包み、手を使わずに咥えたスプーンで相手へ分け与える食事の儀式。材料は既成品を購入せず、全て拾い集めた残飯だ。沐浴はまるで洗礼式のようであり、このある種の宗教性に彼らの正義心がナルシズムと表裏一体であることが伺える。マーリングが初めて屋敷を訪れるシーンの異世界への入り口にように見える林道は、艶めかしい夜間撮影もあって抗し難い魔力を放つ。

リーダー役アレクサンダー・スカルスガルドの理想主義的な貴公子像や、参謀役エレン・ペイジの濡れて光る病的な陰りがいい。ペイジは『JUNO』でブレイクしたが、『ハードキャンディ』のサイコパスのような、底知れない役柄でも魅力を発揮する稀有な女優だ。レズビアンである事をカミングアウトしてから露出が減ったように思えるが、どうなのだろう。

当初“フツーの女の子”として登場するマーリングは、潜入を開始すると次第にいつもの透明感、誰にも近寄れないオルタナティブな輝きを放ち始める(そもそも、潜入モノにおける“潜入”とは自己の発見、実存についての探求に他ならない)。開腹手術をするシーンにすら漂うこの神々しさは一体どこから来るのか。手話が劇中に取り入れられており、続く『The OA』での“5つの動作”同様、彼女がフィジカル表現に強い関心を持っていることもわかる。

 このマーリングならではの存在感があってこそ、ラストにはゾクリとさせられる衝撃性がある。誰にも媚びないそのクールな作劇は“バトマングリ×マーリング”というオルタナミュージックのような、独自のジャンルを形成しつつある。


『ザ・イースト』13・米
監督 ザル・バトマングリ
出演 ブリット・マーリング、アレクサンダー・スカルスガルド、エレン・ペイジ、パトリシア・クラークソン
 
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『インデペンデンス・デイ リサージェンス』

2017-02-11 | 映画レビュー(い)

夏だ!映画だ!宇宙人侵略だ!
天災と続編映画は忘れた頃にやってくる。1996年のメガヒット作『インデペンデンス・デイ』20年ぶりの続編だ。
96年という時代のせいか、前作は今見ると非常に呑気なアメリカ万歳映画だったが、嫌いになれない魅力があった。宇宙人による圧倒的な破壊のカタルシス、大統領から市井の人々まで入り乱れたパニック映画としてのアンサンブル、そして何より当時、新たな代表作を得る事の出来なかったジェフ・ゴールドブラムを復活させ、ウィル・スミスを大スターへと押し上げた功績は大きい。映画ファンが一番に押す映画ではないが、多くの人々に好かれた映画だった。

残念ながらこの続編はこれだけのブランクを得ながら何一つ十分な企画開発が行われておらず、魅力を受け継ぐ事に失敗している。賢明なウィルはアメコミ映画に乗り換えてしまったため、実質上の主役不在。ゴールドブラムはこの20年でウェス・アンダーソン組に入ってしまったので、大作SF映画にはあまりにオフビートが過ぎる。カリスマ的な大統領役で人気を博したビル・プルマンはその後、デヴィッド・リンチの怪作『ロスト・ハイウェイ』に出演した事からも分かる通り、元来このジャンルに向かない人である。

となれば新進スターに頑張ってもらいたいところだが、リアム・ヘムズース、マイカ・モンローらは説明セリフだらけの憐れな脚本によってペラッペラの紙みたいな人物を演らされている。

それもこれも完全にピークを過ぎたローランド・エメリッヒ監督の責任であり、タメのないスペクタクル描写の数々は少しもスリルとサスペンスを生み出さないという異常事態に発展している。こんなにハラハラドキドキしないサマームービーなんてありかよ!そもそも救難信号を受けてやってきたのに同じ物量作戦とか、インデペンデンス・デイ星人も準備悪すぎだよ!

“宇宙人侵略モノ”とは時代を映す鏡でもある。
 映画では度々、エイリアンに時代の仮想敵国が反映されてきた。96年の前作には“アメリカの敵は宇宙人くらい”という能天気さがあったが、本作には敵(テロリスト)は全員ぶち殺せ!という気配が伺える。前作の戦いを経た事によって世界から紛争がなくなったという基本設定は9.11以後の今、意義深いが、やたらと好戦的な幕切れと言い、トランプ時代の不穏な空気感だけは反映された娯楽作だなぁと思った次第。


『インデペンデンス・デイ リサージェンス』16・米
監督 ローランド・エメリッヒ
出演 ジェフ・ゴールドブラム、ビル・プルマン、リアム・ヘムズワース、マイカ・モンロー、ジョーイ・キング、シャルロット・ゲンズブール
 
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『イット・フォローズ』

2016-10-20 | 映画レビュー(い)

 ギャー怖ェえええ!2014年に全米で大ヒットを記録し、批評家から大絶賛されたホラー『イット・フォローズ』は身の毛もよだつ恐怖と緊迫感に貫かれた傑作だ。“セックスをすることで感染する呪い”というセンス・オブ・ワンダーなアイデアはデヴィッド・ロバート・ミッチェルのリリカルな個性によって恐ろしくも甘美な悪夢となって映画館の闇を犯していく。

ヒロインのジェイは19歳。健康的な肢体とまばゆいプラチナブロンドがデトロイトの郊外住宅には不釣り合いな美少女だ。処女は既に捨てているが、年上のカレとのデートにときめくくらいのウブさは残っている。ところがカーセックスを終えた後、ジェイは襲われ意識を失ってしまう。

目覚めたジェイにカレは言う「君にある呪いをうつした。それはゆっくりと、だが確実に君を追いかけてくる。捕まって殺される前に誰かとセックスしてうつせ」。

人の形をした人ではない何か。
“IT=それ”は時にレイプされ殺された腐乱死体のような姿で、時に知り合いの誰かに成りすまして静かに、ゆっくりと呪いの対象者をめがけて歩いてくる。こんな絶望的なホラーアイコンが今まであっただろうか!?

ジョン・カーペンター、デヴィッド・リンチ、もちろん『リング』以降のJホラーへオマージュを捧げながらもこの映画が独自のオリジナリティを得たのは“IT=それ”に立ち向かうジェイら若者たちの間に“性”の匂いが漂うからだろう。
“IT=それ”から逃れるためにジェイは次々と男達と寝ることを選んでしまうのだが、彼女が人知れず流す涙をミッチェル監督は見逃さない(健康的な色気の中に繊細さを隠すマイカ・モンローに注目だ)。幼馴染のポールはジェイのことが好きなだけに“IT=それ”をうつしてほしいと思っているが言い出せず、彼女へ寄せる視線には未熟な性欲が匂う。まだあどけなさが残るおしゃまな妹達はセックスを知る姉に好奇の目を向けている。

そんな彼らの暮らすデトロイトの住宅地から8マイルを挟んだ向こう側は廃墟の並ぶゴーストタウンだ。生と死の表裏一体。サバービアの向こうには“死”が拡がっている。

青春時代の終わりを告げるものとは何なのか。
それは若さを謳歌する者が歩み寄る死の存在を知った時ではないのか。
 プールの奥底で無限に広がる血溜りに得体の知れない恐怖を覚え、腹の底から震えがきた。


「イット・フォローズ」14・米
監督 デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演 マイカ・モンロー
 
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