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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ドクター・ストレンジ』

2017-03-14 | 映画レビュー(と)

 マーヴェルの快進撃が止まらない。ここに来てMCU最高の評価を獲得し、単独ソロデビューとしても過去最高のヒット作となった。いよいよアメコミファン以外には知名度のないドクター・ストレンジなるキャラだが、そこはマーヴェル。最旬スターを引っ張ってきた。ベネディクト・カンバーバッチ、ついにMCU合流である。

マーヴェルのキャスティング慧眼は今回もドンピシャだ。原作キャラへのフィットはもちろんだが、それ以上に“映画スター”というものへの愛が感じられて気持ちいい。高慢ちきな天才キャラはもはやベネ様の十八番。そんな彼が交通事故によって医師の道を断たれ、魔術師として再起していくまでをタップリ時間をかけて描いている。『アイアンマン』と構成が丸っきり同じ事に不安を覚えるかも知れないが、きっとダウ兄との共演も大成功すると信じようじゃないか。ベネ様は魔法詠唱動作もヒーローのお約束マント姿もバッチリ決まっているぞ。

そんな彼の師匠役にティルダ・スウィントン、敵役にはマッツ・ミケルセンという欧州異能俳優競演のキャスティングにもマーヴェルの映画ファンらしいこだわりが感じられる。いつかは共演するだろうと思っていたが、まさかマーヴェルで実現するとは思ってもみなかった。特にティルダ様は国籍も年齢も判然としない不思議キャラで、人外役ならお手の物の彼女にはうってつけだ。ここにヒロイン役でオールアラウンドな好感度の高さを持つレイチェル・マクアダムスを配したマーヴェルのバランス感覚の良さといったら!

 大都市で繰り広げられる魔法バトルが見どころだ。
『インセプション』よろしく騙し絵のように捻じれる大都市を上へ下へと飛び交うトリッキーな3Dアクションはパワーインフレ気味のMCUに新機軸を持ち込んでいる。強大過ぎて良くわかんないラスボスに思いもよらない方法で勝利するクライマックスまで“魔法”というガジェットをあの手この手で応用している。

 続くアベンジャーズ第3弾
『インフィニティ・ウォー』でいよいよ合流するドクター・ストレンジこそ、これまた強大過ぎる敵サノス打倒のキーマンになるのでは!?何よりベネ様の加わったオールスターキャストがどんなアンサンブルで魅せてくれるのか、大いに楽しみだ。


『ドクター・ストレンジ』16・米
監督 スコット・デリクソン
出演 ベネディクト・カンバーバッチ、レイチェル・マクアダムス、マッツ・ミケルセン、ティルダ・スウィントン、ベネディクト・ウォン
 
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『ドント・ブリーズ』

2017-01-08 | 映画レビュー(と)

ぎゃー怖ぇええ!
デトロイトの荒廃したスラム街。空き巣を繰り返していた3人の若者が交通事故の示談金を隠し持っているという盲目の老人宅に押し入る。ところが老人はあらゆるを音を聞き分け、素手で人を殺すことのできる殺人マシーンだった!古い一軒家に閉じ込められた若者たちは息を殺し、決死の脱出を試みる。

『ドント・ブリーズ』は所謂“ナメてた相手が殺人マシンでした映画”だが、バイオレンスのカタルシスではなく、徹底してミニマルを極めた演出によって恐怖映画として成立しているのが特徴だ。物音1つ立てる事のできないシチェーションだから、ホラー映画の常套句であるショック音もスコアも封印。床のきしみ、衣擦れ、ガラスのひび、そして呼吸音…サディスティックなまでの音響配置にいつしか劇場内からはポップコーンを漁る音も消え、観ている僕らが息をするのを忘れてしまった程だ。

早々に舞台となる一軒家に潜り込むや88分間ほぼ家の中だけで展開する筋運びも魅力だ。縦横無尽のカメラワーク(素晴らしい長回しが2度ある)が観客に家の構造を認知させ、緊迫感を増幅。犬の使い方もしつこいくらいで、これだけ限られたシチェーションなのにあの手この手で観客を怖がらせるフェデ・アルバレス監督の演出は洗練を極めている。

興味深いのは2016年の本作がデトロイトを舞台にしている事だ。
 トランプを大統領に選んだ人々の一部は“ラストベルト”と呼ばれる旧工業地域に取り残された白人層だったという。かつて国産自動車の製造で栄華を極めたデトロイトはその後、日本車の普及により衰退し、街はスラム化した。主人公ロッキーはこのスラム街から脱出を目指して盗みを働き、老人は湾岸戦争退役後に周囲との繋がりを絶って暮らし続けている。格差が進み、特権階級に「思い知らせてやれ」とトランプに投票したように、自分さえ良ければ後はどうでも良いというエゴとエゴがぶつかり合う映画としても見て取れるのだ。ロッキーには何度も大金を諦めて逃げるという選択肢があるし、老人の怖ろしさは異常な能力以上に「自分は正しい」という思い込みだ(その極みが地下室のアレ)。『ドント・ブリーズ』は紛れもなく現在(=いま)の映画であり、ホラー映画が興盛した2016年を代表する1本である。


『ドント・ブリーズ』16・米
監督 フェデ・アルバレス
出演 ジェーン・レヴィ、ダニエル・ゾヴァット、ディラン・ミネット
 
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『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

2016-09-19 | 映画レビュー(と)

 50年代、共産主義者に対する思想弾圧“赤狩り”によってハリウッドを追われた伝説の脚本家ダルトン・トランボを描く伝記映画。トランボが本来持っていた思想、信条に対する言及がない等、突っ込み不足の感はあるものの、当時の風俗や業界内幕が再現されているのは楽しく、時代を知るサブテキストの1つとして数えておきたい作品だ。

議論となれば必ず相手を打ち負かしたという明朗さと、そして誰にも負けない頑固さを持ったトランボをブライアン・クランストンはさすがの芸達者ぶりで快演している。『ブレイキング・バッド』終了後の初主演でさっそくオスカー候補に挙がってみせた。見た目の似せ方もさすがなもので、トランボのトレードマークとも言える“バスタブでの執筆”は画になる生き写しぶりだ。酒とタバコでしゃがれたあの独特の声音まで再現してみせており、何より親分肌の快男児が持っていた反骨のスピリットと、決して無粋さで闘わなかったユーモアと知性を体現しているのである。

業界から干され、生活が困窮する中、B級映画を専門とするキング兄弟の下で覆面スクリプクトドクターとして日銭を稼ぎ続けた彼が“どうしても書きたい作品”として筆を取ったのがオスカーを受賞する事となる『黒い牡牛』であり、これを機にハリウッドでの立場が見直され始めていく。

旅先で見た闘牛と、熱狂する大衆の中で一人悲嘆に暮れる少年の姿。この光景が忘れられなかったというトランボは少年と動物の友情を描きながらも、刺されても突かれても闘い続けた黒い牡牛の不屈の闘志にこそ本質を求め、脚本を“Brave One(=原題)”と題したのである。

 『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』はトランボの諸作を見ておけばより理解が深まるが、本作を観た後にトランボ作品を見るのもアリだ。秘められた葛藤、強い意志を知る事で名作がより味わい深くなる。伝記映画にはそんな楽しみもあるのだ。

 

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」15・米
監督 ジェイ・ローチ
 出演 ブライアン・クランストン、ダイアン・レイン、ジョン・グッドマン、ヘレン・ミレン、エル・ファニング
 
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