リッスン・トゥ・ハー

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ひちょり横浜入りの日、強い雨が降っていた

2010-12-04 | リッスン・トゥ・ハー
ひちょりは急いで横浜に向っていた。時間がない。大切な日であるのに、今日に限って寝坊してしまった。どうして目覚ましは鳴らなかったのだろうか、ひちょりは頭をひねる。彼自身が無意識のうちに目覚ましを止めたにすぎないのだが、ひちょりは認めたくなかった。さらにひちょりの部屋にやってきた管理会社の人間が訳の分からないことを言いはじめたせいだ。通報があった、下に住んでいる方から、上の階がやけにうるさい、拝んでいるような声が聞こえる、気味が悪い、やめてほしいとのことです、と管理会社は言った。ひちょりは、拝んでいません、何かの間違いです、そんな趣味はありませし、別の人じゃないですか、と返した。しかし位置的に、あなたの部屋から発せられているとしか考えられません。だって全く声はおろか音だって立ててないんだから。そうですか。そうです。引き下がると思われた管理会社はさらに、では中に入ってもよろしいか、と尋ねてきやがった。いやですよ、掃除もできてないし。とすると怪しいなあ。なに言ってんですか、別に何もないですよ、勝手に部屋に上がられるのが嫌なだけで。では今日は帰りますが、今度叫んだら、警察犬呼びますから。警察犬?知り合いにいるんですよ警察犬が。知り合い?覚悟しておいてくださいよ。はあ。ひちょりはあまり深く考えることはやめた。ようやく帰ってくれる。そうこうしているうちに、時間は過ぎていく。ああ、すごく怒られるだろうな、とぼんやり考えた。怒られるのは嫌だった。もうこのままいかんとこうかな、とも考えた。強い雨が降っていて、濡れるのも嫌だった。しかし行かないでいると、あとでさらに怒られてしまう。ひちょりは仕方なく用意をすることにした。下の階から、拝んでいる声が聞こえてきた。最初は小さいものだったが次第に大きくなり、気付いたら耳元で叫ばれているような感覚になってきた。なるほど、これはうるさいし、不気味だ。しかし俺じゃないから、なんか怨霊みたいなもんでしょ。今度管理会社の奴がきたら教えてやろうと思った。用意ができて部屋から出ると、管理会社の奴が大声で拝んでいた。深い理由は聞かなかったが、ひちょりは管理会社のみぞおちを深くついて愛車に乗った。


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