「まぐろ その24(外国人観光客編)」
生臭い匂いがふんわりと漂ってきた。店主である剛司はその匂いの方向に目をやる。するとそこに立っていたのはマグロであった。実に見事なそのマグロは時価にして300万はするほどであろう、剛司は瞬きをしながら、らっしゃい、とつぶやいた。マグロを客と認識した自分に驚きながら、しかしマグロが店の商品をまじまじと眺めている風はまさしく客そのものであったため、長年の商売魂がそうさせたのであった。剛司の店は、主に海外からやってくる旅行客相手にザ・日本という商品を法外な価格で売りつけるそれであった。マグロは一通り店内を回ると、日本刀のおもちゃに異様な興味を示した。銀紙を張り付けて濁った光を放っているそれは店の人気商品のひとつではあった。外国人は肩を押したようにそれを手にとり、ニンジャ、サムライ、などと口にし、購入していくのだ。マグロはそれを手にとり、けーん、と鳴いた。ニンジャ、とつぶやいたのかもしれない。それからしばらくその日本刀を睨んだまま動かなくなった。ピクリとも動かないマグロはそれはそれで美しかった。沈黙に耐えられなくなった剛司は、それ人気っすよ、と声をかけた。敬語を使えばよいのか、その微妙だったので、っすか、口調になってしまったのである。さてマグロ、剛司の声を聞いて、何も答えず、ちょうどアメリカ人がする、わかりません、のジェッシャーをした。剛司は異様に腹が立った。
生臭い匂いがふんわりと漂ってきた。店主である剛司はその匂いの方向に目をやる。するとそこに立っていたのはマグロであった。実に見事なそのマグロは時価にして300万はするほどであろう、剛司は瞬きをしながら、らっしゃい、とつぶやいた。マグロを客と認識した自分に驚きながら、しかしマグロが店の商品をまじまじと眺めている風はまさしく客そのものであったため、長年の商売魂がそうさせたのであった。剛司の店は、主に海外からやってくる旅行客相手にザ・日本という商品を法外な価格で売りつけるそれであった。マグロは一通り店内を回ると、日本刀のおもちゃに異様な興味を示した。銀紙を張り付けて濁った光を放っているそれは店の人気商品のひとつではあった。外国人は肩を押したようにそれを手にとり、ニンジャ、サムライ、などと口にし、購入していくのだ。マグロはそれを手にとり、けーん、と鳴いた。ニンジャ、とつぶやいたのかもしれない。それからしばらくその日本刀を睨んだまま動かなくなった。ピクリとも動かないマグロはそれはそれで美しかった。沈黙に耐えられなくなった剛司は、それ人気っすよ、と声をかけた。敬語を使えばよいのか、その微妙だったので、っすか、口調になってしまったのである。さてマグロ、剛司の声を聞いて、何も答えず、ちょうどアメリカ人がする、わかりません、のジェッシャーをした。剛司は異様に腹が立った。
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