リッスン・トゥ・ハー

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列車に絡み付いたヤスデ、寂しいと死んじゃうから

2010-11-27 | リッスン・トゥ・ハー
ヤスデの腕はたくましい。なんという太さだろうか、私はそれをはじめてみて、米兵を思い出した。米兵のたくましく、優しい腕を。彼はたしか、マイケル、とか言った。はじめから私に対して特別に優しかった。私が幼い頃好きだった女の子に似ていると言っていた。あるいはそれは嘘だったのかもしれない。私を口説くための戯れ言だったのかもしれない。しかしダカラなんだというのだ、何の問題もない、そんな嘘ならどんどんつけばいい。私はマイケルとのめくるめく欲望だらけの生活を送っていた。お互いの利害が一致した結果だった。私は向こう2年ほど働かなくていいほとどの金銭を得た。私は何もいらないと言ったけれどマイケルが無理矢理私の部屋においていった金銭だった。私達、恋人じゃないの、と詰め寄ることはしなかった。そんな愚問、私が言えるわけない。不幸じゃないのか、と言われることもあった。そうかもしれない。私達は結ばれない運命、どうあがいたところで、最終的に別れてしまう運命。それでよかった。一瞬の逢瀬で私はすべてを注いだ。文字通りすべてを。若気の至りだとは言わない。今でもマイケルに出会ったとしたら同じことをするだろう。私はそういう女だ。ヤスデはうごうごとうごめいている。その肉体で、列車を止めている。車掌が叫んでいる。仲間を読んでいる。電車を止められるのは心外なのだろう。私はどうでもいいけれど、とそのヤスデの顔を見ると、マイケル。なんだマイケルじゃないの、私は嬉しさで体中が満たされて、動けなくなった。マイケルは私に気付いたようで、じっと私の顔を見た後、ハロー、と言った。


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