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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『エージェント・マロリー』

2017-03-09 | 映画レビュー(え)

 遊ぶように撮る。この果敢な実験性、フットワークの軽さこそソダーバーグだ。“総合格闘技界の女帝ジーナ・カラーノ主演でアクションを撮る”、おそらくはそんなワンアイディアからスタートしたであろう本作にはありとあらゆるセンス・オブ・ワンダーが注ぎ込まれている。時制はシャッフルされ、カメラは1シーンたりとも同じショットを使わないとばかりにトリッキーに動き回る。そして立ちはだかるハリウッド人気スター男優たちをカラーノはフルボッコにしていく。チャニング・テイタム、マイケル・ファスベンダー、ユアン・マクレガーらアクション経験のある彼らでもホンモノには敵わない。おまけにカラーノには振り付けられた殺陣でも大いに魅せる華がある。その後の彼女の活躍はご存知の通り。ワイスピ軍団やX-MENを相手に強烈な存在感を放ってきた。今後は単なるアクション要員の域を超えた活躍を見せてくれるのではないだろうか。

 B級プロットをシャンパンカラーのようにゴージャスなライティングで撮り、映画の質を1つも2つも上げてしまうソダーバーグ。
『マジック・マイク』といい、この時期の彼には軽妙洒脱な職人技があり、魅せる。


『エージェント・マロリー』11・米
監督 スティーブン・ソダーバーグ
出演 ジーナ・カラーノ、チャニング・テイタム、マイケル・ファスベンダー、ユアン・マクレガー、マイケル・ダグラス、アントニオ・バンデラス、ビル・パクストン
 
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『AMY エイミー』

2017-02-22 | 映画レビュー(え)

 2011年に急逝したソウル歌手エイミー・ワインハウスの半生を追ったアカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞作。タブロイド紙による“酒とドラッグに溺れた破天荒アーティスト”というイメージが強かったが、素顔の本人は音楽好きのチャーミングな、いたってフツーの娘であり、自身に起きた恋愛ごとを歌うような繊細な人物であった事がわかる。だからこそ、出会った男が悪かった。浮気性で自意識の高い男に振り回され、酒とドラッグを覚えさせられたエイミーは功名心にはやる父に退路も断たれ、マスコミの餌になってしまったのだ。

ファンでない人には伝記モノとしての機能を果たしているが、作り手の考察はなく、これだけではドキュメンタリーとしての洞察は浅いと言わざるを得ないだろう。果たしてエイミー・ワインハウスとは何者だったのか?と位置付けるような大胆さがあっても良いのではないか。“イタいセレブ”という叩き甲斐のあるネタとして慰み物にしたマスメディアと一線を画さなくては長編ドキュメンタリーとしての意義はない。アカデミー長編ドキュメンタリー部門は時折、いまいちな選択をするのである。


『AMY』15・英、米
監督 アシフ・カパディア
 
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『MI5:世界を敵にしたスパイ』

2016-11-07 | 映画レビュー(え)
 “ジョニー・ウォリッカー・シリーズ”完結編となる第3作目。カリブ海に浮かぶ英領タークス&カイコス諸島で首相の資金洗浄の実態を掴んだジョニーは、愛するマーゴと共に島を脱出。ヨーロッパに潜伏し、反撃の時を伺っていた。しかし、包囲網は刻々と迫り…。一話完結で続いてきたこのシリーズだが、本作は完全に第3幕目扱い。ドラマチックな逃亡劇、ジョニーと黒幕との戦い等、これまでの抑制の効いた演出から一転、見せ場連続のダイナミックな完結編となった。

無表情を貫くジョニーからは彼を動かす正義の衝動がなかなか見えてこない。
のらりくらりとした立ち振る舞いは演じるビル・ナイの飄々とした個性による所が大きく、重要指名手配の凄腕スパイ(肩書的にはジェイソン・ボーンと同じ!)なのに銃ナシ、車ナシの手ぶらで悠々自適な逃亡生活を送っている姿はユーモラスな味わいすらある。

そんなジョニーが凄味を見せるのがクライマックスだ。怪優としての貫禄もたっぷりなレイフ・ファインズ扮する英国首相との直接対決でジョニーは反逆の動機を「仕事を奪われたからだ」と明かす。冷戦期、世界を股にかけたスパイの仕事はスマホとドローンに奪われ、国家を背負った矜持すらも過去の遺物とされてしまった。これは既得権益で国を大義なき戦争に加担させた時の政権とアメリカへの反撃なのだ。

ところがこれでは終わらない。情報を操作し、首相のクビを据え変えたジュディ・デイヴィスこそ本作最大の黒幕である(そう、MI5の仕事は国内の諜報活動なのだ)。何とはないカフェで繰り広げられる名優たちの引き算を信条とした演技合戦こそこの“ジョニー・ウォリッカーシリーズ”を象徴するミニマリズムであろう。久々に大きな見せ場を得たデイヴィスの圧巻の老獪さは名女優の本懐だ。

最高にクールな幕引きをするビル・ナイに惚れ惚れしてしまう。若作りではなくジジイのままクールである事のカッコよさを示してくれた。
 

『MI5 世界を敵にしたスパイ』14・英
監督 デヴィッド・ヘア
出演 ビル・ナイ、レイフ・ファインズ、ヘレナ・ボナム・カーター、フェリシティ・ジョーンズ、オリヴィア・ウィリアムズ、ジュディ・デイヴィス
 
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『MI5:灼熱のコンスパイラシー』

2016-10-24 | 映画レビュー(え)
 ビル・ナイ主演、デヴィッド・ヘア監督・脚本による“ジョニー・ウォリッカーシリーズ”の第2弾。前作『消された機密ファイル』(=原題PAGE EIGHT)の好評を受けて製作された完結編2部作の前半だ。

米軍のテロリスト拷問施設建設に英国首相の主導的関与の証拠を得たMI5諜報員ジョニーは追われる立場となり、米国領タークス&カイコス諸島で潜伏生活を送っていた。悠々自適の隠居生活…ではなく、マネーロンダリングの温床となっているこのタックスヘイブンでジョニーは英国首相への反撃を試みる。
2016年に明るみとなった“パナマ文書事件”を予見したかのようなプロットがいい。英国映画には権力に対して批判的、風刺的描写ができる健全性がある。

プロットは前作以上に複雑だが、オールスターキャストの極上のアンサンブルだけを追っても十二分に楽しめる。無表情で飄々としたビル・ナイの出過ぎず霞まずの個性があってこそ、脇役が存分に機能するのだ。

ビル・ナイとの英米2大怪優対決となったクリストファー・ウォーケンや、久しぶりのウィノナ・ライダーらが実力に見合った役を得ているのが好もしい。ヘレナ・ボナム・カーターが貴婦人役でも地獄の使い役でもなく現代劇で年齢相応の役を好演しているのも嬉しいではないか。

ジョニーの行動原理は英国紳士たるプリンシプルである。
国家の大事を前にしても好きな女性が困っていればそれが大事へと変わり、手を差し伸べずにはいられなくなる。ジョニーは老いて洗練されたジェームズ・ボンドなのだ。
 

「MI5:灼熱のコンスパイラシー」14・英
監督 デヴィッド・ヘア
出演 ビル・ナイ、ウィノナ・ライダー、ヘレナ・ボナム・カーター、クリストファー・ウォーケン、レイフ・ファインズ、ユエン・ブレムナー
 
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『エクス・マキナ』

2016-09-06 | 映画レビュー(え)

 アレックス・ガーランドによる初監督作は低予算ながらセンス・オブ・ワンダーに満ちたヴィジュアルと知性に訴えるシナリオ、そして躍進著しい若手3人の演技合戦が魅力の1本だ。

巨大検索サイトでプログラマーとして働くケイレブは社内懸賞に当たり、伝説的社長ネイサンの住む山荘に招かれる。しかし、彼が呼び出された本当の理由はネイサンが開発したAI=人工知能のチューリングテストを行う事だった。そのAIとはガラス細工のような機械の体に絶世の美女の顔を持ったエヴァというロボットで…。

 2人のテストを見ていると僕たちは「ひょっとして試されているのはケイレブ(人間)側ではないだろうか?」と気づくはずだ。徹底された演出の下、豊富なニュアンスを込めたエヴァ役アリシア・ヴィキャンデルの身体表現は清廉潔白、無垢そのものでありながら、そもそも人間の存在など少しも意に介していないのではないかという怖さも同居する。オスカー受賞の
「リリーのすべて」より格段と記憶に残るブレイクスルーだ。

 方やケイレブ役ドーナル・グリーソンも好投が続く。ずばりナチスそのものを連想させた
「フォースの覚醒」の悪役、荒野にエレガンスを持ち込んだ「レヴェナント」、そして純朴なIT青年の本作と彼の演技的好奇心が伝わるカメレオンぶりである。
社長役オスカー・アイザックも演技への知的好奇心が伺える俳優だ。実はAIをセクサロイドとしか見ていないその下卑な本性が本作の裏テーマにもなっている。

 これまで幾度も語られてきたマシンの反乱モノと読むのはもちろんだが、これは男に助けられるのでもなく自らの力で男を倒し、自由を手に入れる女性性の叛乱こそがテーマなのではないか。プラグインするでも電送するでもなく、耳打ち1つで全てを覆すエヴァの魔性に鳥肌が立った。改めてムーヴメントとなりつつあるウーマンリヴ映画の隠れた先鋒としても記憶しておきたい1本である。



「エクス・マキナ」15・英
監督 アレックス・ガーランド
 出演 ドーナル・グリーソン、アリシア・ヴィキャンデル、オスカー・アイザック、ソノヤ・ミズノ
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