リッスン・トゥ・ハー

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まぐろ その19(外国人観光客)

2009-01-07 | リッスン・トゥ・ハー
「まぐろ その19(外国人観光客編)」


困っていた。
ムーアは道に迷い非常に困っていた。海外旅行中の彼女は見知らぬ土地でひとり、言葉も分からぬまま、道に迷い途方にくれていた。なんとか意思疎通を図ろうとも、この国の人間はムーアを見ると避けるように目をさらして通り過ぎていく。
マグロがムーアの肩をたたいた。粘液でねっちょりとなったがムーアは気にする様子もなくまくし立てた。ただ心細かったのだ、時価にして300万はするであろう立派な黒マグロであろうと関係なかった。ムーアには黒マグロの魅力が分からなかった。ただの魚介類だと言う認識しかなかった。それも幸いした。マグロはムーアの話を聞いてうなづいた。そして、目をじっと見つめた。ムーアもマグロの目をじっと見つめた。音楽が、ムード歌謡に変わり、二人は今にも歌いだしそうな勢いで踊った。言葉は要らなかった、こうすればいい。ムーアも、マグロもそのひと時は幸せであった。やがて、ムーアはマグロに連れていかれた魚市場で暖をとり、海に沈んだ。マグロも続いて沈んだ。マグロは海に帰っただけであったが、ムーアは死んだ。当然ながら死んだ。マグロはそれほど何も考えていなかった。全国紙でもハリウッド女優心中か!?だと騒がれたが、マグロは元気だったのでとんだ見当違いだった。